96 / 302
bride-to-be
ピジョンは常々不満に思っていた。
「どうしてスアロはピジョに優しくないの?」
今日も今日とてピジョンはべそをかいている。原因はスワローのいたずらだ。ピジョンが草むらから大喜びで拾ってきたボルトを、窓からおもいきりぶん投げたのだ。ピジョンが泣きじゃくり抗議したら、反対にぶってくるから手に負えない。
「スアローめっ、どうしてピジョにいたいことするの!」
「ピジョが泣くと面白い」
「ピジョは楽しくない!」
ピジョンは珍しくおかんむりだ。基本的に二歳下の弟には優しいピジョンだが、度重なる無体な仕打ちが腹に据えかね、面と向かってお説教を開始する。
トレーラーハウスの中には幼い兄弟ふたりだけ、母は買い出しで留守にしていた。
ピジョンは真面目くさってきかん坊を諭す。
「いーいスアロ、よく聞いて。ピジョをぶたないで。ピジョが拾ってきたもの捨てるのもだめ」
「がらくたじゃん」
「宝物だよ。大事大事にしまうんだよ」
「ゴミじゃん」
「ゴミじゃないもん」
ピジョンがむきになって言い返す。スワローは既に話を聞いてない。プイとよそ見をしてトイレットペーパーをむしっている。ピジョンは慌てて止めに入る。
「お部屋散らかしちゃだめだよ、後片付け大変でしょ」
スワローはピジョンをガン無視しトイレットペーパーをちぎりまくる。ピジョンはスワローをとてとて追いかけるも弟はすばしっこく、部屋中に紙をまきちらし敷き詰めていく。
漸く羽交い絞めに成功したものの、怪獣みたいな声を上げて暴れ狂うので大変だ。
「捕まえた!」
「はなせばかピジョ!」
「いたっいたいよスアロっピジョの髪の毛むしっちゃだめ!」
スワローが振り回す握り拳や足がピジョンにあたり、理不尽な痛みで涙が滲む。その上手首まで噛んできた。ピジョンは小刻みに震え、腕の中で仰け反る弟を窘める。
「ピジョ食べちゃだめ!おいしくない、ぺっして!」
ママはまだ帰らない、スワローとピジョンはふたりぼっちだ。お留守番にも弟の子守りにも慣れているけど、スワローは日に日に凶暴になる。今じゃピジョンよりかけっこが速くて喧嘩も強い。
「こらスアロ、ピジョのことかじらないでって言ってるでしょ!」
「しょっぱ」
全身を使ってスワローを押さえこむピジョンの耳に、風に吹き散らされて無邪気な笑い声が届く。
じたばたするスワローをひきずって窓辺に行けば、街の子どもたちが楽しげに遊んでいた。手を繋いでいる男の子と女の子は兄妹だろうか。
「おにいちゃん見てーテントウムシ!」
「でかしたぞ」
女の子がにこにこ笑い、手のひらに包んだテントウムシを兄に見せる。報告を受けた男の子は嬉しげに笑い、妹の頭をなでる。女の子が得意満面宣言する。
「あたしおっきくなったらおにいちゃんのお嫁さんになる!」
実に微笑ましい光景。
互いを思いやる兄と妹のやりとりを羨んで、腕の中からずり落ち気味に伸びたスワローに視線を戻す。
その時ピジョンは思ってしまった。
自分も素直で可愛い妹がほしかった、と。
スワローを持ってったら交換してくれないかなともほんの一瞬考えたが、これはすぐ撤回する。そんな事したらスワローが可哀想だ。あの子だってお兄ちゃんと引き離されるのは望まないだろうし、第一男の子が手放すはずない。
妥協案があるとすれば……
「スアロ……女の子になる?」
大胆にシャツがめくれ、おへそ丸出しのスワローが理解不能の表情で見上げてくる。
そうときまれば話は早い、善は急げと行動に移す。スワローをお座りさせて母のドレッサーをひっかき回し、化粧道具を持ってくる。
