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1 零情報でアイツ捜し

007

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 時に思う。かつて転生した世界にもあった事だ。その世界では(「へ~そうなんや~」で流す一部地域をはぶき)「芸能人が近くに来ているぞ」で、結構けっこうな集客力を発揮はっきしていた。この世界では「絶世ぜっせいの美女が来店しているぞ」で、相当な集客力を発揮するらしい。

 そう、その集客の中に…第一王子のアガット…、第三王子のジャッドが居るて、どないやねん!しくも、第四王子である俺をふくめ、この国の王子全員…、4兄弟全員がそろってしまったぞ…って、何故なぜに城下で揃うかな……。第二王子のカルセドニーを城から連れ出したのは俺だけども、アカンくないか?皆が皆、従者じゅうしゃ護衛ごえいも連れずに御忍びで城下に居るて、色々と不味まずくないのか?等と、多々思う所はあるが置いておいて、この時、最初に俺とカルセドニー兄さんに気付いたのはアガット兄さんだった。

 アガット兄さんは皇太子こうたいし、王位の第一次後継者であるにもかかわらず…、「国王の若かりし頃にソックリだ」と周囲に言われているのも御構おかまい無しで、金髪碧眼が似合う男前な顔を隠しておらず…、普段着(?)=かぶと無しの板金鎧ばんきんよろい[プレートアーマー]姿、腰には大振りの[ソード]…確かアレは愛用の片手剣、大盾[タワーシールド]を背負った格好で…、この場所が城下である事も気にせず、何時いつも通りに声を掛けに来てくれている……。
相変わらずの気安さと豪快ごうかいさは不快ふかいでも嫌でも無いのだが「カルセドニーとサフィールじゃないかw」って、(そのまま名前を呼ぶなし!身元がバレるだろうが!)俺の気持ちを理解してはくれない。折角、今まで城下では[吟遊詩人のフィー]としての立場を確立かくりつしてきたと言うのに、水の泡に成ってしまいそうだ。

 続いて姿を現したジャッド兄さんの方も、国王そっくりな顔と母方の血筋が出ている栗毛ブリュネットと言う特徴的な組み合わせをも隠さず。誤魔化ごまかさず登場。
アガット兄さんの母親が妹で、ジャッド兄さんの母親が姉と言う。兄弟の中でも濃い血の繋がりが成せるわざなのか?コチラは軽鎧けいがい[ライトアーマー]と、肩掛けで固定したカイトシールド、腰に軍刀ぐんとう[サーベル]と言う出で立ちの普段着(?)。
アガット兄さんとジャッド兄さん、この2人は2人共に軍人職を趣味で生業なりわいにしているからなのか?大人に成ってからは軍服か鎧姿でしか見掛けた事が無い気がする。これは気の所為だろうか?は放置の方向。

 ジャッド兄さんってば、うわさの美女がカルセドニー兄さんだと気付かずに、俺とアガット兄さんの目の前でカルセドニー兄さんの肩を軽く抱き、カルセドニー兄さんの隣の席に割り込みながら「御嬢おじょうさん、王子様との楽しい時間は如何いかがかな?」ってカルセドニー兄さんに声を掛けやがった。(ちょっw御嬢さんってwwわっら~www更に自分みずから王子様てwwヤバ、ちょっとオモロ過ぎw)と俺も笑ったけど、アガット兄さんも俺の隣でプッと吹き出し声を殺し肩を振るわせ笑っている。

 当事者、カルセドニー兄さんはジャッド兄さんの顔を見て、一瞬言葉を無くし…眉間みけんに少ししわを寄せて小首をかしげ…、正面から化粧をしたカルセドニー兄さんの顔を見たジャッド兄さんは…キメ顔からの破顔…「ななななな何で?!」っておどろきの声を上げていた……。ジャッド兄さんは相当にあせった御様子だ。(まるで、コント!芸人さんがやる様な寸劇すんげきを見せられてるかのごとくってヤツだよ)
そして「もう無理」と大声で笑い出したアガット兄さんと、俺の存在にもやっと気付いたジャッド兄さんは「アガット兄さんは兎も角、カルセドニー兄さんとサフィールが何故こんな場所に?!」と大声を上げた。(アガット兄さんは兎も角とは?&オマエもか!普通に名前を呼ぶなよ!空気読めし!)

 そして、こう何度も繰り返し、大きな声で名前を出され呼ばれると効果抜群。(あぁ~ぁ、周囲に完全に、俺達が[この国の王子]だってバレたな…コレ…、御忍びだったのが、全く忍べてないし…、多分、今後も忍びしづらく成ってくるぞ…最悪だ…)身分の壁が発動し、男であるカルセドニー兄さんを酔わせて御近付きに成ろうとしていた男達の態度が一変。彼等はカルセドニー兄さんに対し距離を取り始め、結果、カルセドニー兄さんが陣取る酒が並んだテーブルの席にて、兄弟四人だけで仲良く酒を飲む事に成った。

 更に今世の俺の周囲で一番、本気で世間知せけんしらずなカルセドニー兄さんは「ねぇ、サフィー…、私の為に頑張ってくれたのですが、そのままで来ても大丈夫だったみたいですよ」とか言っている。今後、カルセドニー兄さんが自由気儘に城下に御出掛けし出しても俺は知らねぇ~ぞwと思いつつ…、兄さん達それぞれの母親達や、その派閥はばつの人間達が邪魔をしてくる所為せいで、ここまで馴れ合う事の無かった腹違いの兄達と…、こんなに長く会話するのも初めてだな…とか、兄達と仲良くするのも悪くはないな…とか思うのだった……。
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