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四十九、
しおりを挟むうろの中には苔むした木製のテーブルとイスがあった。
「さて、何から話そうかの」
「トハノスメラミコトをみつける方法を教えて下さい」
叫ぶように秘色が言った。
だが、ぐえるげるはいかにも興味がなさそうに顔をかいた。
「おぬしは晴の里の巫女じゃの」
「はい」
「ん、そうじゃの。おぬしには別にやってもらいたいことがあるんじゃ」
ぐえるげるはそう言って奥にある小さな扉を開けた。扉の向こうには小さな階段があった。
「この一番てっぺんまで昇っての、上にある祭壇に祈りを捧げてほしいんじゃよ。わしはもうろくして昇れなくての。こういう機会でもないと巫女がうちに来ることなんぞないからの」
「今すぐ、ですか? 」
ぐえるげるが頷いたので、秘色はときわのほうをちらちら気にしながらもおとなしく階段を昇った。
「これで、ゆっくり話せるの」
ぐえるげるは扉を閉めながら言った。
「これから話すことは里の者には受け入れがたいことじゃしの」
ぐえるげるはぶじゅうと奇妙な音のため息をついた。それからイスに腰掛け、ときわとかきわをねめまわした。
「さて、おぬしらは里の命運を握っておると自分で思うかの」
突然そんなことを訊かれて、二人は目を白黒させた。
「……俺達は、いきなりこの世界に来ちまってトハノスメラミコトをみつけろって言われただけで、少なくとも俺にとってはそんなもんどうでもいい……だって、負けたからって里が滅びるわけじゃないんだろ」
かきわが言った。ときわもまったく同じ意見だった。
「うむ。その通り、里の者のいがみ合いにはなんの意味もない」
ぐえるげるは大きく口を開けた。
「そもそも、二つの里は元は一つだった。いや、一つの岩から生まれたのじゃ」
「岩? 」
「昔、一つの岩があり、いつしか岩に魂が宿った。岩に宿った魂はそれまでばらばらに生きていた者達を集めて里をつくった。里はどんどん大きくなった。里の者は岩の魂を敬ってトハノスメラミコトと呼んだ。だがの、些細なことから争いが起こり、里は真っ二つに割れてしもうた。二つの里はお互いに自分達の里にトハノスメラミコトを招こうと相争った。その結果、トハノスメラミコトも帰る場所を失った」
ぐえるげるは悲しげに首を振った。
「かわいそうな子じゃよ。あの子は。二つに割れた岩が一つに戻らん限り元の姿に戻れんのじゃ。誰からも見失われたまま、幻のようにさまよっておる。
だが、里同士はいがみ合うばかりで割れた岩を別々に祀りはじめる始末。そこであの子は別の世界から人を呼ぶことにした。二つに割れた己の身を媒介にしてのう。ところが、里の連中は彼らが現れた理由を都合良く解釈した。すなわち、彼らのうちどちらかがトハノスメラミコトをみつけ出し自分達の里に招いてくれると」
「それが俺達か」
かきわが言った。
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