死に戻りの公爵令嬢は嫌われ者の下僕になりたい

荒瀬ヤヒロ

文字の大きさ
89 / 89

第89話 知らない記憶

しおりを挟む


 昼休みになるや、Bクラスの教室に現れた殿下に拉致されそうになった。
「男同士の話がある」とかやけに真剣な表情で言ってきやがるので、無視するのも後々面倒くさいことになりそうだと思って話を聞くことにした。

「女の方から婚約解消ってどういうことだと思う?」
「ステラはそんなこと言わない」

 もちろん俺からも言うわけない。

「お前とステラのことじゃない。一般的な婚約者同士で、女が男に『婚約解消してもいい』って言い出すのはどんな理由があってのことだ?」

 なんだそりゃ。
 婚約解消を言い渡すんじゃなくて「してもいい」って許可を与える形になっているのだから、男の方にそう言われる原因があるんじゃねえのか?
 たとえば、相手の男に他に好きな女がいるとか。

「男の方が普段からこの婚約が不本意だっていう態度とってるんじゃねえの?」

 俺がそう言うと、殿下の隣で腰巾着その2がびくっと肩を揺らした。

「そんなことはない! アダ……その男は婚約者とは、こう、距離が近いし、触れ合う機会も多い!」

 腰巾着その1がそう主張してくる。
 なんのことかと思えば、腰巾着その2の話かよ。
 イベリス嬢はステラの友人だ。ステラ経由でなにか聞いていないかと期待して俺に探りを入れているんだな。
 つーか、あれは距離が近いんじゃなくて技をかけられているだけだろうが。

「女の自分に勝てない男が嫌になったとか?」
「いや、イベリ……くだんの女性は相手の男が自分に勝てたら婚約解消してもいいと言ったんだ。男が弱くて情けないから婚約解消したいのなら、自分が勝ったら婚約解消すると言えばいいだけだ」

 それはそうか。

「いや、待てよ。親が許さないとかで自分の方からは解消できないから、男に言わせようとしているのかも」
「ううむ。その線もあるか……」

 俺の意見に、殿下も眉間にしわを刻む。

 俺は遠くの席にいるステラをちらっと見た。食堂の隅からでは見えにくいが、イベリス嬢達と一緒に昼食をとっているようだ。
 俺も最初の頃は自分が公爵令嬢の婚約者候補になるだなんてなにかの間違いだと思っていた。いつ手のひらを返されるのかと疑いを捨てきれない俺に、ステラは全力で好意を伝えてきてくれた。言葉でも行動でも。

「女の方の事情はわかんねえけど、解消したくないなら男がちゃんと自分の気持ちを伝えるべきなんじゃねえか」

 気づくとそう言っていた。
 過去の俺はひねくれて拗ねたガキだったが、ステラが惜しみなくそそいでくれる愛情でいつの間にか満たされて、随分マシな人間になれたと思う。ステラに出会わないままだったら、きっとどうしようもない癇癪持ちの嫌われ者になっていたはずだ。
 そう、嫌われ者……周りから眉をひそめられて、冷たい目で見られるばかりの……

 不意に、その情景が明瞭に脳裏をよぎった。
 周囲から遠巻きにされ、常にひとりで、みなが俺を煙たがって――

「自分の……気持ち……」

 アダムの呟きに、俺ははっと我に返った。

 なんだ今の。周囲が向けてくる蔑みの目がはっきりと頭に浮かんだ。まるで、自分の記憶かのように。

 馬鹿な。俺があんな目で見られていたら、ステラが俺を庇って騒ぎ立てるだろう。ステラのいない未来なんて、想像するのも馬鹿らしい。

 俺は頭を振って脳裏に湧いた情景を追い払った。



しおりを挟む
感想 24

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(24件)

