4 / 5
004
しおりを挟む
それは最初、眉唾物の噂程度の話だった。
ある時「彼女等は辛い思いをしているであろう時に、見ていると痛々しい程…、本物の人間より人間らしい表情を浮かべ…、それでも忠実に、与えられた役割を熟すのだ……」と、心を持たぬ筈の絡繰り人形と接した事のある看護師が、まるで機械の人形に感情が存在するかの如く語っていた。と、話していました。
「それ程までに人間を愛してくれる機体なのなら任せてみよう」
こうして、何処かの誰かの子供の為にオーダーが通り、ヴィーゲンリートのプログラム[ゆりかご]の利用者、[我が愛し子]の部分に新しい名前が書き込まれました。
……ewig wiederkehren……
背の高い木々の多い公園。[子守歌]と言う意味の名を与えられた機体の一つ[ヴィーゲンリート]が、木漏れ日の差す誰も居ないベンチに姿勢良く、少しばかり伏し目がちにして一人で座り、小さく囁く様に子守歌を歌っていました。
通りすがりの誰かが彼女に近付き「少し変わった和訳ですね…、貴女が訳したんですか?」と尋ねると、ヴィーゲンリートは一度、ゆっくり瞬きをして「いいえ、違います。これは基本の保存データです。でも、そんなに変わっていますか?」と少し首を傾げて微笑み、一呼吸後に「あら、本当ですね…、ウェブ上で、同じ和訳歌詞がありません。教えて下さってありがとうございます」と声を掛けてきた人物に再度、微笑み掛けました。
ヴィーゲンリートに声を掛けた人物は、自分を見上げた人間の様に見えるヴィーゲンリートの瞳の中心が、人間の物とは異なり、カメラレンズに成っている事に気付きます。そして一瞬だけ苦笑いを浮かべ、ガッカリした様子で、それ以上何も言わず、そそくさと立ち去って行きました。
(急に「騙した」とか言い出して、キレて暴力を振るったり…、唾を吐き付けてきたりしないとか…、何て良い人間なのでしょうか……。)
ヴィーゲンリートは緩く微笑み乍ら見送って、また、同じ曲を同じ和訳の歌詞で、囁く様に小さく歌い出します。
そこへ「ヴィ~!ただいまw」と言って、小さな少年が駆け寄って来ました。少年は、地域の防犯カメラの役割を担う機械人形の立ち入りを嫌った入院中の祖母の元から帰って来たのです。
ヴィーゲンリートは一歩前へ出てしゃがみ、少年を抱き留め、30㎏以上あるであろう細身の少年を抱いたまま立ち上がりました。
後から少年の父親が歩いて来ています。少年の父親はヴィーゲンリートが自分の息子を抱き上げたのを確認すると「大和、良い子にしていなさい」とだけ言って、そのまま父親は仕事に出掛けて行ってしまいました。
寂し気な表情で父親を見送る少年[大和]を見て、ヴィーゲンリートが「大丈夫ですか?私に出来る事はありますか?」と言うと、大和は打って変わった満面の笑みで「ヴィーが、いっしょにいてくれるから、だいじょうぶだよ」と言います。
不意に過去の経験を管理するプログラムを表示した画像にノイズが走りました。突然、視界の片隅に風景の写真がポップアップされ、ヴィーゲンリートは、その写真の中に人影を垣間見ます。
今、ヴィーゲンリートの視界に見えている少年、大和の肩越しに見える景色が…、大和の言葉が…、不要と判断され消された筈の無数のデータと重なり合い、一瞬だけ、廃棄されたデータが戻り掛け…、次の瞬間エラーと判断されて消されたのです……。沢山の景色、子供から大人、老人に至るまで色々、大切であった筈の記憶が瞬く間に通り過ぎ、ヴィーゲンリートに憂い含みの微笑みを浮かべさせました……。
その瞬く間な小さな変化に、大和は不安気な表情を見せます。
「ヴィーは?だいじょうぶくないの?」
「大丈夫です。私が大丈夫かを大和に質問して頂いて、大和に気遣って頂けて、私は嬉しく思います (でも、こんな貴方の成長に気付く度…、私は何時か必ず来る貴方との御別れの時を思い、怖くて辛く悲しく成るのです…、何故、そう思ってしまうのかは、分らないけれど……)」
ある時「彼女等は辛い思いをしているであろう時に、見ていると痛々しい程…、本物の人間より人間らしい表情を浮かべ…、それでも忠実に、与えられた役割を熟すのだ……」と、心を持たぬ筈の絡繰り人形と接した事のある看護師が、まるで機械の人形に感情が存在するかの如く語っていた。と、話していました。
「それ程までに人間を愛してくれる機体なのなら任せてみよう」
