タンブルウィード

まさみ

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二話

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「どうしてそう身勝手なんだ、ひとりで突っ走るのもいい加減にしろ!」
「あ~うるせぇうるせぇ終わったことをねちねちと、うまくいったんだからいーだろ別に、終わりよけりゃ万々歳の大団円だ」
「よくない!身体検査されたらどう言い抜けるんだよ、女の子がスカートの下に銃とナイフ隠し持ってるってどう考えてもおかしいだろ」
「ヴァギナに牙生えてる女もいるぜ?オイタしたら食いちぎられる、まぁ童貞にゃ関係ねーか」
「もう童貞じゃない、いや違うその前に話をそらすな!」
「相手は半端な愚連ども、そろいもそろって無能な低能だ、あっちこっちから質より量でぎょうさん女かき集めてンだ、ザルにきまってらァ。それよりテメ―だテメ―」
「俺がどうしうたっていうんだ」
「とぼけんじゃねえよばーか、偉っそうに人様のこと言えた分際かよ。俺様がご丁寧に窓の近くに誘導してやんなきゃ狙撃手なんざクソの役にも立ちゃしねェ、おかげでこっちは好みでもねえ醜男を誘惑するフリまでしたんだぜ?ったくピンからキリまでお膳立てしてやんなきゃ何もできねーときた、腰抜け豆鉄砲はどっちだよ」
「だから反対したじゃないか、女の子たちの安全を確保するなら屋外に誘き出そうって……屋内は乱戦が避けられず怪我人がでる、遮るものない外ならこっちも遠慮なく撃ちまくれる、そしたらお前がわざわざ体張って飛びこんでくことなかったんだ、なのに好き好んで危険なほう選んで……」
「るっせえ、現場の勝手がわかんなくてカチコミできっか!怪しまれず潜り込むにゃ女のナリが一番てっとり早えんだよ、連中が酔っ払った頃合い見計らって一気に潰しゃいい」
「胸に詰め物までして……脛毛まで剃って。押し倒されたらバレるだろ絶対」
「しこたま酒かっくらってりゃ気付かねーって、野郎はタマ重たくなるとヤることしか考えられなくなるんだよ。目立たねーよう隅っこでじっとしてたし、突っ込まれっかどうかは半々だったけどな。俺が下見してやったからポイントとれた、連中が窓を背にするよう立ち回ったから射線が拓けた、わかってんのかよ」
「ノリノリだったじゃないか……ガーターベルトまで付けて。あのドレスどこで借りたんだ」
「女友達」
「セフレだろ。ていうかよく貸してくれたな」
「着たら写真見せてって言われた」
「そういう趣味なの?」
「惚れ直したろ」
「言ってろ馬鹿、本気で怒ってるんだぞ俺は」
「似合ってたんだからいいじゃん」
「似合う似合わないでいったら似合ってるほうがいいけど論点がズレてるし俺は清楚な方が好きだ、お前は絶対アバズレだ。人から借りたドレス破くのもどうなんだよ、ちゃんと買い直して返せよ」
「化粧して鏡見てろ」
「真面目に聞けよ。どうしてお前はそう無分別・無鉄砲・無節操なんだ、毎回尻拭いさせられるこっちの身になれ、神経痛で胃がきりきり舞いだ」
「そろそろ錐揉み穴が開く頃合いか、セメントで栓しとけ」
