タンブルウィード

まさみ

文字の大きさ
301 / 302

短編 lucid dreaming (「Black Widowers12」のスワロー視点)

スワローは束の間夢を見た。

「寝てるのか」

聞き間違えるはずがないピジョンの声。緩く閉ざした瞼の向こうに半分だけ血を分けた兄がいる。固唾を飲む音さえ聞こえた気がした。
長くしなやかな指がおずおずと顔に触れる。睫毛に伝わる震え。行ったり来たりタブーに怯む臆病さ。手の甲が頬を撫で、輪郭に添って滑り降りていく。

くすぐってえよ馬鹿。

体が自由に動くなら即座に跳ね起きてぶん殴っていたが、同時に抗い難い心地よさを感じる。

ああそうだ、手懐けるって表現がぴったりだ。母に客が来るたび車の陰に逃げ込んだ記憶が過ぎる。まだ小さい自分を後ろから抱き締め、行為の間中両手で耳を覆っていた、ピジョンの体温と鼓動を思い出す。

あの時からピジョンはスワローにとって特別だった。
ピジョンに触れられると汚れが浄化される気がした。
俺がどんなに汚れ切ってもコイツはキレイなまんまでいると、無邪気にそう信じられた。

体がだるい。ふわふわして気持ちいい。シーツに投げ出した指先を曲げるのさえ面倒だ。一体どうしちまったんだ俺は?前後の記憶は曖昧で所々時系列が飛んでいる。

路地裏で野郎をとっちめて……奪った薬を打って……あれからどうやって帰って来たのか、どうしても思い出せない。

「スワロー。俺のスワロー」

ピジョンがスワローの名前を呼ぶ。所有格で呼び直す。
顔中に指が触れる。一本一本睫毛を数え、かと思えば鼻のカーブを辿り、唇の膨らみをなぞっていく。

くすぐってえ。よせ。

拒絶の意思は言葉にならず、意識の端に上ったそばから弾けて消える。ピジョンの指は汗でしっとり湿り、甘ったるいガンパウダーの匂いがした。

「スワロー。スワロー」

ただ名前を呼んでいるだけにも関わらず、所有格で語られている錯覚を起こす。
今日のピジョンは変だ。薬でもキメたのか。いやまさか、あのピジョンだぜ?
クソ真面目な兄貴に限ってンな馬鹿な真似

「大丈夫。優しくする。痛い思いはさせない」

思い詰めた声と切実な愛撫に体が疼く。下着を脱がされていると理解した時には既に遅く、萎えたペニスに指が掛かる。

「んっ、は」

剥けた先端を熱い粘膜が含む。唾液の滑りと煽情的な舌遣いが刺激となり、徐々に陰茎が勃ち上がっていく。ピジョンがスワローの下半身に被さってフェラチオしている。目を開けなくてもわかる、何度もさせたことだから想像するのは簡単だ。普段は嫌がるくせに、今は自ら進んで咥えている。

スワローは心の中で笑いだす。

こんな夢なら大歓迎だ。なあ、どんな顔してんだよ兄貴。俺のモン夢中でしゃぶってる、ドエロいフェラ顔見せてくれよ。

薄目を開けて確かめたい誘惑に襲われるも、体が言うことを聞いてくれない。仕方なく先端に意識を集中する。唾液を捏ねる音に荒い呼吸が混じり、痛々しいまでの必死さが伝わってくる。

ピジョンの手が股間をこね回す。そろそろ固くなり始めた陰茎を持ち、窄めた唇で亀頭を刺激し、咥え、全体に満遍なく唾液をまぶしていく。
鈴口から分泌された苦いカウパーも好き嫌いせず飲み干し、一番感じる裏筋に息継ぎをして舌を這わせ、パンパンに張り詰めた睾丸まで惜しみなく可愛がる。

「っ……ふ……」

これは夢だ。そうに違いない。じゃなきゃピジョン如きのテクで感じるわけねえ。最初の頃のフェラはお粗末だった、口に出し入れするだけでえずいていた。そのピジョンが半睡状態の自分をリードしてるなんて断じて認めたくない。

何のんきにおねんねしてんだヤング・スワロー・バード、とっととコイツをぶっとばせ、ド腐れ駄バトに好き勝手やらせてんじゃねえ。

反発する心とは裏腹に下半身はいきりたち、切な苦しい射精欲が膨張していく。

「スワロー」
蕩ける口腔が思考を溶かす。ピジョンの手がしとどに溢れたカウパーをすくって伸ばし、スワローからは見えない後孔にまぶしていく。
アナルを圧迫される違和感。ピジョンには許したことのない場所が、ピジョンの指に犯されている。

ざけんな、やめろ。

喉元まで出かけた声を強烈な快感が蹴散らす。子供の頃からさんざん使い込んできたアナルは、カウパーのぬめりに乗じ、長く節くれだった指をあっさり飲み込んでしまった。

「…………!」

ピジョンは丁寧にスワローのアナルをほぐす。まずは人差し指を挿し、次に中指と薬指が沈む。三本に束ねた指がアナルに出し入れされる都度、激しい快感に体が跳ねる。

気持ちいい。
気持ち悪ィ。
どっちも嘘じゃねえ。

鍛え抜かれた狙撃手の指にこれでもかとかきまぜられ、ドラッグに酔った理性がぐずぐずにふやけていく。

「っ、ぐ」
「大丈夫。怖くない。俺がいる」

熱い手がスワローを抱き締め、駄々っ子をあやすみたいに背中をさする。

「ごめんよ」

掠れた声で囁かれ、瞼の裏に無様な泣き笑いが浮かぶ。

「お前のこと、抱くぞ」

ピジョンが静かに宣言する。スワローの耳には懺悔に聞こえた。その顔がどうしても見たくなり、倦怠感に抗って薄目を開ける。

「ピジョン」
「ここにいる」

潤んだ視界を占めるピジョンは、予想通りの泣き笑いのまま、スワローの手を取って自らの頬に導く。その胸元に揺れているのは弟とお揃いのドッグタグ、あのクソ忌々しい十字架は見当たらない。

