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第71話
しおりを挟む「ライリー……っ」
ヴェンディグは顔を歪めた。
「その蛇のせいで、ヴェンディグ様は王となる未来を奪われた。憎いでしょう? その蛇を追い出し、シャリージャーラは我ら人間の力で狩りましょう! ——もう、お前の好きにはさせない! 蛇の王!」
「っ!?」
懐に手を入れたライリーが、ヴェンディグに向かって何かを放った。
がしゃん、と音がする。髪に、触れた感触。甘い、匂い。
ヴェンディグの胸に鋭い痛みが走り、黒い煙が噴き出した。
「ぐっ……」
ヴェンディグの胸から噴き出た黒い煙の塊が蛇の頭に変わり、ずるずるとヴェンディグの中から抜けていく。ナドガは苦悶するように身を捩らせていた。
「ナドガっ……」
伸ばした左腕から、赤黒い痣が消えていく。いくらも経たずに、ナドガは完全にヴェンディグの中から抜け出していた。
現れた黒い大蛇に、兵士達が慄きながら剣を構える。
「おのれ! 化け物!」
誰かの声が合図になって、兵士達が一斉にナドガに切りかかった。
「よせ……っ!」
頭から浴びせられたラベンダーの精油の匂いにむせながら、ヴェンディグは兵士達を押しのけてナドガに駆け寄った。
ナドガは全身を切りつけられて血を流し、突き立てられた剣が何本か刺さった体でしゅうしゅうと息を吐いた。
ヴェンディグはナドガの鼻先に腕を回し、兵士達と対峙した。ラベンダーの匂いが充満したこの空間から、なんとかして抜け出さなければ。ヴェンディグは声を低めてナドガに囁いた。
「ナドガ……行けるか?」
ナドガは返事の代わりにぐるるる……と唸り、ヴェンディグの服を噛んだ。
「ヴェンディグ様、その蛇から離れてください」
ライリーが言う。
「ライリー……目を覚ませ。ナドガを殺せば、シャリージャーラを倒せる者はいなくなる」
ヴェンディグは真っ直ぐにライリーの目を見つめた。十二年間、共に過ごしてきた。ライリーがそれほど簡単にナドガを見限るとは信じられなかった。
「目を覚ますのはヴェンディグ様の方です。蛇の王を信じて十二年間を無駄にした。これ以上……あと何年……何十年、犠牲にしなければならないんですっ!?」
「ライリー……」
ライリーは歯を食いしばって俯いた。蛇の王さえいなくなれば、自由になれる。頭に浮かぶのはそれだけだった。
「……ラベンダーを浴びせて蛇を弱らせろ! ヴェンディグ様には極力怪我をさせるな!」
「ライリー!!」
ライリーの命令に従い、兵士達はラベンダーの精油が入ったガラス瓶を取り出し手に構えた。ナドガが低く唸った。
力づくで突破するしかない。ヴェンディグがそう決意した。
次の瞬間、
「ヴェンディグ様!!」
ヴェンディグははっとして目を見開いた。
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