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第一話「白い手」

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 夢の中で稔は図書室にいた。

 図書室の真ん中には竹原が立っていて、戸口に立つ稔に向かっておいでおいでをした。

 不思議と怖いとは思わず、稔はふらっと竹原に近寄った。竹原の前の机には数冊の本が並べられており、稔が近付くと竹原はすっとそれらの本を指さした。

 すると、数冊の本が一斉にぱらぱらめくれて、奥付のページでぴたりと止まった。

 竹原は本を指さしたまま、稔の方を見た。
 物言いたげな顔に促されて身を乗り出して机の上の本を見た。それぞれに著者名や発行日が書いてあるだけで、特に変わったことはない。著者も出版社もばらばらだ。

 ただ、一つだけ共通点があった。

 すべての本に「一般寄贈図書」というゴム印が押されている。

 稔が見上げると、竹原はじっと真剣な目で稔を睨んだ。そして、すっと手を上げると、図書室の奥の扉を指さした。

 そこで目が覚めた。


 学校に着くまでずっと、稔は夢の意味を考えていた。考えたくなくても考えてしまう。竹原に睨まれた理由はなんとなくわかる。関わらないことにした稔を責めているのだろう。

 文司は欠席していて、石森が難しい表情を浮かべている。大透は相変わらず後ろの席からにこやかに話しかけてくる。

 ただ、昨日までとは違って、霊の話は一言もしなかった。
 オカルトマニアからオカルトの話をされないことに何故か妙な罪悪感を感じて、稔はふと口に出した。

「なあ、一般寄贈図書って何だと思う?」

 唐突な質問に、大透は丸い目をぱちくりした。

「何って……寄贈された本のことだろ?」

 戸惑いながらも、大透は真面目に答えてくれた。

「一般ってことは、図書館や学校みたいな公的機関からじゃなく、普通の家庭から寄贈されたって意味だろ」
「へえ……」
「例えば、本好きだった主人が亡くなって処分に困ったとか、引っ越すからとか」
「はあ……」
「それがどうしたんだよ?」
「いや、別に……」

 自分から関わらないと宣言した昨日の今日で竹原の話題は出しづらい。稔は適当に誤魔化した。

 ちらりと石森に目をやると、こっそり携帯をいじっているのが見えた。文司にメールしているのだろう。内大砂では携帯の持ち込みは禁止されているが、校内で使用しなければ大目にみてもらえるため、鞄に携帯を忍ばせている生徒は多い。

「あっ、そうだ。後で石森と樫塚の番号聞いておこう」

 稔の後ろで大透が言った。

「倉井が携帯持ってないの残念だよなー」
「今んとこ必要ねぇし」

 答えながら、稔は石森の様子を窺った。石森は熱心に携帯を眺めていたが、文司からの返信は来なかったのだろう。担任が教室に入ってくる直前に諦めて携帯を鞄に仕舞った。

 その後も、休み時間の度に携帯を見ては落胆の表情を浮かべる石森の姿に、稔は罪悪感をちくちくと刺激されて居たたまれなくなった。大透も石森も、何も言ってこないので余計に。

(このまま関わらなくていいなら有り難いじゃないか。俺には関係ないんだから)

 自分にそう言い聞かせる稔だったが、石森が携帯を手にする度にそちらに目をやってしまい、結局一日中文司のことが頭から離れなかった。


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