「スワロー!」
「じゃあこっちも言わせてもらうがなピジョン、テメエはずぶのド素人かよ?ライフルぴかぴか光ってバレバレなんだよ、テメェのお気にのボロコートでもなんでも日よけ布かけとけよ、逃げ隠れすンのお上手なのだけが駄バトの取り柄だろうが!!今回はバカぞろいだから誤魔化せたが敵にテメェと同等かそれ以上の狙撃手がいたら脳天吹っ飛ばされてジ・エンドだ」
「……ちゃんとかけてたよ」
「へえ、それで?テメエのお気にのモッズコートちゃんは世を儚んで旅に出たのか?」
「かけてたけど、風で吹き飛ばされた」
「重石おいとけよ!!」
「石ころで端っこ押さえといたけどそれごと飛ばされたんだ、しょうがないだろ!コートをかけてるとバタバタして気が散るんだ、ナイフ振り回してるだけの単細胞には永遠にわからないだろうけどね。指先頼みの繊細な仕事なのさ」
「オイなんだ俺様をディスってんのか?最高に強くてかっこよくてご機嫌な弟サマが切り込み隊長務めてやってっから、豆鉄砲ぷちぷち飛ばすっきゃ能無しの腰抜けが安全圏でのんびり胡坐かいてられんだろ」
「そ、それは……感謝はしてる、頼りにはしてるよ。でもお前やることなすこと雑で杜撰で無茶苦茶だ、行き当たりばったりに振り回されてたまったもんじゃない」
「まあいいさ、連中は保安局に引き渡した、これにて一件落着お仕事おしめーっと。伝書鳩がいい仕事してくれたな、どっかのクチうるせー駄バトよかよっぽど優秀だぜ」
「鳩の取り柄は速さじゃない、飛距離の長さだよ。俺は長く細く生きるんだ」
イエローゴールドの髪の少年が首にタオルを巻き、裸の上半身から雫を滴らせて冷蔵庫を開ける。
断りなく缶ビールを掴みとる弟を、ベッドの上で胡坐をかいた青年がたしなめる。
「あ、こら、冷蔵庫に冷やしてある飲み物は別料金だぞ!」
「ケチケチすんな、ご褒美だよ」
ぐびぐびと美味そうに喉を鳴らして一気飲み、あっというまに半分ほどを干して「ぷはあっ」と盛大に息を吐く。
「あ~~この一杯の為に生きてるってカンジ、一仕事ヤッたあとのビールは最高だ。兄貴もどう?」
「遠慮しとく。アルコールは苦手だ」
「ツマンねえ生き方だな」
「堅実と言え」
「堅実、無難、穏便、大過なく事なかれ……てめえの辞書にゃシケた単語っきゃ載ってねーな」
「貞操と道徳が削除されたお前の辞書よりマシさ」
「『穴』で引くと兄貴が出てくるぜ」
「品性も行方不明だな」
ピンクゴールドの髪の青年……ピジョンは、ベッドの上でスナイパーライフルの手入れをしている。
綿棒に似た器具で銃口を掃除して砂や埃を除去し、丁寧に油をさしていく。
その眼差しは真剣そのもので、相棒と恃む武器への厚い信頼の念と愛情が窺い知れる。
スワローは気に食わなげに鼻をならす。
ベッド横の椅子の背凭れにはへなへなにくたびれたモッズコートが掛けてある。子供の頃からピジョンが使っているものだ。今ではすっかり寸法が合って、不格好に袖を余らせることもない。
あれから半日が経過する。
兄弟は現在、例のゴーストタウンから数マイル離れた鄙びた町のモーテルにチェックインしている。スワローが女に身を窶しさらわれたのもこの街だ。

ピジョンとスワローが正式に賞金稼ぎになってはや三年。
ピジョンは19、スワローは17になった。
あれからいろいろなことがあったが、最近では漸く名前が売れ出して稼業も軌道に乗り始めた。原則ピジョンとスワローはコンビで活動する、二人一組で事に当たるのが基本スタイルだ。
ピジョンは後衛バックアップでこそ本領を発揮する狙撃手であるからに、前線で暴れる相棒と組まないと実力を十全にだせない。
臆病者にピッタリのポジだなと口の悪いスワローにさんざん貶され内心忸怩たるものを感じないでもない。
ひと仕事済んだあとは恒例の反省会を行うのだが、大抵ピジョンひとりが馬鹿真面目に反省し、スワローはその間うたた寝するかポルノ雑誌を読むか冷めたピザを食ってるだけだ。
弟の放埓さに拍車がかかり、兄の心労は嵩む一方。
今日みたいに口論に発展するケースも少なくない。
というか、ほぼ毎回だ。

互いにミスや欠点をあげつらいこきおろしけなしあい、スナイパーライフルに凭れたピジョンががっくりうなだれる。
「……コンビ解消したい……」
「また?何度目だよ」
「今日はまだ一回しか言ってない」
「そのペースで解消するたんびにヨリ戻してたら今頃ギネス入りだぜ」
スワローがタオルで濡れた首筋を拭き、もう片方の手でビールを呷る。
十七歳になったスワローの美しさは抜きんでている。
水気を含んでしっとり湿ったイエローゴールドの髪が、皮肉っぽい笑みが切り込む顔にアンニュイな色気を足す。
子供の頃はしばしば女の子に見間違われる華奢で愛らしい風貌だったが、第二次性徴期をむかえてから背が伸びて、脂肪を削ぎ落とした肢体には柔靭な筋肉が付いている。
直線的な骨格や細腰の尖りは、ナイフのように自身を研ぎ澄ませてきた少年特有のものだ。
対してピジョンは……身長はあまり伸びなかった。三年前とほぼ変わってない。今ではすっかり弟に追い越され、ふたり並ぶとスワローの鼻がピジョンのてっぺんにくる。筋肉の質と量では弟が完全に上回っている。
変わった点といえばスリングショットを卒業しスナイパーライフルに持ち替えたのと、黄色いカラーが入った伊達眼鏡をかけはじめたことくらいか。
スワローには「エセくさい」「弱腰の結婚詐欺師か」とイヤミを言われたが、そこまで似合ってないとは思いたくない。実際ピジョンの温和な風貌に、ちょっとまぬけな黄色い丸眼鏡は意外と似合った。生来の誠実さと遊び心のバランスがとれている。
だが今、ピジョンは眼鏡をはずしている。
はずした眼鏡は弦を畳んでサイドテーブルにおいてある。
日課であるスナイパーライフルの手入れしながら、ピジョンは己の苦労性を呪い、恨めしげに呟く。
「次は無難にいきたい」
「派手にやらかすほうが楽しいじゃん」
「その感覚は理解できないし理解したくない。とにかく……明日には中央に帰る、それまで問題起こさず大人しくしてろよ」
「ヘイヘイ」
「ヘイは一度」
「ヘイっと」
揉め事はたくさんだ。火のないところに煙を起こして全焼させるのが弟の得意技なのだ。
薄い壁を挟んだ隣の部屋から激しい物音と喘ぎ声がする。
断続的にベッドが軋み、女の声がどんどん高まっていく。
カップルが泊まっているのだ。
兄と弟は顔を見合わせる。
「おさかんだな。どんなプレイしてんだか」
スワローが口笛を吹く。
ピジョンは少し赤面する。
「……さっきも聞こえたぞ」
「何ラウンド目か賭ける?」
「どうやって答え聞くのさ、ノックして直接?罰ゲームじゃないか」
なんでも賭けの材料にするのがスワローの悪い癖だ。
ギャンブル好きの血が騒いだピジョンがそれにホイホイのっかるもんだから借金は嵩むばかりだ。
ああ、なんだってよりにもよって……部屋割りを呪ってももう遅い、チェックインしてしまったあとだ。いまさら部屋を替えてくれなんて申し出れない。
薄っぺらい壁一枚挟み、さかったカップルの声を一晩中聞かされるなんて生殺しもいいところだ。
「……まあいいさ、朝には出立だ。それまでの辛抱さ」
そう自分に言い聞かせ、最後の仕上げに息を吹きかけ銃身を一拭き。
几帳面に磨き抜いて輝きを取り戻したライフルに満足、隣室のセックスに興味津々の弟をあきれ顔で促す。
「もう寝る。お前も寝ろ」
油を挿し終えたスナイパーライフルを枕元に立てかけ、毛布を被って横たわる。
こんな調子じゃせっかく持ってきた推理小説も頭に入らない。
ピジョンはキツく目を閉じ、眠気がおりてくるのを辛抱強く待ちながら大変な一日を振り返る。

女の子たちは無事保護され、それぞれの地元に帰された。
あの赤毛の子も子供に会えるってめちゃくちゃ喜んでたっけ。
あの子が無事で元気に赤ん坊に会えますように。他の子たちもそれぞれ大事な人に会えますように。
たとえ待っててくれる人がいなくたって、これからそういう人ができるかもしれない。
できなくたって……それはそれで、ピジョンが彼女たちのしあわせを祈らなくていい理由にはならない。

保護された直後、キズだらけの女の子たちが互いに抱き合い咽び泣く光景を思い出す。
スワローやピジョンに抱きつき、手を握り締め感謝を捧げ、頬っぺに熱烈なキスをして……

部屋の電気が消えたのが、一段深まった瞼の暗闇と音でそれとなくわかる。
ギシリと軋むベッド、忍び寄る衣擦れの音。
だれかがピジョンが伏せるベッドにのっかり、手足を使って大胆に這ってくる。だれか?犯人はひとりしかいない、消去法は推理の鉄則だ。
心臓が早鐘を打ち喉が渇く。ピジョンは毛布をぎゅっと握り締める。
「―入るベッド間違えてるぞ」
「間違えてねえよ、コレが正解だ」
ふたりとももう子供じゃない。安モーテルといえど、きちんとツインをとったのだ。
ピジョンの隣にはそっくり同じ安物のパイプベッドが並んでいるが、そっちは綺麗にベッドメイクされたまま、ひとが入った形跡はない。
暗闇の中、のっそりと人影がやってくる。
ピジョンは頭まですっぽり毛布で覆い、往生際悪く拒む。
「疲れてるんだ。そういう気分じゃない」
「俺はキブンなんだよ。長い付き合いならわかんだろ?」
そう、わかってる。どうせこうなるだろうととっくにわかってた。だから先に寝たふりをしたのに、なにもかもむだになった。
「知ってるくせにじらすなよ」
スワローがピジョンの足を掴んで引き寄せ毛布をひっぺがす。
「よせってスワロー……明日早いんだ、寝かせてくれ」
「問題おこさねーで欲しいんだろ?」
弱みに付け込まれ舌打ちがでる。取引を持ちかけられては妥協せざるえない。
ジーパンのジッパーを引き下げて下着をずらし、すっかりできあがったモノを腿に擦り付ける。
「フェラは勘弁してやる」
「……そのザマじゃ必要ないだろ」
ピジョンは観念し、片手で額を覆って不機嫌に唸る。

暴れた日の夜はヌかないと寝付けない。
戦闘の余韻で猛り昂ったスワローの火照りを冷ますのがピジョンの役割だ。もう何回も捌け口になってきたし、今回もそうくるだろうと心の片隅で諦念していた。
眉間に深い皺を刻み、憮然とした面持ちでテーブルを手探り。
背後を見もせずゴムを放れば、スワローがあざやかにキャッチする。
胴に跨ったスワローがジーンズの尻ポケットからチューブをとりだし、蓋を開けて透明な粘液をひりだす。それを丹念に兄の腰から臀部にかけて塗りこんでいく。
器用に手慣れた手付きは、既にこの行為を何十回とくりかえした経験を物語る。
「あ゛ぁ゛~~~~」
「爺むせー声だすな、萎える」
「萎えてくれて結構。体がもたない」
「狙撃ってンな凝んの?」
「やってみればわかる。何時間も地面に伏せって重たい銃を構えてるんだ、腕と腰にくるよ。それと頬。ライフルを挟んで固定するから頬っぺがこってこって……あッそこ、そこイイもっとッ……ふあぁ~~」
色気のない会話を続行しながら弟のマッサージで腰の強張りをほぐされ、死ぬほど気持ちいい極楽の呻きをもらす。
だらしない顔で一筋よだれをたらす兄にイラッとし、スワローが平手をふりかざす。
尻を打擲されたピジョンが「いたっ!?」とはねるのを膝で押さえこむ。
「いくら俺様がテクニシャンだからってマッサージでイッてどうすんだよ早漏が、先っぽも挿れてねーのに変な声だしてよがるんじゃねぇ」
「いや……だって気持ちよくてつい……」
「寝オチの前にスパンキングに変更するか?ケツ叩いてやっから気分だせよ、いじめられんの大好きだろ」
「いい、いらない……普通でいい、普通がいい。お願いだ、普通にしてくれ」
ピジョンは激しく首を振る。
それを見たスワローが面白そうに片眉を跳ね上げる。
左右非対称の皮肉っぽい表情。
なにやってるんだ俺は。
仕方ない、人間は快楽に逆らえないようにできてるんだ。
引き締まった腰を指圧し、双丘の窪みにローションをよく塗して慣らしてから、首の後ろにねちっこく息を吹きかける。
「へェ……普通ね。兄貴がやりたい普通ってどんなだ、馬鹿な俺にもわかるようちゃんと説明してくれよ」
「普通は普通だよ……その、お互いちゃんと向き合って、顔が見える体勢でしたいんだ……」

顔を近付ければキスができて。
手を伸ばせば抱きあえて。

それがピジョンの求める「普通」だ。普通の正常な愛し方だ。
残念ながらその望みが叶うことは殆どない。大抵の場合ピジョンの願いは聞き入れられず、スワローは好き勝手にやる。哀しいかな今日も絶対そうなのだ。

「そうか、兄貴は正常位が好きなんだな。ズコバコ突っ込まれてよすぎてワケわかんなくなってるアへ顔も、前からドピュドピュ吹いて昇天しちまったトロ顔も、まるっと全部見てもらいてーんだな?」
「ちが……そうじゃなくて、いちばん負担かからないし」
「嘘吐くなよド淫乱が」
「ぅあッ!」
ローションでべとつく手が前に回り、ボクサーパンツをずりおろし中に侵入。萎えたペニスをねちゃねちゃ捏ねくり回し、ピンクに剥けた亀頭を摘まんで擦り立てる。
「ぅ……」
潤滑剤の余りを粟立つ内腿になすりつけ、ひやりとした感触にわななく様子を愉しむ。
スワローの体が汗みずくの背中にぴたりと密着、今にもくたりとへたりこみそうなピジョンの腰を乱暴に引き立てる。
「ッ、よせ……」
いつかどこかで見た交尾をねだる牝犬のポーズをとらされ、恥辱で全身が火照りだす。
この格好だと肉厚の窄まりがスワローに丸見えだ。
ピジョンはあせりまくり、殺風景な壁と背後に気配を感じる弟を忙しく見比べる。
「隣に聞こえる……!」
「聞かせてやろうぜ」
「なに張り合ってんだ!」
「ナニで張り合うんだよ」
なんて程度の低い会話だ。
ヤリたい盛りで見境をなくした弟はこれだから始末が悪い。
反射的に閉じようとする膝を力ずくで割り開き、暴き立てた秘所をニヤケて視姦する。
「エっロい眺め。先走りがポトポト糸引いてシーツに落ちてら」
「言うな……」
「窄まりもローションでぬちゃぬちゃ、人さし指ぱっくり飲み込んじまった」
「言うなって……」
「下のお口は悦んでるぜ?」
羞恥で耳まで熱くなる。
この三年間でピジョンの体はすっかり開発された。アナルセックスで感じることも覚えたし、言葉責めにも反応するようになった。
スワローがピジョンの耳の後ろに唇を近付け、吐息と一緒に囁く。
「ド淫乱だな、俺の小鳩は」
「はッ……」
傲慢な所有格で語られ、ぞくぞくと背徳的な快感が駆け抜ける。
スワローがどんな表情を浮かべているか、ピジョンの位置からではわからない。
あられもなく涙ぐむ兄の痴態を見下ろし、不敵に笑っているにちがいない。
脈打つ剛直が尻の谷間に押し当てられる。
両腕をシーツに突っ伏し、そこに顔を埋め、尻だけ高く掲げる姿勢は恥辱の極みだ。兄の背中をとったスワローは勝ち誇った調子で続ける。

「知ってるぜ、兄貴はバックが好きだ」
「勝手いうな……嫌いだ……」

お前の顔が見えない。

「なんで?」
「犯されてるみたいでいやなんだ……不安になる……」

声しか聞こえない。

目の前は暗闇だ。たまに見る夢の中とおんなじだ。手を伸ばしても遠ざかるばかりだ。

スワローは興奮するとバックでやりたがる。
ピジョンに牝犬のまねごとをさせ、ガツガツ犯す。
誰かを刺した日は特にそうだ、人の血や生き死にを見た夜ほど激しく燃え上がる。
ピジョンは怯え、震え、目に絶えず流れ込む汗とじわり湧く涙を追い出そうとしきりに瞬きする。
三年前のあの日、初めて体を許してからもう何度も求めに応じてきたが、ピジョンの感覚としてはどうしても抱かれているより犯されているのに近く、背骨に根ざした生理的な嫌悪と恐怖が拭えない。