手にもったパフでファンデーションをすくい、スワローの顔に分厚く粉をぬりたくる。
「けほけほっ」
「じっとして」
「なにすんだ」
「スアロを女の子にするの」
「やだ!」
「動かないで!あ~あ、ずれちゃった……」
スワローが飛び起きた拍子に口紅がはみ出し耳まで裂けてしまった。
手元が狂ったピジョンは落胆し、まとめて掴んだティッシュで弟の顔を拭ってやる。序でに洟も噛んでやった。スワローは終始ぶすっとしてる。
「女になんかなんのやだ」
「どうしてさ、かわいいお洋服いっぱい着れるよ。スアロはママそっくりの美人さんだから、きっとすっごいかわいくなるよ。みんながスアロのこと好きになっちゃうよ」
「みんなじゃなくていい」
むくれて下唇を突き出す。
ピジョンは懸命に説得する。
「女の子になればスアロも大人しくなるでしょ?ピジョのこと蹴ったりぶったりしないで、毎日大好きでいてくれるでしょ」
もとよりスワローは大変愛くるしい顔立ちをしている、だから女の子に生まれ変わらせるのは簡単だ。
一直線に結ばれた唇に口紅を塗り、すべらかな頬にパフをはたいてファンデーションをまぶし、紫色のアイシャドウで瞼を濃く縁取る。
トウモロコシの房みたいなイエローゴールドの髪にブラシを通し、仕上げにシースルーのショールを被せれば、ふくれっ面の花嫁が誕生した。
「見て見てスアロ」
渋るスワローの手を引っ張り、鏡の前に連れて行く。半透明のショールをたらしたスワローはジト目のまま、隣のピジョンはにこにこ笑っていた。
「結婚式だ」
「だれの?」
「ピジョの」
「ピジョとケッコンすんの?」
「スアロ、お嫁さんになる?」
早々に愛想が尽きてショールを毟らんとする弟を制し、ピジョンが声を張って宣言する。
「えーと……やめるときもすこやかなるときもともにあるとちかいます」
期待に満ちた眼差しで覗き込んだ瞬間、逆にショールを被せられた。
「こっちがいい」
きっぱり断言する弟に対し、ピジョンは困った顔をする。
「ピジョは男の子だし、お兄ちゃんだから花嫁さんになれないよ」
「だれが決めたの」
「神様……?」
「ピジョも知らないんじゃん。だったらほっとけ」
「でも」
ベール代わりのショールを巻き付け、面映ゆそうに俯くピジョンにむずむずして、スワローが拳を振り上げる。
「いたっ!なんで殴るの!」
「スアロで遊んだから」
「かわいくしてあげたのに……」
しょんぼりしたピジョンがショールを外しにかかるのを許さず、先にめくって素顔を暴く。
ピジョンが不思議そうに小首を傾げ、目と鼻の先に迫るスワローを見返す。
「スアロ?」
本当に綺麗な顔をしている。スワローの瞳は夕焼けみたいだ。
束の間言葉を忘れて弟の美しさに見とれていると、唇と唇が触れ合ってくすぐったさを生む。
ゆっくり離れていくスワローは、大きすぎる独占欲のもどかしさに表情を歪めていた。
「……ピジョはスアロのだから」
意固地に告げる弟に何故かドキドキし、両手でショールを引っ張ってうなだれる。
その後ピジョンとスワローは部屋中トイレットペーパーを散らかし、化粧道具にイタズラした事を見咎められ、母にたっぷり怒られたのだった。
「どうしてスアロはピジョに優しくないの?」
今日も今日とてピジョンはべそをかいている。原因はスワローのいたずらだ。ピジョンが草むらから大喜びで拾ってきたボルトを、窓からおもいきりぶん投げたのだ。ピジョンが泣きじゃくり抗議したら、反対にぶってくるから手に負えない。
「スアローめっ、どうしてピジョにいたいことするの!」
「ピジョが泣くと面白い」
