義妹がやらかして申し訳ありません!

荒瀬ヤヒロ

文字の大きさ
32 / 55

第32話 男爵令嬢ミリア・バークスの糾弾





 校舎内を一回りしたが、エリザベートもミリアもみつからない。

「くそっ!エリザベートをどこに隠したんだ!」

 アレンが焦りを滲ませて唸る。

「あと探していない場所は……天井裏か?」

 エリオットも額を押さえて悩む。

「もしかしたら、学園の外に連れさられたのかも……」
「そんなっ」

 男二人が絶望しかけている横で、スカーレットは窓から庭を見て人影を探していた。
 昔、ミリアが男爵家に来たばかりの頃、使用人がたくさんいる家の中では息が詰まってしまうだろうと、よく庭に連れ出した。そして、一人になりたい時に上手く身を隠す方法や、野外で過ごさなければならなくなった時の心得を教えてやった。
 そのことを思い出してじっと緑に目を凝らしていたスカーレットの目に、か細くたなびく煙が見えた。
 スカーレットはハッとしてエリオットとアレンを呼んだ。

「王太子殿下!エリオット様!―――森です!」


 スカーレットに従って裏庭から続く森へ駆け込んだ時、エリオットはふっと胸が騒いだ。スカーレットの後ろ姿に、小さな影が重なる。
 エリオットは走りながら頭を振り、幻影を打ち払った。
 川の近くまで来た時、少女の悲鳴が耳に届いた。

「や、やめて!これ以上は……っ」

「エリザベート!?」

 アレンがその声に息を飲んだ。

「駄目よ、こんなの……っ!」
「くくく……口ではそんなこと言って、体は正直ですよ?ご自分がどんなに物欲しそうな顔をなさっているか理解していらして?」
「わ、わたくしはそんなはしたないことっ……」
「いいではありませんか。ここには私しかいないのですから、王太子殿下の婚約者でも、公爵令嬢でもなく、ただの一人の少女として自らの心に正直になっても」
「無理よ……わたくしはずっと、それを隠して……これからだってっ」
「偽りの姿のままではビルフォード様のお心が死んでしまいます。ほら……今だけは欲望に逆らわず思うままに貪って」

「エリザベート!!」

 自らの婚約者が今まさに悪魔に誘惑されている。彼女が堕ちてしまう前に救い出さねばと、アレンは声の聞こえる方へ飛び込んでいった。

「エリザベート!無事かっ!?」

「ああっ!わたくしは、もぐもぐ、なんて罪深いもぐ、ことをっ……」
「ほーら、もっと振りかけますよ~」
「こ、これ以上は神がお許しにならないわっ、もぐっ」

 ぱちぱちと焚き火がはぜる。煙と共に香ばしい匂いが流れ、串に刺されて程良く焼けた魚にミリアが塩を振りかけている。
 そして、その塩がたっぷりかけられた魚の串にかぶりついているのが、エリザベートだった。

「どうですか?ビルフォード様」
「うう……わたくしは罪深い……もぐ、おいひぃ……」

 いつもの無表情をくったりと緩めて、エリザベートが膨らんだほっぺをもぐもぐと動かす。

「エ、エリザベート……?」
「きゃっ!……殿下!?」

 アレンの存在に気づいたエリザベートが、魚にかじりつくのを止めて慌てて口を押さえた。しかし、食べかけの串は放さない。

「ここで何をしているんだ?」
「う……」

 アレンに問われて、エリザベートは顔を青ざめさせ目を潤ませた。
 その横では塩を持つ義妹にタックルを食らわして地面に倒したスカーレットが、そのまま流れるように寝技に持ち込んでいる。

「お姉様!ギブギブ!」
「黙りなさい。貴女はいったい何をしているの?私はこんなことをするために貴女にサバイバル術を教えたのではなくてよ?」
「スカーレットが……?」

 追いついたエリオットは判明した事実に呆然とした。
 いったいスカーレットは何を思って義妹にサバイバル術など教えて……いや、何故男爵令嬢がサバイバル術など知っていたのだろう。