突然、それがきた。

「!!ぅあっ、ひあッぅあぐぅッああぁ」
「なあピジョン素直になれよ、そしたらもっと気持ちよくなれるぜ。お前は痛くされるのが好きなんだ、いじめられて感じるんだ、眠たくなるような正常位じゃガマンできねえ、バックでガツガツ犯されンのが好きなんだろ?」
スワローがピジョンの後頭部を片手で押さえこみ、もう片方の手で容赦なく腰を引き上げ抽送を開始。
いくらローションで慣らされてるといえど、まだ広がりきってない穴に無理矢理ねじこまれ、膨れ上がる圧迫感に息が詰まる。
「すわろッ、やッあっ、ちゃんと最後まで話聞、ぅあッひぅあッ!」
「お口閉じろよ、舌噛むぜ。それともテメェのエロい声に興奮してんのか、また締まりがよくなったな」
「ああッふあ、はッあ、ああああああぁあっあん」
はしたなく尻を突き出すピジョン、その背中に覆い被さって腰を振るスワロー。兄は完全に勃起し、鈴口からしとどに溢れたカウパーがローションと混ざって会陰に滴る。
怒張に押し広げられた肛門は陰唇そっくりで、色づいた粘膜が貪欲にうねり、もっと奥へ奥へと咥えこむ。
「ほらまた……やっぱバックのほうが感度いいや」
「ぅぐッ、あぁッあ」
「ケツの入口はやわっけえのに中はキツキツ」
「離れろよ……」
「いい穴になったなピジョン」
「俺は穴じゃない……」
乱暴に揺さぶらればらけた前髪の奥、肘を立てようとして滑り、また突っ伏すくり返しで朦朧としながら、苦痛に歪められた双眸に尖った反抗心がやどる。
「ッあ、あぁッああぁあッ!!」
「このザマでかよ」
両肘と両膝の四点で全体重を支える兄の倒錯した痴態に高まり、わざとじゃぷじゃぷ音をたてかきまわす。
腰がパンパンとぶつかり二人分の汗がぬかるみを作る、ケダモノのようなセックス。シーツを掻き毟り淫らに喘ぐ兄を絶倫に責め立てて、うなじをかすって後ろ髪を一筋すくい巻きつける。
「兄貴の背中、キレイだな」
「はッ……」
「うなじも」
べろりと舌をだし汗ばむ首筋をなめる。ピジョンがびくりと痙攣する。
快感にすりかわる痛みと……何をされるか察した恐怖のせいで。
「やめっ、ろよ、ッあ、やっと、消えたばかりなのに……ぅあッ、隠すの大変、なんだぞ……あぁッ」
「だったらまたつけなきゃな、俺のモノだってわからせるために。よそのヤツが手出しできねーように」
「頼む、せめて見えないとこで……ぅッぐ!?」
甘噛みというには深く首の後ろを噛まれ、中に入れられたままのピジョンが呻く。
悲鳴を上げない自制心は大したものだ。
腰抜けと侮っていた兄の根性にちょっとだけ感心し、首筋、肩口、上腕、尻と、順に下りながら噛み痕をつけていく。
「は……はッ……」
「いつも抱いてやってっから腰つきに色気でてきたな」
スワローの指が腰のカーブをなぞり、悪寒と紙一重の快感がさざなみだつ。
真新しく痛々しい歯型にうっすらと血が滲み、それすらさもおいしそうになめとって、びっしょり脂汗に塗れ、息を荒げるピジョンに囁く。
「兄貴の中。噛まれるたびビクッてして、ギュウッて締まる」
「首……隠せない……」
「きっちり着込めよ」
男にしては優雅に細い指が首筋をすべり、二重の鎖を弄ぶ。
先端でドッグタグと十字架がキスして揺れる。
ドッグタグは欲望の、十字架は良心の象徴。
「鎖でごまかす手もあるな」
「うぁ……スワローもう無理、キツっ……中、お前ので一杯……限界だ、イきたい、イかせてくれ……」
「なんだよ、まだ前も一緒にいじってやんねーとダメなの?後ろだけでイケるよう調教してやったろ、三年かけてたっぷりとさ」
極薄のコンドームを嵌めたペニスが腸内を滑走、加速度的に感度が上がっていく。
ピジョンは半開きの口からよだれを垂れ流し、堪え性なく腰を揺すり、恥を捨てきれず内股でごまかし、そこをスワローにこじ開けられ、ペニスから滴る濃厚なカウパーを塗りこめられ、ガクガクと震える。
「やらしーケツマンコ。俺のを頬張ってる」
気持ちいい。気持ち良すぎてなにも考えられない。
もっと欲しい、もっともっと欲しい、なにもかも忘れてしまうくらい気持ちよくなりたい。
弟に犯されるがままの自分の惨めさも、快楽に抗えず堕ちていく現状も。
その一念でめちゃくちゃに腰を動かし、片腕は敷いたまま、せっかちな右手で自分を慰める。
カウパーでぐちょ濡れの竿をしごきたて、ぱんぱんに張った陰嚢を揉み、されど上滑り、じわじわこみ上げる快感ともどかしさに蕩けきった表情でせがむ。
「イきた……ッ、スワローいきたい、きて」
「バックで突っ込まれて気分出してんじゃねーぞマゾが、どうして俺がテメエにご奉仕しなきゃいけねーんだ、思い上がるなバカ兄貴。前でイきたきゃ自分でしごけ、オナニー大好きだろ?」
意地悪い嘲弄が、絶頂目前でお預けをくらったピジョンを絶望に叩き落とす。
それでも手は一瞬たりとも止まらず勝手に暴走する。
スワローはわざとピジョンにお預けをくわせている。
兄のペニスをほったらかし、我慢できなくなるまでじらしている。
「う……ぅ」
奥歯で嗚咽を噛み砕き、下腹に付くほどそそりたった分身を狂ったようにしごきたてる。
弟にオナニーを強要され、その間もずっと後ろ孔を犯され続け、もうおかしくなってしまいそうだ。
噛まれたあとがジクジク疼き、肛門が抜き差しされるペニスをキツく締め付ける。
スワローはそんな兄の姿に生唾を呑み、欲望の赴くまま至る所に噛み付く。
強く噛んだあとにねちっこくなめて、皮膚を吸い立て、首筋にうねる鎖を舌で巻き取る。
「いいつけどおり自分でシコって……食っちまいたいくらいかわいいな、俺の小鳩ちゃんは」
絶頂はすぐそこだ。
「うぁ、すわろー、うぁ」