「ピジョは楽しくない!」
ピジョンは珍しくおかんむりだ。基本的に二歳下の弟には優しいピジョンだが、度重なる無体な仕打ちが腹に据えかね、面と向かってお説教を開始する。
トレーラーハウスの中には幼い兄弟ふたりだけ、母は買い出しで留守にしていた。
ピジョンは真面目くさってきかん坊を諭す。
「いーいスアロ、よく聞いて。ピジョをぶたないで。ピジョが拾ってきたもの捨てるのもだめ」
「がらくたじゃん」
「宝物だよ。大事大事にしまうんだよ」
「ゴミじゃん」
「ゴミじゃないもん」
ピジョンがむきになって言い返す。スワローは既に話を聞いてない。プイとよそ見をしてトイレットペーパーをむしっている。ピジョンは慌てて止めに入る。
「お部屋散らかしちゃだめだよ、後片付け大変でしょ」
スワローはピジョンをガン無視しトイレットペーパーをちぎりまくる。ピジョンはスワローをとてとて追いかけるも弟はすばしっこく、部屋中に紙をまきちらし敷き詰めていく。
漸く羽交い絞めに成功したものの、怪獣みたいな声を上げて暴れ狂うので大変だ。
「捕まえた!」
「はなせばかピジョ!」
「いたっいたいよスアロっピジョの髪の毛むしっちゃだめ!」
スワローが振り回す握り拳や足がピジョンにあたり、理不尽な痛みで涙が滲む。その上手首まで噛んできた。ピジョンは小刻みに震え、腕の中で仰け反る弟を窘める。
「ピジョ食べちゃだめ!おいしくない、ぺっして!」
ママはまだ帰らない、スワローとピジョンはふたりぼっちだ。お留守番にも弟の子守りにも慣れているけど、スワローは日に日に凶暴になる。今じゃピジョンよりかけっこが速くて喧嘩も強い。
「こらスアロ、ピジョのことかじらないでって言ってるでしょ!」
「しょっぱ」
全身を使ってスワローを押さえこむピジョンの耳に、風に吹き散らされて無邪気な笑い声が届く。
じたばたするスワローをひきずって窓辺に行けば、街の子どもたちが楽しげに遊んでいた。手を繋いでいる男の子と女の子は兄妹だろうか。
「おにいちゃん見てーテントウムシ!」
「でかしたぞ」
女の子がにこにこ笑い、手のひらに包んだテントウムシを兄に見せる。報告を受けた男の子は嬉しげに笑い、妹の頭をなでる。女の子が得意満面宣言する。
「あたしおっきくなったらおにいちゃんのお嫁さんになる!」
実に微笑ましい光景。
互いを思いやる兄と妹のやりとりを羨んで、腕の中からずり落ち気味に伸びたスワローに視線を戻す。
その時ピジョンは思ってしまった。
自分も素直で可愛い妹がほしかった、と。
スワローを持ってったら交換してくれないかなともほんの一瞬考えたが、これはすぐ撤回する。そんな事したらスワローが可哀想だ。あの子だってお兄ちゃんと引き離されるのは望まないだろうし、第一男の子が手放すはずない。
妥協案があるとすれば……
「スアロ……女の子になる?」
大胆にシャツがめくれ、おへそ丸出しのスワローが理解不能の表情で見上げてくる。
そうときまれば話は早い、善は急げと行動に移す。スワローをお座りさせて母のドレッサーをひっかき回し、化粧道具を持ってくる。
手にもったパフでファンデーションをすくい、スワローの顔に分厚く粉をぬりたくる。
「けほけほっ」
「じっとして」
「なにすんだ」
「スアロを女の子にするの」
「やだ!」
「動かないで!あ~あ、ずれちゃった……」
スワローが飛び起きた拍子に口紅がはみ出し耳まで裂けてしまった。
手元が狂ったピジョンは落胆し、まとめて掴んだティッシュで弟の顔を拭ってやる。序でに洟も噛んでやった。スワローは終始ぶすっとしてる。
「女になんかなんのやだ」
