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第37話 公爵令息エリオット・フレインの初恋
しおりを挟む「婚約者がいなくて、優しくて、家格がそれなりで、そこそこ優秀で、容姿も平均以上で、何より誠実な男だ!」
「ジム・テオジール」
生徒会室でそうぶちまけると、間髪入れずに答えが返ってきた。
エリオットはむっと口を尖らせた。
答えを返したクラウスが、呆れたようにエリオットに目をやる。
「いきなりなんだ?」
「……スカーレットにふさわしい男を探している」
その言葉に、全員が仕事の手を止めてエリオットを見た。
「突然何を言っている」
「突然じゃない。最初からそういう話だっただろう」
エリオットは目を逸らして言った。エリオットとの婚約は一時的なものだと、スカーレットだって理解している。
だから、きちんとした相手を探してやらなくてはならない。
そう主張するエリオットに、一同は不可解だと言いたげなまなざしを向けた。
「エリオット。お前は女嫌いだと公言しているが、自分から近寄らないだけで、女だからと言う理由で攻撃したり貶めたりは決してしない。そして、スカーレット嬢に対しては優しく接している。俺としては、このままスカーレット嬢と結ばれてもらいたいのだがな」
アレンの言葉に、他の三人も深く頷く。
「スカーレット嬢に対しては婚約した経緯がああだったから、一時的な婚約という部分にこだわりすぎているんじゃないのか?」
「だいたい他の相手を探すったって、めぼしい令息は既に婚約済みだろ。未だに婚約者がいないのは、家か本人になんらかの問題がある者ばかりだ」
「スカーレット嬢の意見をきちんと聞くべきですわ」
エリオットは黙って俯いた。ガイの言う通り、家にも本人にも問題のない令息はさっさと望まれて婚約してしまっている。ならばやはり、ジム・テオジールとの再婚約しかないのではないか。
しかし、ジムはスカーレットに恋のような感情は抱いたことがないと言っていた。
(スカーレットの幸せのためには、俺はどうしたらいいんだ?)
黙り込むエリオットを見て、エリザベートが肩をすくめた。
「ここで一人で空回りしていても無駄ですわ。スカーレット嬢と話し合う時間を設けるべきです」
「ああ、そうだな」
アレンもふっと軽く溜め息を吐いた。
「エリザベート。明日の放課後、生徒会室へ来るようにスカーレット嬢へ伝えてくれ」
「かしこまりました、殿下」
アレンはエリザベートにそう言付けると、ひたとエリオットを見据えた。
「エリオット。お前は、スカーレット嬢との婚約の何が一番受け入れ難いんだ?」
エリオットは口を噤んだ。
何が受け入れ難いのか。問われて脳裏に浮かんだのは、菫色の瞳を緩ませて微笑むスカーレットの笑顔。でも、その笑顔をかき消すように、赤い血を流して呆然としていた女の子の姿が浮かんでくる。
「……俺は、スカーレットにふさわしくない」
四人は顔を見合わせた。
「ミリア嬢に聞いたんだが、スカーレットは幼い頃から男爵に放置されて子供の頃は寂しくて荒れていたらしい。ジム・テオジールと婚約してから今のような淑女になったそうだ」
エリオットはぎゅっと鼻先に皺を寄せた。
「父親の愛を得られずに寂しい思いをしたんだ。結婚する相手はちゃんとスカーレットを愛する奴じゃないと駄目だ!」
四人は力強く言うエリオットをしばし無言で眺めていたが、不意にアレンが「ぶっ」と吹き出した。
それに続いて、クラウスとガイも笑い出した。エリザベートも引き結んだ口元をぶるぶる震わせている。
「なんで笑うんだよ!」
「いや、もう……ははは。悪い、おもしろい」
「自分は女嫌いだって思い込んでるから自覚出来ないんじゃないか?」
「そんだけスカーレット嬢のこと考えてるんんだから、もう認めちまえばいいのに」
男達は腹を抱えてけたけたと笑う。
エリザベートは微妙な笑顔でエリオットを見た。
「なんだかいろいろ考えていらっしゃるようだけど、今日あなたがここで喋ったこと、要するに全部「スカーレット嬢に幸せになってもらいたい」という想いだけでしたわよ?」
エリオットは面食らって言葉を失った。
硬直するエリオットの耳に、愉快そうなアレンの声が届いた。
「エリオットの初恋か。まあ、大いに悩むといい」
なんでそうなるのか。抗議の声を上げようとして、なのに何故か喉がひっかかったようになって上手く声が出せなかった。
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