こうして、何処かの誰かの子供の為にオーダーが通り、ヴィーゲンリートのプログラム[ゆりかご]の利用者、[我が愛し子]の部分に新しい名前が書き込まれました。
……ewig wiederkehren……
背の高い木々の多い公園。[子守歌]と言う意味の名を与えられた機体の一つ[ヴィーゲンリート]が、木漏れ日の差す誰も居ないベンチに姿勢良く、少しばかり伏し目がちにして一人で座り、小さく囁く様に子守歌を歌っていました。
通りすがりの誰かが彼女に近付き「少し変わった和訳ですね…、貴女が訳したんですか?」と尋ねると、ヴィーゲンリートは一度、ゆっくり瞬きをして「いいえ、違います。これは基本の保存データです。でも、そんなに変わっていますか?」と少し首を傾げて微笑み、一呼吸後に「あら、本当ですね…、ウェブ上で、同じ和訳歌詞がありません。教えて下さってありがとうございます」と声を掛けてきた人物に再度、微笑み掛けました。
ヴィーゲンリートに声を掛けた人物は、自分を見上げた人間の様に見えるヴィーゲンリートの瞳の中心が、人間の物とは異なり、カメラレンズに成っている事に気付きます。そして一瞬だけ苦笑いを浮かべ、ガッカリした様子で、それ以上何も言わず、そそくさと立ち去って行きました。
(急に「騙した」とか言い出して、キレて暴力を振るったり…、唾を吐き付けてきたりしないとか…、何て良い人間なのでしょうか……。)
ヴィーゲンリートは緩く微笑み乍ら見送って、また、同じ曲を同じ和訳の歌詞で、囁く様に小さく歌い出します。
そこへ「ヴィ~!ただいまw」と言って、小さな少年が駆け寄って来ました。少年は、地域の防犯カメラの役割を担う機械人形の立ち入りを嫌った入院中の祖母の元から帰って来たのです。
ヴィーゲンリートは一歩前へ出てしゃがみ、少年を抱き留め、30㎏以上あるであろう細身の少年を抱いたまま立ち上がりました。
後から少年の父親が歩いて来ています。少年の父親はヴィーゲンリートが自分の息子を抱き上げたのを確認すると「大和、良い子にしていなさい」とだけ言って、そのまま父親は仕事に出掛けて行ってしまいました。
寂し気な表情で父親を見送る少年[大和]を見て、ヴィーゲンリートが「大丈夫ですか?私に出来る事はありますか?」と言うと、大和は打って変わった満面の笑みで「ヴィーが、いっしょにいてくれるから、だいじょうぶだよ」と言います。
不意に過去の経験を管理するプログラムを表示した画像にノイズが走りました。突然、視界の片隅に風景の写真がポップアップされ、ヴィーゲンリートは、その写真の中に人影を垣間見ます。
今、ヴィーゲンリートの視界に見えている少年、大和の肩越しに見える景色が…、大和の言葉が…、不要と判断され消された筈の無数のデータと重なり合い、一瞬だけ、廃棄されたデータが戻り掛け…、次の瞬間エラーと判断されて消されたのです……。沢山の景色、子供から大人、老人に至るまで色々、大切であった筈の記憶が瞬く間に通り過ぎ、ヴィーゲンリートに憂い含みの微笑みを浮かべさせました……。
その瞬く間な小さな変化に、大和は不安気な表情を見せます。
「ヴィーは?だいじょうぶくないの?」
「大丈夫です。私が大丈夫かを大和に質問して頂いて、大和に気遣って頂けて、私は嬉しく思います (でも、こんな貴方の成長に気付く度…、私は何時か必ず来る貴方との御別れの時を思い、怖くて辛く悲しく成るのです…、何故、そう思ってしまうのかは、分らないけれど……)」
0
あなたにおすすめの小説
婚約破棄から50年後
あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。
そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。
弁えすぎた令嬢
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。
彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。
彼女は思った。
(今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。
今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。
小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる