やめて、俺を勇者と呼ばないで~元中二病勇者の憂鬱~

多崎リクト

文字の大きさ
4 / 19

④レベル差が凄いです

しおりを挟む


 この世界にはレベルという概念がないが、もしパラメーターを見る能力があったらきっとユウキのレベルは30くらいだろう。まあまあ頑張っている方だけど魔法使いと賢者はこの倍くらい。ラスボスを倒すのに足でまといなのはユウキだけだ。
 そして、スイは――レベルマックス。

「勇者様が手を出すまでも無かったですね」 
「あ、ああ」

 おそらくユウキと同レベルぐらいの魔物たちを一瞬で消し去ったスイはニコニコとこちらへ戻ってくる。つまりユウキだってスイと戦ったら一瞬でああなるのだ。考えたくは無い。せめて消し炭くらいは残りたい。
 このレベル差で勘違いできていた過去の自分はどうなってるんだろう。病気としか思えない。あ、厨二病だったんだ。
 パラメーターが見られなかったおかげというか、見られなかったせいというか。過去のユウキは勇者という名称にすっかり舞い上がっていた。やたら偉そうに指示したり、自分がパーティで一番強いと思い込んでいたのだ。その時のことはあまり思い出したくない。
 ただ、そんなユウキにもいつだってスイは優しくて、そんなスイが「勇者様」と呼び続けるせいで厨二病が悪化したのかもしれないとも思う。

「勇者様、まだ体力を温存しておいてくださいね」
「そうだな……」

 こうやってスイが倒してしまうからユウキのレベルが上がらなくなったのではないか。ちらりと浮かんだ考えを追い出し、言い聞かせる。ゴールは魔王を倒すこと。倒すのはユウキでなくていい。スイが倒せばそれでクリアだ。
 それまでスイには「勇者様」と慕ってもらう必要がある。魔王を倒してもらうために必要なことだ。

「ま、まああんな雑魚俺が手を出すまでもないし? スイの修業になればいいよ」
「流石勇者様、俺なんかのことまで考えてくださって……ありがとうございます!」

 二人だけの旅は非常に危険だった。敵はスイが全て倒してくれるからいいのだが、スイがめちゃくちゃにユウキを甘やかすのが問題だった。ただひたすらに肯定してくれるし、凄い凄いと言われ続けて悪い気はしない。
 ……こんなの、また調子に乗ってしまう。
 だからユウキは厨二病が再発しないように必死で自分に言い聞かせなければならなかった。自分はあの魔物たちのようにスイに一瞬で消されるくらいの雑魚。雑魚だとバレたらきっとスイに見捨てられる。甘い言葉でいい気分になり過ぎるな。

「スイ、疲れてないか? そろそろ休んだ方がいいんじゃないか」
「勇者様は俺なんかのことまで気遣って下さって……ありがとうございます。そうですね、少し休みましょうか」

 本当はユウキが歩き疲れたからだったが、スイはそれをユウキの優しさと受け取った。あまりにユウキにとって都合のいい解釈ばかりだ。
 それともスイの脳内が花畑なのか。
 適当な切り株に腰掛けて、大きく息を吐く。まだ魔王城まで遠いが、確実に敵のレベルが上がっている。スイにしてみたら虫のような相手でも、ユウキにとっては互角程度。もう少し進めば戦いに参加することはできなくなる。
 いや、そもそも今までだって戦っていないのだが。それでも疲弊しているのはユウキが今まで家の中に引きこもっていたからだ。今夜はよくストレッチしないと。
 ぼんやりとそんなことを考えていて、ふと視線を感じて横を向く。思ったより近くにスイの整った顔があり、穴があきそうなくらい真っ直ぐ見られていたことに気づいた。

「……スイ?」
「また、勇者様と旅ができて、夢のようです」
「大袈裟だな」

 居たたまれなくなって、スイの視線から逃げるように立ち上がる。

「野宿は嫌だから、さっさと行くぞ」
「勇者様、そっちは――」

 呼びかけられる声を無視して歩き出す。もっと休みたいとでも言うのか。それはユウキの方だったけど、今はこの状況から一刻も早く逃げ出したかった。

「え」

 だから、ちゃんと前を見ていなかった。後悔する点としてはそこだ。スイの言葉をちゃんと聞いていれば良かったのかもしれない。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

カメラ越しのシリウス イケメン俳優と俺が運命なんてありえない!

野原 耳子
BL
★執着溺愛系イケメン俳優α×平凡なカメラマンΩ 平凡なオメガである保(たもつ)は、ある日テレビで見たイケメン俳優が自分の『運命』だと気付くが、 どうせ結ばれない恋だと思って、速攻で諦めることにする。 数年後、テレビカメラマンとなった保は、生放送番組で運命である藍人(あいと)と初めて出会う。 きっと自分の存在に気付くことはないだろうと思っていたのに、 生放送中、藍人はカメラ越しに保を見据えて、こう言い放つ。 「やっと見つけた。もう絶対に逃がさない」 それから藍人は、混乱する保を囲い込もうと色々と動き始めて――

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。

処理中です...