「私、昔は少々やんちゃだったのです」
「そ、そうなのか?」
「ふっ、フレイン様。女の子には誰だって素敵な秘密があるものなのですよ」

 腕を取られて締め上げられながら、ミリアが不敵に笑う。

「エリザベート……お前にも秘密が?」
「うう……わ、わたくしは……このような姿を見られた以上は修道院にっ……」
「待て待て待てっ!!」

 その場から串を持ったまま逃げ出そうとしたエリザベートの手を捕まえて、アレンは真剣な表情で迫った。

「何を隠しているのか知らないが、ミリア嬢に知られて脅されたのだな?ならば私にも教えろ。私はそれがどのような秘密であれ、誰にもお前を脅させたりしないと誓う。たとえミリア嬢が相手であってもだ」
「殿下……」

 エリザベートは潤んだ瞳でアレンとみつめあった。

「何故、皆様、私をそんなに脅威みたいに言うのでしょう?」
「貴女の日頃の行いのせいよ」

 不思議そうにするミリアに、スカーレットが呆れた顔で言う。

「殿下……わたくしは、ずっと取り繕っていたのです。長年に渡って殿下を欺いて参りました……」

 エリザベートはそっと目元を押さえて言った。

「ずっと隠してきたそれを……ミリア嬢に見破られてしまいました」

 アレンは必死に涙をこらえるエリザベートを捕まえたまま、ミリアを睨みつけた。

「貴様はその事実を突きつけて、エリザベートを追いつめたのか!」
「ふっ。とんだお笑い草ですわね、殿下!」
「なにっ!?」
「私がビルフォード様を追いつめたですって!?ほほほ!殿下にそんなことを言われるだなんて、ちゃんちゃらおかしいですわ!」
「貴様……っ」

 スカーレットに絞められたまま挑発するミリアに、アレンの怒りが濃くなる。だが、ミリアは少しも臆さずにアレンを睨み返した。

「ビルフォード様をよく見ていれば、すぐに気づいたはずですわ!出会ったばかりの私が気づいたことを、どうして婚約者である殿下が気づいて差し上げられなかったのです!?」

 ミリアの糾弾に、アレンは口を噤んだ。
 それを見て嘲るように笑ったミリアは、いまだに真実に気づいていない王太子に教えてやった。

「殿下、ビルフォード様はおそらく、茶会の際にあまり楽しそうにされず浮かないお顔をされているのでは?」
「な、何故それを……」
「私、お姉様を救いたくて、殿下を脅迫するためにビルフォード様の動向を窺っていたことがあるんですけれど」

 王太子を脅迫するネタを探していたと堂々と暴露して、ミリアが続ける。

「その時に気づいたのです。ビルフォード様は常におひとりで昼食を取られていますが、注文するメニューはいつもスパイスをたっぷり使った料理です。そして、絶対にデザートを注文しません。食後のお茶には砂糖もミルクもいれません」

 アレンとエリオットは何のことがわからず首を傾げたが、スカーレットは何かに気づいたようにハッとしたし、エリザベートは唇を噛んで俯いてしまった。

「おわかりになりませんか?」
「いや、さっぱり……」
「鈍い!つまり、ビルフォード様は、辛党なのです!!」

 …………

「……は?」

 アレンは鳩が豆鉄砲食らったような顔になった。








感想 17

あなたにおすすめの小説

選ばれなかったのは、どちら?

白瀬しおん
恋愛
「あなた、本当にうちの家にふさわしいと思っているの?」 その一言で、すべては終わるはずだった。 婚約者は沈黙し、公爵夫人は微笑む。 わたくしはただ、静かに席を立った。 ――それで、終わりのはずだったのに。 届いた一通の封書。 王城からの照会。 そして、夜会に現れた“迎え”。 その日、選ばれたのは――どちらだったのか。

「三番以下を取りなさい」と五年言われ続けたので、公開試験で本気を出しました

歩人
ファンタジー
王立魔法学院、入学時首席のリュシエンヌは、婚約者レイナルト公爵令息から五年間「女は三番以下を取れ」と命じられてきた。学院の序列は国家序列の縮図。レイナルトは常に一位に居続けた。婚約披露を控えた十九歳の春、レイナルトが新しい婚約者を連れて告げる。「お前では並び立てぬ。学力も身分も、足りなすぎる」——リュシエンヌは微笑んで、その翌日の年次公開試験で、五年封じてきた本気を出した。国王臨席の場で、史上最高点。魔法局長官が教授陣に命じる。「過去五年間の彼女の実測点と、もし本気で受けていたら出せた推計点を、公表したまえ」。教授陣は震える手で数字を並べた。レイナルトの「首席」は、全て彼女が譲った場所だった。

