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第23話 王太子アレン・ハッターツェルグの激励
しおりを挟むミリアが何を企んでいたのか、その目的は判明したが、彼女に対する調査は続行した方がいいのではないか。エリオットは本気でそう思い悩んだ。何せ謎が多い。
(スカーレット嬢はあんなに淑やかなのに……いや、タックルはしていたが……その義妹が何故あんなにも得体が知れないんだ?)
侯爵家に奪われた義姉を案じて泣きじゃくっていた時は普通の令嬢に見えたのに、とエリオットは思った。
「どうした?難しい顔をして」
王宮の中庭の四阿で一人思案に耽っていたエリオットをみつけて、アレンが寄ってきた。手に紐を持っており、紐の先には罪深き獣の一匹が繋がれている。白い獣が小さな前足をぱたぱたと持ち上げてエリオットにじゃれつこうとする。
「それは、ワルターレッテか?」
「いや。「エルレイン」だ。他のは散歩に連れて行かれたんだが、こいつだけ眠っていたらしくて置いていかれていてな。目を覚ましてきゅんきゅん鳴いていたから私が連れてきた」
「そうか」
ミリアの手下であった飢えた獣達は王宮の裏庭に立てられた「罪深き獣達の小屋」に捕らえられ、「鋼鉄の騎士団」と異名を取る猛者揃いの第三騎士団に監視と調教が任されている。彼らの報告によると、近頃はロレイン公が人目を忍んで小屋に立ち入り「きゅん!」「そうかそうか」「くぅん」「おお。わかってくれるか」など獣達と怪しい会話をしているらしい。気むずかしく無口な公爵が自分から話をしにいくとは。よからぬ事を企んでいるかもしれない。
「さては、明日の昼食のことで悩んでいるな?」
ベンチの隣に腰掛けたアレンがニヤニヤしながら言った。
「大方、何を話せばいいかわからないんだろう」
「あ?ああ、まあ……」
エリオットは曖昧に返事をした。考えていたのはミリアのことだが、スカーレットと何を話せばいいのかわからないのも確かだ。
「俺は今まで婚約者がいなかったし、女性の好む話題など何も知らん。アレンは、普段エリザベート嬢と二人きりのときはどんな話をしているんだ?」
「別に。天候の話や貴族の動向の報告などだ。面白くも何ともない」
アレンはふん、と面白くなさそうに鼻を鳴らした。
いかにも嫌そうな顔をしているが、エリザベートが婚約を解消して修道院へ行こうとした時には「可愛い」と言って引き留めた癖に、とエリオットは呆れた。
「婚約者の務めとして、月に一回の茶会にも顔を出しているけどな。エリザベートの奴、茶会ではいつもしかめっ面で、向かい合って茶を飲んでいてもずっと居心地の悪そうな顔してるんだ。そして、やけにさっさと帰りたがる。そんなにも私と二人きりで茶を飲むのが嫌なんだ、あいつは」
アレンはそう言って憤慨した。
エリオットは首を傾げた。エリザベートは無表情で愛想がないと言われるだけあって、よほどのことがない限り表情を崩さない。そのエリザベートが、心の内を隠せないくらいアレンとの茶会が嫌がっているのだろうか。にわかには信じがたい。
アレンは気を取り直したように笑った。
「まあ、女嫌いのお前にようやく出来た婚約者だ。私達も上手くいくように協力は惜しまない」
「なんだそれ。俺とスカーレット嬢の婚約は、スカーレット嬢を好色な貴族から守るためのものだ。本当に結婚するわけではないのだから」
言い掛けて、エリオットは不意に喉が詰まったような感じを覚えた。一度軽く咳き込んでみるが、何も詰まってはいない。エリオットは首を傾げた。
「いっそ本当に結婚すればいいじゃないか。男爵家では身分違いだが、スカーレット嬢の評判がいいおかげで婚約は認められたのだし。なんの問題もないだろう」
アレンがエリオットの背中を叩き、エルレインが足にしがみついてへっへっと舌を出す。
エリオットはスカーレットを抱き上げた時のことを思い出しかけて、それを頭から振り払った。
「俺は、結婚はしない」
低い声で言うと、アレンはしょうがないものを見る目でエリオットを見た。エルレインがきゅん、と鳴く。
「まあ、今は深く考えずに、まずはスカーレット嬢と友人になるところから始めたらどうだ?」
励ますように言われて、エリオットは神妙な顔で頷いた。
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