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第8話
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「お前はなかなか聡明そうだ。呪われているとはいえ離宮で静養中の公爵に結婚してくれと直談判に来るなど、普通は許されないことだと十二分にわかっていただろう」
当然だ。礼儀どころではない非常識な行いであり、処罰を与えられるのが普通だ。
「それでも、お前は「俺と会って求婚した」という事実を作らねばならなかった。「蛇の呪いに魅入られて錯乱した」と周囲に思わせるために」
レイチェルはヴェンディグの話を遮らずに聞いていた。
「蛇に呪われた生贄公爵と対面したというだけでも恐れる輩がいるだろうに、さらに求婚までしたとあっては、おかしくなったか蛇に魅入られたとしか思えない。そんな女を自分の家に入れたいと思う貴族はいないだろう。モルガン侯爵が気味悪がって手を引いてくれることを狙ったんだな」
「……申し訳ありません」
レイチェルは素直に認めた。
「そんな呪われた娘を家に置いておきたくないと、両親が自分を神殿にでも預けてくれることを期待していたんじゃないか?」
「あわよくば、そのようになれば神に祈って穏やかに暮らせるとは思いました」
「幼い頃より呪いに苦しんでいる気の毒な公爵様を利用するとは、とんだ悪女ではないか」
「たいへん申し訳ございません」
レイチェルは眉間に皺を寄せて目を閉じた。すべて、ヴェンディグが見抜いた通りだ。レイチェルはあの家から、両親から逃げるために、ヴェンディグの境遇を利用したのだ。
改めて思い返すと、自分の恥ずべき行いに胸が苦しくなる。
けれど、今朝のレイチェルにはもう他の方法を考える余裕などなかったのだ。
「お怒りも、お叱りも当然にございます。如何様にも罰を受ける所存です。ただ……出来るならば、お側に仕えお役に立つことで罪を償いたく存じます」
レイチェルは静かに目を開けた。冷たく見下ろしてくるヴェンディグの目を見つめ、震えそうになる体を抑えて横たわっていた。
ほどなく、ヴェンディグは「ふん」と息を吐くと、レイチェルの上から退いて寝台を降りた。レイチェルが身を起こすと、ヴェンディグが「ライリー!」と呼ばわる。
すると、次の間の扉が開いてライリーが寝室に入ってきた。
ずっと扉の前に控えていたのか、と思うと、レイチェルはライリーを直視できなかった。
大事な主君を利用されたと知って、ライリーは怒り心頭なのではないか。一見すると無表情の顔に怒りが滲んでいるようには見えないが、内心どう思っているのか定かではない。
「部屋の準備が出来るまで、お前がレイチェル嬢の相手をしろ」
「かしこまりました」
「俺は一眠りする」
ヴェンディグが寝台に腰掛けたので、レイチェルは慌てて立ち上がった。
「レイチェル嬢。こちらへ」
「はい。あっ、あの……閣下!」
ライリーに促されたレイチェルは、寝室を後にする前にヴェンディグにこれだけは言っておかねばならないと口を開いた。
「ありがとうございます、本当に」
すべてを見抜いた上でレイチェルを受け入れてくれたヴェンディグは、寝台の上でひらひらと手を振った。
「お前はなかなか聡明そうだ。呪われているとはいえ離宮で静養中の公爵に結婚してくれと直談判に来るなど、普通は許されないことだと十二分にわかっていただろう」
当然だ。礼儀どころではない非常識な行いであり、処罰を与えられるのが普通だ。
「それでも、お前は「俺と会って求婚した」という事実を作らねばならなかった。「蛇の呪いに魅入られて錯乱した」と周囲に思わせるために」
レイチェルはヴェンディグの話を遮らずに聞いていた。
「蛇に呪われた生贄公爵と対面したというだけでも恐れる輩がいるだろうに、さらに求婚までしたとあっては、おかしくなったか蛇に魅入られたとしか思えない。そんな女を自分の家に入れたいと思う貴族はいないだろう。モルガン侯爵が気味悪がって手を引いてくれることを狙ったんだな」
「……申し訳ありません」
レイチェルは素直に認めた。
「そんな呪われた娘を家に置いておきたくないと、両親が自分を神殿にでも預けてくれることを期待していたんじゃないか?」
「あわよくば、そのようになれば神に祈って穏やかに暮らせるとは思いました」
「幼い頃より呪いに苦しんでいる気の毒な公爵様を利用するとは、とんだ悪女ではないか」
「たいへん申し訳ございません」
レイチェルは眉間に皺を寄せて目を閉じた。すべて、ヴェンディグが見抜いた通りだ。レイチェルはあの家から、両親から逃げるために、ヴェンディグの境遇を利用したのだ。
改めて思い返すと、自分の恥ずべき行いに胸が苦しくなる。
けれど、今朝のレイチェルにはもう他の方法を考える余裕などなかったのだ。
「お怒りも、お叱りも当然にございます。如何様にも罰を受ける所存です。ただ……出来るならば、お側に仕えお役に立つことで罪を償いたく存じます」
レイチェルは静かに目を開けた。冷たく見下ろしてくるヴェンディグの目を見つめ、震えそうになる体を抑えて横たわっていた。
ほどなく、ヴェンディグは「ふん」と息を吐くと、レイチェルの上から退いて寝台を降りた。レイチェルが身を起こすと、ヴェンディグが「ライリー!」と呼ばわる。
すると、次の間の扉が開いてライリーが寝室に入ってきた。
ずっと扉の前に控えていたのか、と思うと、レイチェルはライリーを直視できなかった。
大事な主君を利用されたと知って、ライリーは怒り心頭なのではないか。一見すると無表情の顔に怒りが滲んでいるようには見えないが、内心どう思っているのか定かではない。
「部屋の準備が出来るまで、お前がレイチェル嬢の相手をしろ」
「かしこまりました」
「俺は一眠りする」
ヴェンディグが寝台に腰掛けたので、レイチェルは慌てて立ち上がった。
「レイチェル嬢。こちらへ」
「はい。あっ、あの……閣下!」
ライリーに促されたレイチェルは、寝室を後にする前にヴェンディグにこれだけは言っておかねばならないと口を開いた。
「ありがとうございます、本当に」
すべてを見抜いた上でレイチェルを受け入れてくれたヴェンディグは、寝台の上でひらひらと手を振った。
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