タンブルウィード

まさみ

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Black Widowers12

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「寝てるのか」
窓から差し込む『make or break』のネオンが照らす寝顔に、臆病な手付きで触れる。
指の背で睫毛をすくい、瞼のふくらみを辿り、尖った鼻梁に沿って下ろしていく。
「ん……」
額に散らばった前髪を梳き、引き締まった脇腹をまさぐり、ピンク色の乳首を優しく摘まむ。
「感じやすいな」
十字架は伏せた。神様は見てない。
胸の内を苛む背徳感と罪悪感が劣情の火種になり、弟を組み敷く。よく見ればあちこちに薄っすら傷が浮いていた。
先刻見たポルノの映像が脳裏に渦巻き、息をするのも忘れるほどの嫉妬と怒りに囚われる。

俺のせいだ。
離れるべきじゃなかった。
修行で不在の間、達者にやってると思ってた。

「どうして」
スワローはコヨーテ・ダドリーに捕まりポルノを撮られた、その事をたった一人の兄にずっと黙っていた。

守りたかった。
守れなかった。

「スワロー」

名前を呼ぶ。

「俺のスワロー」
「ん……」

こめかみを啄み、首筋にキスし、ゆっくりジーンズを下ろしていく。
ダドリーの勝ち誇った高笑いが、男たちの下卑た嘲笑が、快楽に狂った喘ぎ声が鼓膜にこびり付いて離れない。

かわいくてかわいそうなスワロー。
たった一人の弟。

お前が欲しい。
欲しくて欲しくてどうかしてしまいそうだ。

「大丈夫。優しくする。痛い思いはさせない」

安心させるように囁き、下着を脱がす。
萎えたペニスに手を伸ばし、迷わず含む。スワローは寝ながら感じていた。ピジョンが咥えると同時に眉間の皺が深まり、熱く湿った吐息がもれる。
スワロー自身をしゃぶりながら考えていたのは、初めて関係を持った日から現在に至る出来事だ。
コイツはずっと俺を欲しがっていた。自分には当然そうする権利があると信じていた。

なら、俺が欲しがったっていいじゃないか。
ちょっと位報われたっていいじゃないか。

求めれど報われず、祈れど救われず。
神様にそっぽ向かれた犠牲者ヴィクテムには、復讐する権利があるはずだ。

「んっ、は」
俺ならもっと気持ちよくしてやれる、ダドリーたちなんか目じゃない天国に連れてってやれる。
ダドリーを筆頭にした竿役への敵愾心が燻り、喉の奥まで深く咥え込み、亀頭をちゅぱちゅぱ吸い立てる。
スワロー自身を慰めながら自分の股間もいじり、蒸れたボクサーパンツをずり下ろす。
スワローはよく寝ている。ちっとも起きる気配がない。どうかこのままでいてくれと祈り、主の意志と無関係に勃起したペニスを手放す。
カウパーのぬめりを指に塗し、後ろにあてがってほぐす。
よく開発されたアナルが難なく人さし指を飲み込み、中指と薬指までツプリと沈む。
「っ、ぐ」
スワローがじれったげに首を傾げ、眉間に悩ましい皺を刻む。子供の頃からの癖で咄嗟に抱き締め、背中をさすってやる。
「大丈夫。怖くない。俺がいる」

たった一人の弟も守れなかったくせに。

泣きたかった。
叫びたかった。

『本気かピジョン、今さら修行したって意味ねえよ。教会に居候なんざやめとけ、退屈で死んじまうぜ』

素直に言うこと聞いとけばよかった。
事の始まりからスワローは渋っていた。
なのにピジョンは弟離れ兄離れする良い機会だと決め付け、さっさと荷物をまとめアパートを出て行った。
その結果がこれだ。
このザマだ。
スワローはコヨーテ・ダドリーと仲間たちに輪姦され、下劣なポルノを撮られた。
何故呉が持っていたかはこの際どうでもいい、問題視すべきはスワローの痴態を一部始終収録したポルノが広く出回っている可能性だ。
アンデッドエンド中大陸中の男たちがスワローでヌきまくる地獄絵図を思い描いただけで発狂しそうだ既に何十本何百本とダビングされ今この時も大勢の男たちの視線がスワローを犯してるかもしれない。

全員殺してやる

『スワローを守ってね、ピジョン』

そこへ並べ、R.I.P弾を叩きこんでやる

「ごめんよ」

俺が今やってることとダドリーたちがしたこと、どこが違うんだ?

胸の内に生じた疑問を振り払い、三本指を抜き差し中をかきまぜ、前立腺を探り当てる。
「ぅ、ぁ」
「気持ちいいか」
「ん……」
「お前のこと、抱くぞ」
告白の響きは懺悔に似ていた。
静かに宣言し、両脚を掴んでこじ開ける。胸が詰まる。苦しい。脳裏に様々な思い出が去来する。
ガソリンスタンドの跡地でジェリービーンズを分け合った、じゃれあうように髪を切り合った、首にドッグタグを通した、一緒にトンボや回転草を追いかけた。

俺は兄さんだから、後に生まれたお前を守ってやるんだ。
母さんに頼まれなくてもきっとそうした、どのみち愛さずにはいられなかった。

窓の外には夜の帳が落ち、ピンクのネオンが輝いている。
ベッドに仰向けたスワローが薄っすら瞼を上げ、潤んだ瞳に兄を映す。

「ピジョン」
「ここにいる」

弟の手をとり自らの頬に導く。
スワローは朦朧としていた。自分の下半身があられもなく剥かれている事にも気付かず、体を預けてくる。イエローゴールドの髪は懐かしい匂いがした。

