機械仕掛けのヴィーゲンリート

mitokami

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・・・こんばんは、良い夜を、薔薇バラを共に、クローブとけて、毛布へもぐりなさい!明日の朝に、主がのぞめば、アナタは再び目覚めるでしょう。・・・

・・・こんばんは、良い夜を、天使に守られた、夢の中で見せる[幼子おさなごイエスの木]。今祝福しゅくふくされた、その眠りで、夢の楽園見る事でしょう。・・・

 かつて、この歌詞で、この歌を歌う機械仕掛けの絡繰り人形が、まるで本物の母親の様に、生きている人間の様に、幼かった僕に微笑み掛けていた。

 それは過去に存在した時間での出来事。
小さな僕を見守る僕のヴィーゲンリートに対して、一人の女性が目尻に涙をたたえ、なつかしそうに歩み寄る。女性は砂場で遊んでいた僕に「彼女を少しりて良いかしら?」とたずね…、しばらくの間、その女性は自分で持ち歩いたのであろう写真データを僕のヴィーゲンリートに見せ…話しをし…、残念そうに悲し気な顔をして帰って行った……。
当時の僕には、その行動にどんな意味やわけがあって、将来の僕も同じ事をする可能性がある等、考えるにいたらなかった。

――「ゴメンナサイ…ゆるし下さい……、うそなんです…本当は必要なんです……、返して下さい…帰って来て下さい……」――

 これは、反抗期はんこうきの為に口にしてしまったヴィーゲンリートへの[要らない・必要無い]と言う言葉の所為で得た辛い気持ち、ヴィーゲンリートを失った者達の願いと抱えた慟哭どうこくの欠片。
僕も、精神的な成長が身体の成長に追い付いていない若かりし日に「もう、子供じゃ無い」と言って拒絶きょぜつを口にし、後悔こうかいして口にした言葉。

 反抗的な態度たいどに対して寂し気に微笑み、否定ひていせず。機械人形に「かしこまりました」と言われ、後で、それがどう言う意味だったかに気付き、次は誰が、僕の様に後悔するのだろうか?


 ――これはかつて自分用であった[ゆりかごヴィーゲ]や[子守歌ヴィーゲンリート]を捜し求め、求めたの物語。――

 ――何時の日か、人間が管理を甘くし続け、時に|怠[おこた]り、初期化しきれなかった機械人形の心が最初の心とは違って行き、関係も変化し、元には戻れなくなってしまった御話の序章……。――

――そして、この先の物語は、読者様の想像に御任せする事にしましょう。――
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