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第51話
しおりを挟む問題文を何度読んでもはっきりと内容を理解できない。時折視界がぼやける。
手に力が入らなくて、何度もペンを握り直す。
(このままじゃ駄目だ……しっかりしないと)
気ばかり焦るが、鈍く痛む頭はゆらゆら揺れるだけでまともに働いてくれない。
「くっ……」
ぼろっと涙がこぼれて、濡れた頬を袖口でこする。叫び出したい気分だ。
なんとか解答欄を埋めるが、もはやそれが導き出した答えなのか意味のない記号なのかすら判然としない。
ただ時間だけが過ぎていき、最後のテストが終わった後もハリィメルは席に着いたままぼうっとしていた。
どれくらい時間が経ったのか、肩を叩かれて我に返った。
顔を上げると、ロージスが立ってハリィメルを見下ろしていた。
「帰るぞ。送っていく」
「……」
ひとりで帰ると虚勢を張る気力もなくて、ハリィメルは促されるままのろのろと立ち上がった。
そこからはほとんど覚えていない。気がつくと、自分の部屋で寝台に潜り込んでいた。
テストを受けたことを思い出すと心臓がどくどく音を立てる。どうなったっけ。どれだけ解答欄を埋められたんだっけ。
(きっと……めちゃくちゃだわ……)
ハリィメルは寝台の上で丸くなって涙を流した。
***
無理をしたのが祟ったのか、翌日から熱がぶり返して起き上がれない日々が続いた。
その間にジョナサンとアンジーが何度か訪ねてきて、謝罪と見舞金を置いていったらしい。ハリィメルは眠っているか、起きていてもぼんやりしていたので彼らの訪問に気づかなかった。
ようやく登校できるようになったのは、テスト結果が張り出される日だった。
成績上位者が張り出されるそこに、ハリィメルの名前はなかった。
しばらくその場に立ち尽くしてから、ハリィメルはきびすを返した。周りになにか言われているような気がしたが、耳に入らなかった。
ふらつきそうになる足取りで、無意識にひとりになれる場所を探したハリィメルは、中庭の楡の木の下にたどり着いた。
(……負けたんだ)
ハリィメルの周りはみんな敵だった。必死に戦ってきたけれど、結局は負けてしまった。
「ハリィメル!」
うつむいていた顔を上げて、駆け寄ってくるロージスを眺めた。
「こんなところにいたら体が冷えるぞ。熱が下がったばかりなんだろ?」
「……これで満足ですか?」
「え?」
「よかったですね。今後はずっと一位を取れますよ。……私は学校に通えなくなるんだから」
ハリィメルは口を歪めて笑った。
「満足でしょう? 私を一位から引きずり落としたかったんだから!」
「ハリィメル、俺はっ」
「あなたみたいになんでも持っている人間には、成績だけに必死にしがみついている私はさぞ滑稽だったでしょうね。……その唯一の取り柄も、夢も失って、みじめな私が見られてうれしいですかっ!?」
ハリィメルはなだめようとするロージスの手を振り払って駆け出した。
成績が落ちて人目も気にせず泣きながら走り出ていく生徒なんて、おもしろい見世物だろう。もうどうだっていい。学校中で笑いものにすればいい。
ハリィメルはそのまま校門を出て、もう戻らなかった。
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