ああ、やっと。
漸く。

「お前の中からダドリーの残りかすを追い出してやる」

やっとお前の中から邪魔者を追い出すことができた。
俺の勝ちだ。
コイツは俺のモンだ。

「ッふ、ぁあっ」

神様なんて知ったことか。義理立てする値打ちもない。兄に抱かれる禁忌を破った所で、恐れるものなど何もない。

「お前を俺のものにしてるんだ。俺だけのものに」

愚かなスワローは気付かない、ピジョンを見上げる自分の顔が自然と綻んでいることに。
長いこと片割れを縛り付けていたあのクソ忌々しい十字架、大好きな神父様の餞別だか神様の仮宿だか知らねえ目障りなブツがやっと消えてなくなったことに歓喜して、ピジョンの胸の真ん前に居座るドッグタグにキスの嵐を浴びせたくなって、だけどそれをする前に衝撃に殴られて、ピジョン自身に滅茶苦茶に揺さぶられる。

俺の中にピジョンがいる。底なしの独占欲が満ち足りていく。

「愛してる」
「ピジョンっ、兄貴そこっ、ぁっあイっすげっ、ぁあっ」

お前が俺を求めるように俺もお前を求めていた。俺たちは血の繋がった弟と兄貴で、俺はガキの頃お前に作った借りを一生かけて返すって心に決めて、じゃなけりゃ相棒を名乗る資格もねえ。

これは夢だ。
ただの夢だ。
覚めたら忘れちまうただの

「中……すごく熱い。体全部で俺のこと欲しがって、可愛いな」

抱かれてる最中、執拗に何かを聞かれた。
何と返したかは覚えてない。
スワローは朦朧としたまま喘いでよがって、ピジョンの腰の動きに合わせて尻を振りたくっていた。

「抱かれる時そんな顔するんだ。母さんそっくりじゃないか」
「るせ、ぁっうっ、お前こそ」
「母さんは世界一の娼婦で俺たちはその息子だ。弟が兄さんを抱いても、兄さんが弟を欲しがっても、間違っちゃないよな」

違うぜ兄貴。
俺たちの体には世界一の淫売の血が流れてる。けどな、俺たちがこうなったのはくそったれた運命のせいなんかじゃねえ。ましてやいもしねえ神様の思し召しなんかであるもんか。
俺がお前を欲しがったのは、お前が俺の一番だからだ。
母さんの喘ぎ声が聞こえねえように耳を塞いでくれたあの時からずっと、お前は俺の心臓で、憧れなんだ。

断罪なんかさせねえ。俺たちが間違ってるはずねえ。

「好きだスワロー」
「俺、の方が好きだ」
「俺だよ」
「俺だ」
「お前は世界一強くてかっこいい俺のツバメさんだ」

お前は世界一優しくて可愛い俺の小鳩だ。

「好きだ」
「っふ、神様より?」
「ああ」
「母さんより……」

続きを言わせまいと唇を塞ぐ。直後に射精に至り、粘膜が痙攣を引き起こす。脊髄から脳天へ駆け抜ける快感が今度こそ意識を刈り取り、ピジョンの姿が急速にぼやけていく。

「はは、は」

乾いた笑い声が降ってくる。

「俺だって精一杯やったんだ。頑張って頑張って、ギリギリまで優しい兄さんのふりしようとしたんだよ。頑張ったんだ。本当に」

おいてめえ、誰に言い訳してやがんだ。
先生?
神様?
良心?
それとも……母さん?
この俺様を抱いといて、真っ先に言うことがそれかよ。

腹立ち任せに殴りかかろうとして、指一本動かす気力も残ってないことを思い知る。夢か現実か後始末を済ませたピジョンが部屋を横切り、出ていくのを止めることすらできない。
やがてモーテルのドアは閉ざされ、ピジョンはノイジーヘブンの明るい闇に消えていった。
感想 5

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

悪い兄は弟の命令通りに身をくねらせる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

「ねぇ、俺以外に触れられないように閉じ込めるしかないよね」最強不良美男子に平凡な僕が執着されてラブラブになる話

ちゃこ
BL
見た目も頭も平凡な男子高校生 佐藤夏樹。 運動神経は平凡以下。 考えていることが口に先に出ちゃったり、ぼうっとしてたりと天然な性格。 ひょんなことから、学校一、他校からも恐れられている不良でスパダリの美少年 御堂蓮と出会い、 なぜか気に入られ、なぜか執着され、あれよあれよのうちに両思い・・・ ヤンデレ攻めですが、受けは天然でヤンデレをするっと受け入れ、むしろラブラブモードで振り回します♡ 超絶美形不良スパダリ✖️少し天然平凡男子

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。