「お前の中からダドリーの残りかすを追い出してやる」

寝ぼけているのだろうか、珍しく聞き分けが良い弟を押し倒してペニスをあてがい、ゆっくり押し込んでいく。

「ッふ、ぁあっ」

スワローがピジョンの首の後ろに片腕を回し、抱き付く。ドッグタグが上下する体に合わせてうるさく弾む。

神様なんて知ったことか。
なんでスワローを助けてくれなかった、毎朝毎晩祈ったのに、離れてる間代わりに守ってくれるようねがったのに。

先に裏切ったのはそっちだ。
義理立てする値打ちもない。
弟を抱く禁忌を破った所で、恐れるものは何もない。

「ピジョ、ん、何っを、ぁあっ」
「お前を俺のものにしてるんだ。俺だけのものに」

出ていけダドリー。
誰にも渡すもんか。

「ふあッ、んっあ、ぁっあ」

苦悩の波紋が広がる双眸が鮮やかに燃え上がり、スワローの瞳も同じ色に染まりゆく。
スワローが駄々をこねるようにシーツを蹴り、あるいはかきむしり、顔を右に左に倒して喘ぎまくる。
そのたび鼻先や顎や瞼にキスし、肉を抉る痛みを紛らわそうと努める。

「スワロー。スワロー。スワロー」

独占欲が堰を切って溢れ出し、繰り返し名前を呼ぶ。

「ッ、は、ぁあっ」
「愛してる」
「ピジョンっ、兄貴そこっ、ぁっあイっすげっ、ぁあっ」

お前が俺を求めるように、俺もお前を求めていた。
俺たちは血の繋がった兄さんと弟で、兄さんは何が何でも弟を守らなきゃいけなくて、じゃなけりゃ兄さんの資格がない。

お前の兄さんじゃないなら、俺はなんだ?

「あッ、ンっあ、ふぁッ」
「中……すごく熱い。体全部で俺のこと欲しがって、可愛いな」
「はなれ、ろ」
「嫌だ」

逃げる腰を掴んで激しく抜き差し自分こそが運命を共にする片割れだと体の隅々に余さず刻み付ける、弟を辱めた連中一人一人に銃弾を撃ち込み頭の中で処刑しながら熱情を注ぐ。

「なんでコヨーテ・ダドリーのこと言わなかった、一生秘密にして墓まで持ってく気だったのか」
「ッふ、あッぐ、なんでダドリー、がッ」
「劉の部屋にビデオがあった。呉さんが持って来た……お前が映ってたよ。ダドリーたちにマワされてた」
スワローが前を向く。目の焦点は合ってない。
「ばれたら軽蔑されるって思ったのか。見損なうなよ」
泣き笑いに似て表情を崩し、さらに奥を突く。
「俺の名前呼んでた。ピジョンピジョンって……」
「ピジョン」
「ドッグタグとられたんだろ」
「んっ、ん」
「悔しかったよな。よく頑張った」
「ピジョ、ぁっあやめっ、深ッあっ、奥擦んのやっ、イっちまっ」
裸の胸ではねるタグに合わせて汗が飛び散る。ピジョンはスワローの痴態に魅せられていた。
「抱かれる時そんな顔するんだ。母さんそっくりじゃないか」
「るせ、ぁっうっ、お前こそ」
「母さんは世界一の娼婦で俺たちはその息子だ。弟が兄さんを抱いても、兄さんが弟を欲しがっても、間違っちゃないよな」

断罪なんかさせない。
俺たちが間違ってるはずがない。
それを今、証明する。

「好きだスワロー」
「俺、の方が好きだ」
「俺だよ」
「俺だ」

誰にどんなに汚されても

「お前は世界一強くてかっこいい俺のツバメさんだ」

母の口癖を奪い、言って聞かせる。

「ろくでなしダドリーはもういない。ビデオは俺が始末する。酷い事は起きなかったんだ、何も」

ハトが飛ぶ、ツバメが回る、世はなべてこともなし。
母が紡ぐハミングの幻聴を聞きながら互いを貪り堕ちていく、している事は間違いなくレイプなのに感触を上書きすることで浄めているような錯覚を起こす。
ピジョンとスワローは娼婦の私生児だ。
タブーをタブー視しない淫奔な母を手本に育ち、セックスで与えられたトラウマはセックスで癒すのが近道だと本能的に悟っている。
狂気すら感じさせる執着に鳩の血色の眸を燃やし、独占欲のかたまりと化した兄に追い上げられ、スワローが舌足らずに尋ねる。

「好きだ」
「っふ、神様より?」
「ああ」
「母さんより……」

口を口で塞いで精を放ち、不規則な痙攣をやりすごす。スワローが硬直に次いで弛緩し、ぐったりシーツに突っ伏す。
ピジョンは弟の寝顔を見下ろし、前髪に表情を潜めて笑いだす。

「はは、は」

スワローを守ってね、あなたはお兄ちゃんだから。

「俺だって精一杯やったんだ。頑張って頑張って、ギリギリまで優しい兄さんのふりしようとしたんだよ」

でも、だけど、見返りを欲しがってる自分の気持ちに気付いてしまった。

「頑張ったんだ。本当に」

母さん。先生。神様。
誰でもいい、罰してくれ。

射精後の虚脱感にいや増す自己嫌悪に苛まれ、スワローの体内から残滓を掻き出したのち、免罪符にもならない十字架を握り潰す。
逃げるようにモーテルを出たきり、ピジョンは一晩帰らなかった。

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