タンブルウィード

まさみ

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ドギーとヴィク

「準備できたか?」
「うん。スワローさんは?」
「あとで合流するとさ、子守りの前に一発ヤッてんだろ。って、ネクタイ曲がってんじゃねえか。どれ貸してみな……これでよしっと。髪も切ってこざっぱりしたじゃねえか、見違えたぜ」
「ドギーさん、僕変じゃない?」
「見てくれだけならいいトコの坊ボンに見えなくもねーぜ、堂々してろ。しっぽを股の間に挟んでブルってちゃ噛み付かれるぜ、噛まれたら噛み返すのがマッドドッグ・ドギーの流儀だ」
「うん……でも」
「ミュータントのガキどもと仲良くできるか不安か?」
「それもある。人間は僕だけなんでしょ」
「贅沢いうな、他に受け入れてくれる施設がなかったんだ。スワローは態度がデカくて口がわりぃはねっ返りだが、テメェの受け入れ先見付ける為にわざわざ兄貴に電話して頭下げてくれたんだ。それを忘れんな」
「忘れてないよ、ただ……他の子と上手くできるかなって色々考えちゃって」
「記憶は?まだ戻んねーのか」
「なんにも。昔の事は思い出せない。お医者さんは難しい言葉使ってたよ、PTSDとか解離性健忘とか。ぼんやり覚えてるのは暗い所に閉じ込められてたことだけで……ずっと……」
「無理すんな、世の中忘れたまんまでいたほうがいいこともある。くそったれ外道なマーダーズの記憶なんて下水に流しちまった方が幸せさ」
「本当の名前も覚えてないんだ……最初からないのかもしれないけど」
「ヴィクじゃ不満か?」
「そんなことない、すっごい気に入ってる。劉さんが付けてくれた名前だし」
「ヴィクテムを略してヴィクってなあ俺もどうかと思うけどな。改名してもいいんだぜ」
「多分しない。先のことはわかんないけど」
「物好きなガキめ」
「あのねドギーさん、劉さんが言ってたんだ。ヴィクテムは犠牲者とか被害者とかって意味だけど、他の単語とくっ付けるともっと色んな意味になるんだよ。たとえば」
「victim of a dog bite」
「犬に噛まれた人」
「victim of a hoax」
「作り話を信じてそれに従うひとって意味だよね。どれも何かや誰かの犠牲って意味だけど、世の中には誰かが誰かを思って生まれた優しい嘘がたくさんあるから、それを信じて生きてくならまんざら捨てたもんじゃないって劉さん言ってたよ」
「バニラフィクションか」
「ドギーさんたちに助けられる前のことはよく覚えてない。狭くて暗い鞄に閉じ込められて運ばれて、目の前は真っ暗で息ができなくって……コヨーテだっけ。あのおっかないおじさんは、僕に首輪を嵌めて檻に入れたんだ。お前も今日から俺の犬だって言って」
「いかにもやりそうだな」
「来る日も来る日もじっと膝を抱えてた。顔と心、どっちの目もギュッて瞑って、わんわん吠える人たちを見ないふりした。今日は鞭で打たれませんように、固い靴底で蹴られませんようにって頭がおかしくなりそうな位お願いしてた。そんな時にドギーさんたちがきたんだ。ドギーさんや劉さんが一生懸命話しかけてくれたおかげで、僕、自分が犬じゃなくて人間だって漸く思い出せた。僕が僕でちゃんと喋れること、思い出せたんだ。犬にさせられたまわりの人たちは痛いのや苦しいのでいっぱいいっぱいで、僕みたいなちびの新入りを気にすることなんてなかったから……あのおじさんに捕まる前にどうしてたかは覚えてない。全部まるごと忘れちゃうくらい酷いことがあったのかもしれない。でもね……あそこでドギーさんたちに会えて、今はラッキーだったって思ってる」
「ふん。言うじゃん」
「悪いこと忘れちゃえばその分いいこといっぱい詰めこめるものね」
「その意気だぜヴィク、孤児院のガキどもになめられそうになったらケツの匂い嗅いでやれ」
「本当に利くの?」
「あたぼーよ、ワン公はそうやってスキンシップするんだ。スワローとだってケツ揉みがきっかけでマブダチになったんだぜ、ヒップにタッチこそ最強のスキンシップだ」
「よく手を切られなかったね」
「親愛の情が伝わったのさ。アイツのケツときたらキュッと引き締まって絶品よ、若ェヤツあやっぱ張りが違うね、ぴったり手に吸い付いてきた。あのケツはそうだな、犬にたとえるとジャーマンピンシャーだな。コイツあシュッとしてすげースタイルがいいんだ、尻から腿にかけて鍛え込んだ肉付きがジャンプや走り込みに適してて」
「ドギーさん」
「ンだよ」
「時々は遊びにきてね」
「……へっ」
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