みたんこ
2025.01.06 みたんこ

ここまで楽しかった。
有料でいいから続き読みたい。

解除
おきえ
2024.08.01 おきえ

題名から想像していた8倍斜め75度3倍速面白かったですwww
特に学園入学から頬が…痛い…笑
それぞれの背景が明かされていくにつれ、切ない気持ちも加速…最初から悪い子なんかおらんのや…。
最初はドン引きしてたけど王子…、王子…?王子ぃ?!(爆笑) 側近も令嬢も愉快です。
続き…興が乗ったらぜひとも…

解除
こいぬ
2024.07.07 こいぬ

再開をお待ちします。続きが気になります!生ゴミたちとの攻防がたまりません。

解除

あなたにおすすめの小説

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

婚約破棄された令嬢は、ざまぁの先で国を動かす ――元王太子の後悔が届かないほど、私は前へ進みます』

ふわふわ
恋愛
名門アーデン公爵家の令嬢ロザリーは、 王太子エドワードの婚約者として完璧に役目を果たしてきた――はずだった。 しかし彼女に返ってきたのは、 「聖女」と名乗る平民の少女に心酔した王太子からの一方的な婚約破棄。 感情論と神託に振り回され、 これまでロザリーが支えてきた国政はたちまち混乱していく。 けれど、ロザリーは泣かない。縋らない。復讐に溺れもしない。 「では、私は“必要な場所”へ行きますわ」 冷静に、淡々と、 彼女は“正しい判断”と“責任の取り方”だけで評価を積み上げ、 やがて王太子すら手を出せない国政の中枢へ――。 感情で選んだ王太子は静かに失墜し、 理性で積み上げた令嬢は、誰にも代替できない存在になる。 これは、 怒鳴らない、晒さない、断罪しない。 それでも確実に差がついていく、**強くて静かな「ざまぁ」**の物語。 婚約破棄の先に待っていたのは、 恋愛の勝利ではなく、 「私がいなくても国が回る」ほどの完成された未来だった。 ――ざまぁの、そのさらに先へ進む令嬢の物語。

役立たずと捨てられた万能建築士、隣国で「聖域」を造って無双する。今さら復興のために戻れ? ご自分たちで瓦礫でも積んでいればよろしいのでは?

しょくぱん
恋愛
「お前の魔法は石を積むだけの土木作業だ」と婚約破棄されたので、城を支えていた『構造維持結界』をすべて解除して出て行きますね。今さら「城が崩れる!」と泣きつかれても、私は隣国で氷結の皇帝陛下と「世界最高の聖域」を造っていますので、一切知りません。 王国唯一の建築魔導師アニエスは、その地味な見た目と能力を理由に、王太子シグムンドから婚約破棄と国外追放を言い渡される。 彼の隣には、派手な光魔法を使う自称聖女の姿があった。 「お前の代わりなどいくらでもいる。さっさと出て行け!」 「……分かりました。では、城にかけていた『自動修復』『耐震』『空調』の全術式を解約しますね」 アニエスが去った直後、王城は音を立てて傾き、噴水は泥水に変わり、王都のインフラは崩壊した。 一方、アニエスは隣国の荒野で、呪われた皇帝レオンハルトと出会う。彼女が何気なく造った一夜の宿は、呪いを浄化するほどの「聖域」だった。 「君は女神か? どうか私の国を救ってほしい」 「喜んで。ついでに世界一快適な住居も造っていいですか?」 隣国がアニエスの力で黄金の国へと発展する一方、瓦礫の山となった母国からは「戻ってきてくれ」と悲痛な手紙が届く。 だが、アニエスは冷ややかに言い放つ。 「お断りします。契約外ですので、ご自分で支えていればよろしいのでは?」 これは、捨てられた万能建築士が隣国で溺愛され、幸せを掴む物語。 そして、彼女を捨てた者たちが、物理的にも社会的にも「崩壊」し、最後には彼女が架ける橋の『礎石』として永遠に踏まれ続けるまでの、壮絶な因果応報の記録。

