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第二話 無茶苦茶な命令
しおりを挟む「つまり、私に尻拭いをしろと?」
リートは頭を抱えたくなるのを堪え、アモルテスを睨んだ。
もちろん、命令ならばリートに否やはない。天主の命は絶対だ。
「うむ。お前に彼の近くに行ってもらって、魂を抜いて欲しいのだ」
誤って入れてしまったモテない魂を抜き取り、空になった器に本来入れるはずだった皆から敬愛される魂を入れるとアモルテスは説明した。
「ただ、魂というのは一気に抜くと器と能力も一緒に壊れてしまう。なので、少しずつ抜いていくしかない。長い時間がかかるだろう」
「アモルテス様。そこまでして魂を入れ換える必要がありますか?モテなくて結婚できなかったとしても、養子を迎えて王朝を存続させることは出来るでしょう?」
皇太子には気の毒だが、王朝を繋ぐだけなら適当に血の繋がりがある子供を迎えればいいのだ。
リートがそういうと、アモルテスは神妙な表情になった。
「それで問題が解決すれば良かったのだがな。そうなった場合、皇帝の座を巡って王侯貴族が激しく戦い、帝国の内乱に乗じてこれまで帝国の威光に抑えつけられてきた他国が攻め込んでくる。帝国に庇護されていた弱小国家群はひとたまりもなく潰れていき、終わりなき戦乱で人の数は減少の一途を辿り大地は疲弊し第五十八億三千二百十八万一千二百八十五世界は緩やかに滅亡の一途を辿ることになる」
リートは絶句した。
「皇太子がモテないせいで世界が滅びるんですか?」
「皇太子がモテないせいで世界が滅びるのだ。だから、それを食い止めねばならぬ」
「いや、皇太子がモテないのは皇太子のせいじゃない。アンタがモテない魂を入れたせいでしょ!」
リートはびしっと人差し指を突きつけた。
皇太子は何も悪くない。悪いのは自分の上司だ。リートは騙されなかった。
本来ならば名君として帝国に君臨するはずの少年が、自分の上司のミスのせいでモテない人生を送ることになり、それが原因で世界が滅びるだなんて……
「……ん?」
世界が滅びる。モテないせいで戦乱が起きるから。本来ならば維持されるはずの平和が壊される。
つまり、予定外の死者が大量に溢れる。
そのことに気づいたリートは脱兎のごとく駆け出した。
「ちょっと待ってーっ!!」
背後から飛びかかってきたアモルテスに羽交い締めにされ、リートはもがいた。
「放してください!!」
「師匠を見捨てるつもりか!?」
「自業自得でしょ!?予定外の死者が大量に出るのはアモルテス様のミスのせいです!私は関係ない!!一人で浄天宮に謝ってください!!」
死んで天に戻ってきた魂を浄化し再生する浄天宮は天界一忙しいと言われるブラック役所だ。あそこで働く者は常に過労死寸前だし、あそこを司る死と浄化の神ハルデラグスは普段は温厚だがキレると天界一恐ろしいことを誰もが知っている。
予定にない大量の魂をぶち込まれてキレたハルデラグスの怒りが降りかかる前に創天宮から脱出しなければ。
「私はこのまま祭天宮まで逃げます!!元々スカウト貰ってたし!!今までお世話になりました!!」
「ああ!?くっそあの婆!まだ諦めていやがらなかったのか!ひとの弟子にコナかけやがって!!」
アモルテスが力任せにリートを放り投げた。
「ぎゃふっ」
ぽふんっ、と、何か柔らかいものの上に着地し、リートは慌てた。
「ちょ、まさかこのままっ……」
「詳しいことは追って指示する」
アモルテスが手をかざすと、リートの体が柔らかい雲のような物体の中に沈んでいく。天界と各世界を繋ぐ移動装置だ。
「アモルテス様っ!!」
「愛しているぞ、リート!!」
完全に雲の中に引き込まれ、アモルテスの姿が見えなくなる寸前に、リートは力一杯叫んだ。
「このっ、クソ上司ーーーーっ!!」
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