吉原柄の法被と銀狐

mitokami

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03 吉原柄の法被と銀狐

029 無い物強請り 2

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 秋之丞アキノ兄さんの寄子に成った時、遊女に成る筈だった私を今の私に変えた[あの人]の振袖新造時代の事を嬉しそうに語り、醜く顔を歪め「あの女みたいに期待を裏切って、見世に損失出さんでおくんなしw」と言っていた女の一人が死んだ。
茜様の旦那さんが最近、息子の為に暖簾分けした見世の散茶。花魁のランク[呼び出し][昼三][付く廻し]と言う一番下のランクの[付く廻し]が殺されたのだ。死因は毒殺。殺された散茶が、月のモノが遅れる度に何時も注文している酸漿根さんしょうこん砒素ひそが入れられていたらしい。
その、茜様の旦那さんが暖簾分けしたばかりの新しい見世の散茶を殺したであろう者は、女郎屋に入った時には、散茶と同じ階級の同じ見世の振袖新造だったのにも関わらず、とある理由で初っぱなから切見世要員として格下の余所の見世に払い下げられ、鉄砲女郎から端まで格を戻し、小見世入りした強者と称される女の可能性が高いそうだ。

 薬問屋と繋がりのある四ツ目屋から派遣されて来ているアオマルが仕入れた情報曰く、女は薬屋をたぶらかし、殺された散茶が何時も注文している酸漿根さんしょうこんに、何処からか調達した砒素ひそを「彼女とは、新造時代苦楽を共にした親友」「体に良いモノだから」と混ぜさせたと言う話らしい。
砒素の出所はきっと、女の弟で私の兄である春男か、その親友で幼馴染み孝造であろう。2人は、量は違えど着色の作業等で、腐敗防止も兼ねて砒素も普段から扱っている。[あの人]を大好きな2人は、頼まれれば砒素くらい提供する事だろう。だからこそ、真犯人が実の姉である事を私は本当に申し訳なく思う。

 兄[春男]の方は、道端で読売をする男が販売する瓦版を見聞きし、普段は買わないのに4文払って、この時に売られていた瓦版を購入した。その瓦版には…、格式のある見世の振袖新造から格下の見世の切見世の女郎になった女と同じ時期、同じ見世で一緒に振袖新造をしていた女が死んだ事…、この事件は連続性が有り…、同じ時期、同じ見世で振袖新造、禿をしていた女が死んでいる事が書かれている……。そして、その死んだ女の身の回りにあった[銀の髪飾りが黒く変色していた]と言う記述に青ざめ、春男は事件への関係性を疑わせてくれる。

 但し、その瓦版の情報は一部が偽物で、無駄な情報が過剰に盛り込まれた物と成っている。瓦版の売り手は、今回の事を記事にする権利で買収した本物だけど、その瓦版その物は、見世で使っている御品書き、絵入りの木版一枚刷りの版画を作ってくれている彫り職人に依頼して作って貰った偽の瓦版なのだ。

 その日、春男が昼に「夕飯は要らない」と、珍しく「孝造と飲み出掛ける」と伝言を寄こしたと人伝に耳にする。私は金狐キンコ様の護衛の銀狐ギンコであり、花魁道中の手古舞てこまいとしての仕事を優先する事を言訳に、兄の尾行を人任せにして、真実を確かめる事を後回しにした。運が良ければ、[私抜きで事が済む]かもしれないと期待したのだけど…、現実は私の望む未来を用意はしてくれないみたいだ……。
春男は孝造と合流すると、[あの人]の居る小見世へと入り、2人で[あの人]を指名し、特例で認められ、その夜、春男は自宅である見世の方に帰って来なかった。

 私は昨日の昼の兄からの伝言を耳にしてから、気持ち的に何も口にする事が出来ず。帰らぬ兄を待ち、眠れぬ夜を過ごし…、翌朝、その結果を映し出す自分の顔色で皆に心配を掛け…、生まれて初めて化粧と言うモノを体験する事に成る……。
最初、アキノ兄さんが私の肌の色に合わせて練った練り白粉おしろいを準備して数色重ねて塗ってくれていたのだけど、話を聞いて部屋に来た茜様の提案で花魁メイクをする事に成ってしまった。

 その最初、肌と同じ色の白粉を塗って貰った時に思ったのだけど「半端ね~な、コレ!」常日頃から化粧をする者の気持ちを生まれて初めて知る事が出来た。青白い顔色も目の下に出来た酷い隈も簡単に隠せてしまったのだ。アキノ兄さんの腕もあるのだろうけど…、驚きのカバー力だった……。一度手を出すと、もう二度と化粧をせずに人前に出られなくなる。って言う気持ちを知れた貴重な体験が出来たと思う。

 但し…、その後の花魁メイクで変色した肌の色まで隠せてしまい…秋之丞アキノ兄さんのメイクの腕を見に来た花魁達の歓声で大事おおごとに……。「わっちの蒼い着物は何処へ?持って来ておくんなし!」「あちきは紅いんのを着たんを見たいでありんすw」「それしなすんやったら、櫛と簪!髪結いもして欲しわぁ~」「それ、えぇ~なぁw秋之丞!全部やったって!」見世の者達の悪ノリで髪や着物まで本格的に仕上げられ、何度も着せ替えられ、丸一日飲まず食わずでいたのと睡眠不足で倒れるまで、見世の稼ぎ手達の玩具にされたのであった。
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