「どうしてさ、かわいいお洋服いっぱい着れるよ。スアロはママそっくりの美人さんだから、きっとすっごいかわいくなるよ。みんながスアロのこと好きになっちゃうよ」
「みんなじゃなくていい」
むくれて下唇を突き出す。
ピジョンは懸命に説得する。
「女の子になればスアロも大人しくなるでしょ?ピジョのこと蹴ったりぶったりしないで、毎日大好きでいてくれるでしょ」
もとよりスワローは大変愛くるしい顔立ちをしている、だから女の子に生まれ変わらせるのは簡単だ。
一直線に結ばれた唇に口紅を塗り、すべらかな頬にパフをはたいてファンデーションをまぶし、紫色のアイシャドウで瞼を濃く縁取る。
トウモロコシの房みたいなイエローゴールドの髪にブラシを通し、仕上げにシースルーのショールを被せれば、ふくれっ面の花嫁が誕生した。
「見て見てスアロ」
渋るスワローの手を引っ張り、鏡の前に連れて行く。半透明のショールをたらしたスワローはジト目のまま、隣のピジョンはにこにこ笑っていた。
「結婚式だ」
「だれの?」
「ピジョの」
「ピジョとケッコンすんの?」
「スアロ、お嫁さんになる?」
早々に愛想が尽きてショールを毟らんとする弟を制し、ピジョンが声を張って宣言する。
「えーと……やめるときもすこやかなるときもともにあるとちかいます」
期待に満ちた眼差しで覗き込んだ瞬間、逆にショールを被せられた。
「こっちがいい」
きっぱり断言する弟に対し、ピジョンは困った顔をする。
「ピジョは男の子だし、お兄ちゃんだから花嫁さんになれないよ」
「だれが決めたの」
「神様……?」
「ピジョも知らないんじゃん。だったらほっとけ」
「でも」
ベール代わりのショールを巻き付け、面映ゆそうに俯くピジョンにむずむずして、スワローが拳を振り上げる。
「いたっ!なんで殴るの!」
「スアロで遊んだから」
「かわいくしてあげたのに……」
しょんぼりしたピジョンがショールを外しにかかるのを許さず、先にめくって素顔を暴く。
ピジョンが不思議そうに小首を傾げ、目と鼻の先に迫るスワローを見返す。
「スアロ?」
本当に綺麗な顔をしている。スワローの瞳は夕焼けみたいだ。
束の間言葉を忘れて弟の美しさに見とれていると、唇と唇が触れ合ってくすぐったさを生む。
ゆっくり離れていくスワローは、大きすぎる独占欲のもどかしさに表情を歪めていた。
「……ピジョはスアロのだから」
意固地に告げる弟に何故かドキドキし、両手でショールを引っ張ってうなだれる。
その後ピジョンとスワローは部屋中トイレットペーパーを散らかし、化粧道具にイタズラした事を見咎められ、母にたっぷり怒られたのだった。
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
「ねぇ、俺以外に触れられないように閉じ込めるしかないよね」最強不良美男子に平凡な僕が執着されてラブラブになる話
ちゃこ
BL
見た目も頭も平凡な男子高校生 佐藤夏樹。
運動神経は平凡以下。
考えていることが口に先に出ちゃったり、ぼうっとしてたりと天然な性格。
ひょんなことから、学校一、他校からも恐れられている不良でスパダリの美少年 御堂蓮と出会い、
なぜか気に入られ、なぜか執着され、あれよあれよのうちに両思い・・・
ヤンデレ攻めですが、受けは天然でヤンデレをするっと受け入れ、むしろラブラブモードで振り回します♡
超絶美形不良スパダリ✖️少し天然平凡男子
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。