婚約破棄された悪役令嬢は、親の再婚でできた竜人族の義理の兄にいつの間にか求婚されていたみたいです⁉

あきのみどり
恋愛
【竜人族溺愛系義兄×勇ましき病弱系三白眼令嬢】の、すれ違いドタバタラブコメ 『私たちはその女に騙された!』 ──そう主張する婚約者と親友に、学園の悪役令嬢にしたてあげられた男爵令嬢エミリア・レヴィンは、思い切り、やさぐれた。 人族なんて大嫌い、悪役令嬢? 上等だ! ──と、負けん気を発揮しているところに、大好きな父が再婚するとの報せ。 慌てて帰った領地で、エミリアは、ある竜人族の青年と出会い、不思議なウロコを贈られるが……。 後日再会するも、しかしエミリアは気がつかなかった。そのウロコをくれた彼と、父に紹介されたドラゴン顔の『義兄』が、同一人物であることに……。 父に憧れ奮闘する脳筋病弱お嬢様と、彼女に一目惚れし、うっかり求婚してしまった竜人族義兄の、苦悩と萌え多きラブコメです。 突っ込みどころ満載。コメディ要素強め。設定ゆるめ。基本的にまぬけで平和なお話です。 ※なろうさんにも投稿中 ※書き手の許可のない転載は固く禁止いたします。翻訳転載は翻訳後の表現に責任が持てないため許可しません。 気持ちよく作品を生み出せなくなります。ご理解ください。

【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

との
恋愛
第17回恋愛大賞、12位ありがとうございました。そして、奨励賞まで⋯⋯応援してくださった方々皆様に心からの感謝を🤗 「貴様とは婚約破棄だ!」⋯⋯な〜んて、聞き飽きたぁぁ! あちこちでよく見かける『使い古された感のある婚約破棄』騒動が、目の前ではじまったけど、勘違いも甚だしい王子に笑いが止まらない。 断罪劇? いや、珍喜劇だね。 魔力持ちが産まれなくて危機感を募らせた王国から、多くの魔法士が産まれ続ける聖王国にお願いレターが届いて⋯⋯。 留学生として王国にやって来た『婚約者候補』チームのリーダーをしているのは、私ロクサーナ・バーラム。 私はただの引率者で、本当の任務は別だからね。婚約者でも候補でもないのに、珍喜劇の中心人物になってるのは何で? 治癒魔法の使える女性を婚約者にしたい? 隣にいるレベッカはささくれを治せればラッキーな治癒魔法しか使えないけど良いのかな? 聖女に聖女見習い、魔法士に魔法士見習い。私達は国内だけでなく、魔法で外貨も稼いでいる⋯⋯国でも稼ぎ頭の集団です。 我が国で言う聖女って職種だからね、清廉潔白、献身⋯⋯いやいや、ないわ〜。だって魔物の討伐とか行くし? 殺るし? 面倒事はお断りして、さっさと帰るぞぉぉ。 訳あって、『期間限定銭ゲバ聖女⋯⋯ちょくちょく戦闘狂』やってます。いつもそばにいる子達をモフモフ出来るまで頑張りま〜す。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結まで予約投稿済み R15は念の為・・

遊び人の令嬢が目を付けたのは、私の真面目な婚約者でした

おいどん
恋愛
子爵家の令嬢エリーネと伯爵家の次男のノルトが婚約を結んだのは、半年前だった。 真面目で優秀なノルトに相応しい婚約者であろうとするものの、エリーネには自信がなかった。 ある日、遊び人と噂の令嬢べルティーナとノルトが共にいるところを見てしまう。 「真面目クンは壁さえ破っちゃえばこっちのもんだからね〜」 「きっと、彼女の美しさに嫉妬しているのだわ…」 「…今度は、ちゃんと言葉にするから」

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!

宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。 そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。 慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。 貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。 しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。 〰️ 〰️ 〰️ 中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。 完結しました。いつもありがとうございます!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。