最後はせめて向かい合いたい、お互い顔を見ながら一緒にイきたい。
俺だけこんな一方的に乱されて、めちゃくちゃに突っ込まれて、これじゃまるで……

ピジョンの腰を両手で掴み、一番奥に叩き付ける。
「あああぁあああッあぁあああふあッあああああ!!」
「ッ…………」
射精と同時に括約筋が収縮、ゴムの中に粘液が飛び散る。
ピジョンの右手がだらりとさがり、ビュクビュクと白濁を撒くペニスが下を向く。
ぐったりとシーツに倒れこむピジョン、精液に汚れた腿が淫猥だ。
「すっげ……たくさんでたな」
「はあっ、はあっ、はあっ……」
「俺より量多くね?あは」
消耗の極みでもはや声もない兄をよそに、萎んだゴムをゴミ箱に投げ捨てさっさと下着を穿く。
「知ってるぜ」
「……なにを」
「てめえも俺とおんなじだピジョン。だれかを撃ったあとは興奮して寝付けねー、めちゃくちゃに抱かれねーと火照りがおさまらねー」
「……………」
「同類だろ、俺達」
ベッドの端に腰かけ、行儀悪く伸ばした片足をジーンズに突っ込んでスワローが嗤う。
すっきり伸びた首筋から小粒の鎖が流れ落ち、子供の頃からかけてるおそろいのドッグタグが光る。

KILLERS人殺しLOVERS恋人か。

行為後の倦怠感に浸ってまどろみ、ふと右手を翳す。
指に纏わり付いた自らの白濁を見上げ、鬱陶しげに顔を顰め、苦しい息の下から呟く。
「……共犯っていうなら、そうかもね」
間違っても汚れた右手で十字架にさわらないように、ピジョンは静かに目を閉じた。
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