47 / 98
第47話
しおりを挟む***
夜会の会場から抜け出して、庭を歩いて涼んでいたパメラは口元に笑みを浮かべた。
「うふふ……ふふふっ、ははは」
誰もいない庭の隅で、パメラは体を折り曲げて笑い出した。
「あはははっ! 信じられないわ! 王太子殿下とお会いしたのよ! 私が!」
惨めな暮らしを送っていた子爵令嬢が、王都できらびやかなドレスを身にまとい王太子に出会った。
「信じられない……夢のようだわ」
パメラはほうっと呟いた。
「……いいえ、夢なんかじゃないわパメラ。前の暮らしが間違っていたの。今のこの世界が本当のあなたの世界よ」
一人で庭を歩き、パメラは言う。
「全部上手くいくわ。そうよ。あなたには華やかな世界がふさわしいわ」
いつの間にか裏庭の草が深く生い茂る場所までやって来てしまったことに気づいて、パメラは足を止めた。こちらには今は使われいない離れがいくつかあるらしい。
踵を返そうとした時、嗄れた声がした。
「……だれ? 誰かいるの?」
ひび割れて耳障りな、女の声だ。
パメラは辺りを見回した。すぐ側の離れの建物の下から白い指が覗いていた。半地下になっているらしい。窓には鉄格子が嵌まってほんのわずかに地上が見える程度だ。
「誰かいるのね? お願い、助けてっ、閉じ込められてるのっ!」
声には聞き覚えがあった。
「……エリザベス?」
パメラは怪訝な表情を浮かべて窓に近寄った。
「え? パメラ? パメラなの!?」
半地下に閉じ込められているのは義姉のエリザベスだった。
「あなた、こんなところにいたの……」
「……っ何よ! あんたのせいじゃないっ! なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないのよつ!」
エリザベスは鉄格子を掴んで怒鳴った。
「早く助けなさいよっ! 出して! ここから出してっ!」
パメラはすうっと表情を決して目を細めた。
「私のせい? おかしいわね。我が家にモルガン侯爵を呼んだのはあなたとマデリーンでしょ? それとも、「娘を売りたいがいくらで買う?」と連絡したのはお父様かしらね?」
「そ、それは……っ」
エリザベスがひくっと呻いた。
「あなた達は私がこんな目に遭うと知っていて、私を売ったお金で面白おかしく暮らすつもりだったのでしょう? なんでそんな連中を私が助けなくちゃならないのよ」
「う、うるさいわねっ! いいから出してよ! 早く出せ、このっ」
「……救い難い醜悪さね。あなたにはこの半地下がお似合いよエリザベス。モルガン侯爵と仲良く暮らしてね」
パメラははんっと鼻で笑って踵を返そうとした。
「まっ、待って! 私を置いていくつもり!?」
「当然よ。だって、あなた達が侯爵を呼んだのだもの。自分で責任を取りなさいよ」
「い、嫌よ! 嫌よ! もう嫌! 助けてよ! お願い!」
泣き叫ぶエリザベスをパメラは冷たい表情で見下ろした。
「全部、自業自得よ」
「わかったわよ! 謝るから! 助けてってば!」
「……何が「わかった」よ。母親に似て汚らしい性根をしているわね……誰もあんたなんか助けないわよ……自分が助けてもらえるような人間だと思っているの? とんでもない思い上がりね! あんたみたいな汚らしい屑は苦しみ抜いて死ねばいいのよっ! 死ねっ……死ね死ね、死ね死ね死ね死ね死ね!!」
パメラは鉄格子を蹴りつけた。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねっ!!」
「うふふふふふあははははははあっふふふふふ」
エリザベスの耳には、狂ったように怒鳴り続けるパメラの声に混じるように、耳障りな金属音に似た不気味な女の哄笑が聞こえていた。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる