あの時ちゃんと断っていればこんなことにはならなかった

多崎リクト

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キスの話

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「いってらっしゃい」

 俺の授業が一限からある日は、そう言って陸が見送ってくれる。これってすごく新婚さんみたいだなと思う。俺が陸を見送る日もあるけど、どちらでも嬉しい。
 いつもみたいにいってきますのキスをしようと振り向くと、それとなく避けられる。

「あ、俺ももう支度しないと」

 そう言って、部屋に引っ込んでしまう。
 その日はたまたま忙しかったのかなと思っていた。






「ただいまー」

 家に帰ると、珍しく陸が出迎えてくれなかった。いつもだったらすぐに玄関にやってきて、おかえりのキスをしてくれるのに。

「おかえり」

 どこかばつが悪そうに、こちらを見ながら、陸が言う。
 そういえば、と思い出す。今朝もいってきますのキス、してもらえなかった。
 これはもしかしたら離婚の危機ってやつではないか。いや、まさか、そんな馬鹿な。
 急に恥ずかしくなったのかもしれない。きっとそうだ。ちょっとだけ置かれていた距離をぐいっと詰めて、顔を近付ける。

「ま、まって」

 陸の唇に触れる直前で、陸の手に触れる。ガードされたのだ。

「ごめん、悠」

 ああ、そんな風に謝らないで。
 陸が俺の事、嫌いになっても、離婚だけはしたくないよ?
 どうしたら陸に捨てないでもらえるだろうか。いっそこの部屋に閉じ込めて、外に出さなければいいのだろうか。

「……舌に口内炎できた」
「は?」

 どうやって監禁しようかと考えていたら、陸の口から出てきたのは想像していなかった言葉だった。


「めっちゃ痛いんだってほんと。今朝できたんだけど、何してても痛いし。喋ると痛いし。食べてても痛いし」


 そう言って怒る陸はとにかく可愛かった。どうやらキスしてもらえなかったのも俺の事を嫌いになったからではなかったらしい。
 いや、まてよ?別にキスだったら良かったのではないか?口内炎ができたのは唇ではなくて舌なのだから、ただのいってきますやおかえりのキスでは触れない。

「……だって、お前すぐ舌入れてくるし」
「陸が痛いなら我慢できるよ」
「……それに、」
「うん?」
「…………俺も、キスしたら、悠の舌に触れたくなる」

 顔を真っ赤にして言う陸に煽られるなと言う方が無理だった。

「……キスは我慢するから、シてもいい?」
「うん」

 今日はキスができない代わりにおかえりなさいのセックスをしてもらうことにした。






 口内炎を見せてもらうと舌の裏にできていた。俺も昔できたことがあるけど、これめちゃくちゃ痛いやつだよな。可哀想に。
 陸に食べさせるものについてもっと気を使わないと。栄養バランスが悪かったのかもしれない。ストレスとかでもなるらしいから、癒してあげないと。

「あっ♡」
「いっぱい気持ちよくなって、痛いの忘れようね?」
「ひんっ♡」

 ベッドの上に座り、膝の上にシャツ一枚に剥いた陸を座らせる。キスは我慢してうなじにキスをしながら、シャツの隙間から手を差し入れて乳首を撫でる。
 この体勢だと陸の顔は見えないけど、俺の膝の上でビクビクしてる逃げ場のない陸を眺めるのはそれはそれで楽しい。

「やっ♡乳首ばっか……ひゃんっ♡♡」
「後ろからいじめられるの好き?乳首すごく尖っちゃったね」
「やだぁっ♡とがってないっ」
「んー、でもシャツの上からでも、ほら」

 シャツの中から手を出して、シャツの上からそこを撫でてやる。

「ひゃんっ♡」
「ほら、こんなに尖ってる」
「んんっ♡」
「これじゃ服着てても乳首の場所わかっちゃうね。ほら、簡単に摘めちゃうよ」
「あっ♡だめっ♡つまんじゃ、だめっ♡」

 シャツの上から左右の乳首を摘んでやるとビクビクと体を震わせて、それがすごく可愛い。

「陸、そろそろ入れたいから、乳首は自分でいじっててね」
「んんっ♡」

 陸の手を取って、乳首を摘ませる。そうすると理性のとろけてしまった陸はそのままグリグリと乳首をいじり始める。

 そろそろ顔が見たくなって陸をベッド仰向けに押し倒すと、足を開かせる。それでも夢中で乳首をいじっているのが本当にいやらしい。それとも俺の言いつけを守ってる健気なお嫁さんなのかな?
 ローションをお尻に垂らすついでにいい事を思いつく。シャツを捲りあげて乳首を剥き出しにすると、ホットケーキにシロップをかけるみたいに、陸の可愛い乳首にもローションをかけてやった。

「――ひゃっ」
「ごめん、冷たかった?」

 冷たいそれが早く体温に馴染むように、陸の手を使って馴染ませてやる。ぬるぬるとしたそれが尖った乳首にまとわりついてすごくいやらしい。

「あっ♡♡やだっ♡きもちいいっ♡♡♡」
「かわいい、陸」

 陸の痴態を見ながら、お尻も慣らしていく。ローションをたっぷり塗ったので簡単に指が入る。そういえば昨日もシたばっかりだった。
 すぐに指の数を増やして前立腺を突いてやると、陸の手が止まる。

「あっ♡♡」
「陸、手、止まってるよ?」
「も、むりぃっ♡♡」
「頑張れ、頑張れ」
「やっ♡♡」

 ぐずぐずになってしまった陸はもう乳首に触っていられなくなってしまって、ただイヤイヤと首を振る。

「悠が触って……」

 そんな風に涙目でおねだりされたら、俺の理性なんて簡単に吹き飛んでしまう。

「……じゃあ、もう入れちゃうよ?」
「うん」
「痛かったら言ってね」
「いたくな――あっ♡はいってくる♡悠の♡♡」

 お願いだからあんまり煽らないで欲しい。

「あっ♡♡やっ♡♡ゆうくんっ♡♡♡」
「乳首ぬるぬるしながら子作り気持ちいいね、陸」
「うんっ♡♡子作り、きもちいい♡♡♡ゆうくん♡」
「可愛い。子供できたら乳首からミルク出るようになるかな?そしたら俺にも飲ませてね?」
「うんっ♡♡のんで♡」
「やらしー、じゃあ飲むね」
「んんっ♡♡♡だめっ、ローション、のんじゃ♡」
「口に入れても大丈夫なやつだから平気だよ。んっ、陸のおっぱい、おいしい」

 ローションでぬるぬるになった乳首を吸う。蜂蜜みたいに甘い。これが陸のミルクの味なのかもしれない。

「ゆうくん♡ゆうくん♡」

 俺の頭を抱きしめるように喘ぐ。中も一緒にぎゅうぎゅうと締め付けられる。

「出してっ♡ゆうくんのせーし♡」
「陸、陸……」

 可愛らしく喘ぐ陸の唇に触れて、舌を絡める。
 蜂蜜味のキスをしながら、陸の中で果てた。

「……ゆう、」
「ん、どうしたの?」

 ぐったりしている陸も可愛いなあと思いながら眺めていると、何故か睨まれた。

「舌痛いって、いったのに」
「あ…………」

 やばい、最後忘れてキスしちゃった。しかも舌めっちゃ吸った。 

「治るまで、もうしないから」
「り、陸?」





 それから一週間ほど、えっちはもちろんキスもしてもらえなかった。
 俺はもう陸に口内炎ができないようにと新たに料理の本を買い込んだのだった。
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