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四十五、
しおりを挟む「……ん……」
小さく呻いて、ときわは目を開けた。
暗い場所だった。
実際、辺りをふわりふわりとただよっている蛍のような明かりがなければ、ときわはここを闇の底だと思っただろう。数回頭を振りながら起き上がったときわは、すぐ横に秘色が倒れているのに気づいた。
「秘色っ、起きてっ」
二、三度揺さぶると、秘色はふっと目を開けた。寝起きの悪いたちなのか、ぼんやりしたまま目をこすっている。ともあれ、ケガは無さそうなので、ときわは秘色を放っておいてきょろきょろ辺りを見回した。
(かきわは? )
一緒に落ちたはずのかきわの姿がなかった。
「かきわ」
闇の奥に呼びかけてみたが返事がなかった。
ときわは少し慌てて、いまだにぼんやりとしている秘色の手を取ってかきわを探しはじめた。
闇の中をただよう無数の光の玉が、頼りなげに足元を照らしてくれる。
「なんなの……ここ」
ようやく意識がはっきりしてきたらしく、おびえた声音で秘色が呟き、ときわの背中にすがるようにくっつく。背中に広がったぬくもりに、耳元で聞こえる少女の息づかいに、ときわは思わずどきりとした。
その時、ときわは闇の向こうにぼんやりと浮かぶ人影をみつけた。
「かきわ」
かきわは地面に膝をついて、うつろな目で自分の周りをただよう光をみつめていた。
ときわ達が近寄ると、かきわは光をみつめたままぽつりと呟いた。
「この光を追ってきたんだ。俺は……」
言われて、ときわもはっとした。この闇の中をただよう蛍のような光――それはあの遠野の森で、ときわを誘った光によく似ていた。
いろんなことがありすぎたせいか、あの夜のことがずいぶん昔のことのように思える。あの時、あの光を追って森に入らなければ、こんな世界に来ることもなかったのだ。
――人魂か、狐火かもな。
そう言った広隆の顔が思い出された。なんだかしみじみと懐かしく、胸の奥がじんわり熱くなった。
かきわも、同じ想いに打たれているのだろうか。ときわはそう思った。
だが、元の世界や家族のことを思い出しているにしては、かきわの目はひどくうつろで、その中に怒りとも悲しみともつかぬ感情が見てとれた。
「帰れるといいね」
しんとした空間に、秘色の声が溶け込んだ。
ときわは素直に頷いた。だが、かきわは拳をぎゅっと握り締め、何かを睨みつけるような表情をした。その目は闇でも光の玉でもなく、何かもっと別のものを見ているように、ときわには感じられた。
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