やめて、俺を勇者と呼ばないで~元中二病勇者の憂鬱~

多崎リクト

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⑦夢見が悪いです※

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「…………さいっあく」

 一緒の部屋がいいとごねるスイを隣の部屋に追いやり、一人で眠ることにしたのは良かったが、夢見が最悪だった。
 金があるのにわざわざ一つの部屋で眠ろうという考えがわからない。ただでさえ環境が変わると寝付きにくいのに、そこに他人がいるなんて耐えられない。それにお姫様抱っこで宿に運び込まれたユウキは宿の主に「スイの恋人」と思われてしまっている。やんわりと「ここはそういう宿じゃないんで」と断られかけた。いっそスイを野宿させれば良かったのかもしれない。
 思い出したくもない夢のせいで下着が気持ち悪い。これ、どうしよう。スイに気付かれずに洗って干して……いや、いっそ捨てて新しいものを買った方が早いかもしれない。
 覚醒する直前まで見ていた夢は、昨日の記憶が入り交じっていた。うねうねとユウキの体を撫で回していた触手が、体中にべたつく粘液を塗りたくってきた。それからまたしつこいくらい乳首を弄ってきて、下着の中にまで入り込んできた触手がアナルを舐め回す。ぬるつく感覚は妙にリアルで、目が覚めてからも尻穴がムズつくように思えた。
 それから、それをじっと見つめているスイ。

 ――ユウキはこんなところもピンクで可愛らしい。慎ましく花弁のようで、食べてしまいたい。
 ――男の乳首とは思えないくらいぷっくりしてる。ここだけで射精できるようになるといいな。

 現実にはじっと見つめていただけだったのに、夢の中のスイは雄弁で、熱をはらんだ視線が向けられていた。
 現実にはユウキのことを名前で呼んだりなんてしないのに、夢の中では呼ばれただけで腹が熱くなった。

「……最悪」

 悪夢の原因とこれから顔を合わせなければいけないのに。普段通りに振る舞えるだろうか。

 食堂へ向かうととっくに起きて走ってきた後だろうスイがいた。ユウキより先に食べるという発想が無いようで、大人しくユウキが起きてくるのを待っていたようだ。

「勇者様、おはようございます!」
「……ああ」

 朝からこのテンションを相手にする元気は無い。それもあんな夢を見た後だから、スイの顔もろくに見ていられない。
 明後日の方角を見ながら返した、返事とも言えないようなものでも、スイにとっては問題ないらしい。

「夢じゃなくて良かった」
「……え」

 ドキリとした。夢じゃない? あの悪夢が?
 思わずスイの顔を見ると、相変わらずニコニコとこっちを見ていた。

「勇者様とまた旅に出られて、嬉しいです」
「……そうか」
「ホント、夢だったらどうしようかと思いました」

 どうしてそんなにユウキと居たがるのだろう。本当は全然強くないし、スイの足でまといにしかならない。魔王退治には絶対必要無い存在だ。
 それなのに、どうしてスイはユウキを連れてきたのだろうか。

「お前さ、俺のこと好きなの?」
「はい!」
「……どこが?」
「強いところですかね」

 強いって、どうしてそう思うんだろう。
 ……ユウキが弱いと知ったらどうなるんだろう。

「俺が本当は弱かったら?」

 そうしたら、やっぱり見捨てられるんだろうか。

「勇者様は強いですよ」

 せめて、魔王を倒すまでは隠し通さなければならない。


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