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4.罪と罰②
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リサとクリスは穀物倉庫へ向かった。ローラが中を案内してくれた。
木造の梁が高く組まれた穀物倉庫の中は、光が奥まで入らず、暗かった。
壁際には木の大樽や袋が、規則正しく積み重ねてある。倉庫の中央には、農家から徴収して、まだ仕分け前の小麦の保存袋が乱雑に置かれていた。
「農家から集めた小麦は、一時的に中央の集荷場所に置かれます。管理簿に徴収量を記録しているけれど、運んだ小麦はその都度計量しません。だから、週に一度棚卸しをして、管理簿と現物の量が合っているかを確認します」
ローズは首をすくめた。
倉庫の中央に置かれた中に、サイモンの隠した小麦がある。棚卸しで管理簿と照合すれば、徴収量が過剰だと気付かれる。サイモンは棚卸しの前に穀物倉庫から小麦を持ち出すはずだ。次の棚卸し予定日は明日。
「今夜、犯人グループは倉庫に忍び込んで小麦を持ち出すはずです。穀物倉庫を監視しましょう」
「犯人グループ? サイモンの単独犯ではなく?」
クリスは目を丸くした。組織的な犯行だから、この件を軽く考えると命が危ない。リサは犯人が複数犯である根拠を説明した。
「そうだね。たしかに、一人で100袋も持ち出せない。これは少し慎重に動いた方がいいね」
リサとクリスの二人で複数犯を捕捉するのは難しい。クリスは父に警備兵の派遣を依頼しに行くことにした。その間、リサは穀物倉庫を見張ることになった。
**
日が暮れると、昼間の陽気が嘘のように気温がぐっと下がった。薄暗い路地裏に身を潜めて、リサは倉庫の入り口を監視した。
冷たい風が吹き抜ける。通りに人影はなく、まばらな街灯は弱々しい。
防寒具を持ってくればよかった。リサは倉庫を監視しながら肌を擦る。吐息が白くなって消える。
通りの向こうで物音がした。暗闇の中で、黒い影がじりじりと倉庫に近づいてきた。全部で4人、うち一人は女。
リサは注意深く4人を監視した。街灯を頼りに目を凝らすと、顔が見えた。
女は穀物倉庫で働いているマーガレット。徴税人のサイモンもいる。あとの2人は知らない顔だ。
マーガレットが鍵を開けて、男3人が倉庫の中に入る。マーガレットは見張りとして倉庫の入口に立つ。
男3人をリサだけで捕獲できない。しかし、マーガレットを取り押さえるだけなら、話は別だ。マーガレットを捕獲すればリサの知らない男二人の素性がわかる。
リサは大回りしてマーガレットから死角になる路地に入る。息を殺してタイミングを見計らう。マーガレットはこちらに気付いていない。
背後から忍び寄り、「声を出すな」とマーガレットの口を塞いだ。短剣を腰に押し当て、倉庫の脇にあった紐でマーガレットを縛り上げた。
この場を離れよう。いや、クリスを待ったほうがいい? 迷っていたら、サイモンが倉庫から出てきた。
「おっ、マーガレットどうしたんだ?」
サイモンはリサを睨みつけ、刀に手を掛けた。
「どこかで見たと思ったら、リサか」
息を呑む。クリス、早く、早く……焦る気持ちを抑える。真面目な徴税人だったはずなのに、なぜこんなことを?
「どうした?」
残りの2人が出てきた。サイモンが連れてきた外部の協力者だ。
「この女に見られた。領主の息子の女だ。かわいそうだが、ここで始末するしかない」
サイモンが刀を抜くと、別の男がリサを見た。
「いい女じゃないか。殺すくらいなら売ればいい。高く買ってくれる貴族を紹介しようか?」
「いや、クリスに探されるとまずい」
サイモンは眉間にしわを寄せた。
抜刀した男が3人。戦ってもリサに勝ち目はない。クリスが来るまで時間を稼ぐことに専念する。
「あなたたちこそ、大人しくしてください。そろそろ応援がきます。あなたたちが捕まるのは時間の問題です」
「うるせぇ! 調子に乗りやがって、お前は自分の立場が分かっているのか?」
怖い、でも怯んではいけない。時間を稼ぐため、リサはサイモンに語り掛ける。
「私を捕まえるよりも、先にやることがありますよね?」
「何をだ?」
サイモンには効いた。揺さぶりをかければ、仲間割れさせられる。
「窃盗は証拠がなければ捕まりません。つまり、応援が来る前に、何も盗まずに逃げればいいのです。そう思いませんか?」
サイモンは口元に手を当てて黙り込んだ。リサの揺さぶりが効いている。が、あとの2人の表情は変わらない。
「そんなこと知らねえ。サイモン、お前、裏切るつもりじゃねえよな?」
2人はサイモンに刀を向けた。
サイモンは何も言わず、長いため息をついた。
「いずれにしても、犯行を見られたのだから、コイツは殺しておくか」
サイモンが刀を振り上げたら強い風が吹いた。風に煽られてサイモンが体勢を崩した。
その隙にリサは走った。男たちから逃げるために少しでも遠くへ。
はあ、はあ……息が切れそう。後ろから男たちが追ってくる。
「リサ、どこだ?」
馬の蹄音が聞こえる。クリスだ。
「クリス、助けてーー!」リサは力の限り叫んだ。
**
駆け付けた警備兵によって、サイモンたち4人は縄を掛けられ、牢に連れていかれた。
