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しおりを挟む「寒……」
竹藪を抜け出た途端、北風が強く吹いた。季節は冬。何故作務衣一枚で出かけてきてしまったのか、今更後悔したところで、頭の上に何かが落ちてきた。
真綿の半纏だ。キョロキョロと周りを見るが、自分一人しかいない。あやさんの関係なのだろうと思い、ありがたく着させていただく。暖かい。
少し歩くと、今度は足が冷たくなった。裸足に下駄だ。慣れた人間なら平気なのかもしれないが、俺は今朝からの下駄使い。カラカラと歩く度に、足の爪先がじんじんしてくる。辛さに涙目になっていると、顔に何かがぶつかった。五本指ソックスだった。勿論ありがたく使わせていただく。
「あやかしって超便利」
後ろから小石が飛んできて頭にぶつかった。怒られているような気がして、振り向いて頭をさげた。調子にのってすみません。
元気を取り戻して、役場へ進む。途中、あの屋敷の前を通るが、やはり人の気配はしない。気にはなるが、近付きたいとは思わない。背中がぞくりとする。足早に通り過ぎた。
役場に無事に到着し、村長の息子に声をかけた。
「やあ、一晩泊まって、どうだった?」
「おかげさまで、なんとかやって行けそうです。ありがとうございました」
「それは、凄い。君が行ってくれてよかったよ。それで、今日はどういう用事で?」
「仕事を一通り覚えようと思いまして。まずは、呪符の綻びが出ているところがあるかの確認と、あと、お酒を貰って来い……と」
お金を払わずに酒を要求するのが、どうにも申し訳なくて、目を伏せてしまう。言われた村長の息子は、快活に笑って気にする事はないと言ってくれた。
「あやさんへの報酬は、今現在で百年分溜まっているんだよ。いつでも取りにきて大丈夫だからね」
「…………はぁ」
「異常は今のところどこも出ていないと伝えておいてくれ。お酒は、地下の食糧庫で、誰かに声をかけて」
「わかりました」
そのまま役場の地下へ向かう。廊下の案内板の通りに歩くと、奥の方に大きな扉があって、入口に受付があった。
近付いて行く俺に気付いた警備員が、受付から出てきて手をあげる。
「何か用かな?」
「あ、あやさんへの報酬のお酒をいただきに来ました」
「おお、話は聞いているよ。ちょっと待ってな、専用の袋を持ってくる」
「専用の袋……?」
警備員は、職員専用の扉に入り、なにかごそごそしてから、袋を手に戻ってきた。大きめの、頑丈そうな頒布の袋だ。
「今までは村長の息子がこの袋を使って酒を運んでいたんだが、あんた、新しいあやさんの世話係だろ? 毎回こいつを持ってきてくれ。一升瓶が四本入る」
「…………わかりました」
力には自信がない。帰り道が辛そうだ。営業スマイルを浮かべながら、口角がひくつくのがわかった。
「大丈夫か? ふらついてるみたいだけど」
「……大丈夫、です。このお酒を心待ちにしているあやさんの為に、頑張ります」
「まあ……頑張って。急いで転んだりするなよ」
「はあ……でも、あの御屋敷の前は、なんか怖くて走り抜けちゃいたいんですよね~。こんな事言ったら失礼かもしれませんけど」
お酒を選んだり、重さでふらふらする体を支えてもらったりする内に、警備員とは軽口をたたけるぐらい仲良くなった。根暗な俺にしては、進歩だ。やはり、あの肩にくっつけていたあやかしのせいで、性格も変わっていたのかもしれないと思う。
「御屋敷?」
「ええ、あの、ものすごーく由緒ある感じの。全然人の気配がしない御屋敷ですよ。竹藪に入る少し前ぐらいにある……」
「……そんなの、無い筈だけどなぁ」
「え…………」
「建物があるのは、役場を出て、食堂、郵便局、と続いて右に曲がったら一本道だろ? そこから先は、竹藪まで何もないぞ」
「は?」
「そもそも、民家は、竹藪方向とは反対側にしかない。お前、何を見たんだ?」
竹藪まで、建物はない。訝しげに俺を見詰める警備員。背中がぞくぞくする。頭のてっぺんから爪先まで、一気に鳥肌が立つ。
「そんな……じゃあ、あれは…………」
倒れないようにするのが、やっとだった。
◆◆◆◆◆
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