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②勇者だった過去は黒歴史です
しおりを挟む目覚めるとスイはいなかった。帰ったのか、それとも他の仲間のところへ行ったのか。ユウキとしてはどちらでもいい。
このまま引きこもってる間にスイが魔王を倒せば、今度こそ本当に勇者はスイだ。ユウキは世間から忘れられる。いや、もう忘れられているか。そうしたらスイもユウキへの興味を無くすかもしれない。
そろそろ食料でも買いに街へ行くか、と支度していたら呼び鈴が鳴った。またスイかもしれない。無視しようかと思ったがどうせあの男なら勝手に家に入ってくるだろう。仕方なくドアを開けると、数人の男が立っていた。
「魔王が復活しました」
スイとまったく同じことを口にする。それ、昨日聞いたから知ってます。じゃあそういうことで。
ドアを閉めたくて仕方なかったが、そういう訳にもいかない。甲冑の紋章から、男たちが王の命令でここに来ていることがわかるからだ。
つまり、これは王からユウキへの命令であると言える。
「期日までにスイ・エクランドを魔王退治へ出発させてください」
「え、えっと……それ、俺には関係ないんじゃ」
「この国の未来のためにも、お願いしますね」
結局男たちはそれだけ告げるとすぐに帰っていった。勝手に部屋に上がり込むスイとは違う。
もし、期日までにスイが魔王退治へ向かわなかったら……ユウキはどうなるのだろうか。あの男たちも、王も、魔王を倒すのにはスイだけが必要だと思っている。ユウキだってそう思う。とにかくスイを行かせなければ。スイなら正直一人でだって魔王を倒せると思うけど、ユウキなんかを誘いに来たということはやはり寂しいのだろう。ならばかつての仲間たちを一緒に行かせればいい。ユウキよりよっぽど強いし、スイを確実にサポートしてくれるはずだ。
時間は限られている。すぐに賢者と魔法使いのところへ行こう。最後に届いた手紙に書かれている住所はちょうど買い物をしようと思っていた街のものだ。意外と近所に住んでいるのに会いに来なければこっちからも会いに行く発想がなかった。
手紙の住所を頼りに辿り着いた緑の屋根の、立派な家の前ではたとこれはどちらの家だろうと首を傾げる。住所はたしか、賢者の方を見て来たはずだが、魔法使いのものもこの辺だったような気がする。
もう呼び鈴を鳴らした後だったから、出てくる方の家だろう。深く考えるのをやめて家主が現れるのを待っていると、ほどなくしてドアが開く。
「あ、ユウキ」
「どうしたの、こんなとこまで」
「えっ」
想像していたものと違うものが現れてフリーズする。賢者と魔法使いの二人が揃って現れた。しかも、魔法使いの腕には小さな赤ん坊が抱かれている。
「あれ、手紙に書かなかったっけ? 魔王退治のすぐ後くらいに結婚したんだ」
「そ、そうだったんだ……おめでと」
「久しぶり。元気だった? もう一年くらい経つもんね……」
「懐かしいな」
魔法使いはパーティの紅一点で、怒らせると怖かったりはしたけれど、一人だけいた女子に恋心に似た感情を抱かないはずがなかった。賢者は大人しく優しい男で、そんな二人がいつの間にかそういう関係になっていたなんて……。
失恋に似た気持ちになりながらも、ユウキはここに来た目的を思い出す。
「ま、魔王が復活したらしくてさ」
「でた! ユウキの『俺がちょちょいっとやっつけてやるぜ』でしょ!」
「さすが勇者様」
「……いや、俺は行かない……けど、スイを助けてやって欲しいんだ」
スイ、とユウキが口にすると魔法使いがあからさまにぷっくりとした唇を尖らせた。
「やだ、スイなら一人で行けるでしょ」
「マホ……まあ、スイとは連絡取り合ってないし、どこにいるかも知らないんだ」
「えっ、そうなのか?」
「俺たちは……この子もいるし、今回は行けないかな。ごめんな、ユウキ」
「そうか……」
どうしてだろう、同じ仲間だったのに、なんとなく二人のスイへの感情が冷めたものに感じる。
「まあスイが魔王退治に行くなら大丈夫かな。ユウキも巻き込まれないように気をつけて」
「あいつユウキのこと大好きだもんね」
「あ、ああ」
スイが、ユウキのことを大好き?
そんなことは有り得ない。いまだにしつこく付きまとってくるのもユウキを虐めて楽しんでいるだけだろう。そうでなければとびきりバカすぎて本当にユウキのことを勇者だと信じ込んでいるのか。
「…………二人ともおめでとう」
最後にそれだけもう一度言って、緑の屋根の家を後にした。
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