悪役令嬢が睨んでくるので、理由を聞いてみた

ちくわ食べます
恋愛
転生したのは馴染みのない乙女ゲームの世界だった。  シナリオは分からず、登場人物もうろ覚え、タイトルなんて覚えてすらいない。 そんな世界でモブ男『トリスタン』として暮らす主人公。 恋愛至上主義な学園で大人しく、モブらしく、学園生活を送っていたはずなのに、なぜか悪役令嬢から睨まれていて。 気になったトリスタンは、悪役令嬢のセリスに理由を聞いてみることにした。

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

折角転生したのに、婚約者が好きすぎて困ります!

たぬきち25番
恋愛
ある日私は乙女ゲームのヒロインのライバル令嬢キャメロンとして転生していた。 なんと私は最推しのディラン王子の婚約者として転生したのだ!! 幸せすぎる~~~♡ たとえ振られる運命だとしてもディラン様の笑顔のためにライバル令嬢頑張ります!! ※主人公は婚約者が好きすぎる残念女子です。 ※気分転換に笑って頂けたら嬉しく思います。 短めのお話なので毎日更新 ※糖度高めなので胸やけにご注意下さい。 ※少しだけ塩分も含まれる箇所がございます。 《大変イチャイチャラブラブしてます!! 激甘、溺愛です!! お気を付け下さい!!》 ※他サイト様にも公開始めました!

悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。 でも、ヒロイン(転生者)がひどい!   彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉ シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり! 私は私の望むままに生きます!! 本編+番外編3作で、40000文字くらいです。 ⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。

婚約破棄された無表情令嬢は、暴君王子のパーフェクトメイドとして再就職しました〜クビになりたいのに、完璧な仕事ぶりでなぜか執着されています〜

れおぽん
恋愛
「お前のような可愛げのない女は要らない。婚約は破棄だ!」 ​無実の罪を着せられ、元婚約者から捨てられた元伯爵令嬢のクロエ。 実家からも追放された彼女が生きるために選んだのは、隣国の「暴君」と恐れられる王子の専属メイドという超ブラックな職場だった。 ​少しでも機嫌を損ねれば命はないと周囲が震え上がる中、生来の鉄面皮と図太い神経を持つクロエだけは違った。 彼の放つ殺気や威圧を「今日は少しご機嫌斜めですね」とスルーし、完璧なメイドの仕事(紅茶の温度調整から暗殺者の物理的排除まで)を淡々とこなしていく。 ​自分を全く恐れないクロエに対し、暴君王子は強烈な興味と執着を抱き始める。 あの手この手で彼女の気を引こうと、過保護なまでに構ってくる王子。しかしクロエ本人は「今日も給金に見合った仕事をしなければ」としか思っていなくて……。 ​一方その頃、超有能な彼女を失った元婚約者は領地経営が破綻し、没落の一途を辿っていた。 慌ててクロエを連れ戻そうとするが、彼女に執着しきった暴君王子がそれを許すはずもなく。 ​「俺のメイドに気安く触れるな。……国ごと消すぞ」 ​有能すぎる無表情メイドと、彼女の気を引きたい暴君王子の、すれ違いコメディ&激重溺愛ファンタジー

私を欠陥品と呼ぶ執事長が鬱陶しいので、侯爵夫人として排除することにしました

菖蒲月(あやめづき)
ファンタジー
「欠陥品に払う敬意など無い」 結婚後もそう言って嫌がらせを続けるのは、侯爵家の執事長。 どうやら私は、幼少期の病が原因で、未だに“子を産めない欠陥品”扱いされているらしい。 ……でも。 正式に侯爵夫人となった今、その態度は見過ごせませんわね。 証拠も揃ったことですし、そろそろ排除を始めましょうか。 静かに怒る有能侯爵夫人による、理性的ざまぁ短編。 ________________________________ こちらの作品は「小説家になろう」にも投稿しています。