後の取り調べからサイモンの犯行動機が分かった。サイモンの妻が重い病気にかかり、治療に必要な金を工面しようとした。マーガレットはサイモンの義姉。妹を助けるためにサイモンに協力した。
妻を救うためにやむを得なかった、とサイモンとマーガレットに同情する領民もいた。しかし、罪には罰が必要。クリスの父は、サイモンとマーガレットの一家を領地から追放した。
クリスに頼まれたらどうしただろう? 肩を落として領地から去る一家を、リサはじっと眺めていた。
木造の梁が高く組まれた穀物倉庫の中は、光が奥まで入らず、暗かった。
壁際には木の大樽や袋が、規則正しく積み重ねてある。倉庫の中央には、農家から徴収して、まだ仕分け前の小麦の保存袋が乱雑に置かれていた。
「農家から集めた小麦は、一時的に中央の集荷場所に置かれます。管理簿に徴収量を記録しているけれど、運んだ小麦はその都度計量しません。だから、週に一度棚卸しをして、管理簿と現物の量が合っているかを確認します」
ローズは首をすくめた。
倉庫の中央に置かれた中に、サイモンの隠した小麦がある。棚卸しで管理簿と照合すれば、徴収量が過剰だと気付かれる。サイモンは棚卸しの前に穀物倉庫から小麦を持ち出すはずだ。次の棚卸し予定日は明日。
「今夜、犯人グループは倉庫に忍び込んで小麦を持ち出すはずです。穀物倉庫を監視しましょう」
「犯人グループ? サイモンの単独犯ではなく?」
クリスは目を丸くした。組織的な犯行だから、この件を軽く考えると命が危ない。リサは犯人が複数犯である根拠を説明した。
「そうだね。たしかに、一人で100袋も持ち出せない。これは少し慎重に動いた方がいいね」
リサとクリスの二人で複数犯を捕捉するのは難しい。クリスは父に警備兵の派遣を依頼しに行くことにした。その間、リサは穀物倉庫を見張ることになった。
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日が暮れると、昼間の陽気が嘘のように気温がぐっと下がった。薄暗い路地裏に身を潜めて、リサは倉庫の入り口を監視した。
冷たい風が吹き抜ける。通りに人影はなく、まばらな街灯は弱々しい。
防寒具を持ってくればよかった。リサは倉庫を監視しながら肌を擦る。吐息が白くなって消える。
通りの向こうで物音がした。暗闇の中で、黒い影がじりじりと倉庫に近づいてきた。全部で4人、うち一人は女。
リサは注意深く4人を監視した。街灯を頼りに目を凝らすと、顔が見えた。
女は穀物倉庫で働いているマーガレット。徴税人のサイモンもいる。あとの2人は知らない顔だ。
マーガレットが鍵を開けて、男3人が倉庫の中に入る。マーガレットは見張りとして倉庫の入口に立つ。
男3人をリサだけで捕獲できない。しかし、マーガレットを取り押さえるだけなら、話は別だ。マーガレットを捕獲すればリサの知らない男二人の素性がわかる。
リサは大回りしてマーガレットから死角になる路地に入る。息を殺してタイミングを見計らう。マーガレットはこちらに気付いていない。
背後から忍び寄り、「声を出すな」とマーガレットの口を塞いだ。短剣を腰に押し当て、倉庫の脇にあった紐でマーガレットを縛り上げた。
この場を離れよう。いや、クリスを待ったほうがいい? 迷っていたら、サイモンが倉庫から出てきた。
「おっ、マーガレットどうしたんだ?」
サイモンはリサを睨みつけ、刀に手を掛けた。
「どこかで見たと思ったら、リサか」
息を呑む。クリス、早く、早く……焦る気持ちを抑える。真面目な徴税人だったはずなのに、なぜこんなことを?
「どうした?」
残りの2人が出てきた。サイモンが連れてきた外部の協力者だ。
「この女に見られた。領主の息子の女だ。かわいそうだが、ここで始末するしかない」
サイモンが刀を抜くと、別の男がリサを見た。
「いい女じゃないか。殺すくらいなら売ればいい。高く買ってくれる貴族を紹介しようか?」
「いや、クリスに探されるとまずい」
サイモンは眉間にしわを寄せた。
抜刀した男が3人。戦ってもリサに勝ち目はない。クリスが来るまで時間を稼ぐことに専念する。
「あなたたちこそ、大人しくしてください。そろそろ応援がきます。あなたたちが捕まるのは時間の問題です」
「うるせぇ! 調子に乗りやがって、お前は自分の立場が分かっているのか?」
怖い、でも怯んではいけない。時間を稼ぐため、リサはサイモンに語り掛ける。
「私を捕まえるよりも、先にやることがありますよね?」
「何をだ?」
サイモンには効いた。揺さぶりをかければ、仲間割れさせられる。
「窃盗は証拠がなければ捕まりません。つまり、応援が来る前に、何も盗まずに逃げればいいのです。そう思いませんか?」
サイモンは口元に手を当てて黙り込んだ。リサの揺さぶりが効いている。が、あとの2人の表情は変わらない。
「そんなこと知らねえ。サイモン、お前、裏切るつもりじゃねえよな?」
2人はサイモンに刀を向けた。
サイモンは何も言わず、長いため息をついた。
「いずれにしても、犯行を見られたのだから、コイツは殺しておくか」
サイモンが刀を振り上げたら強い風が吹いた。風に煽られてサイモンが体勢を崩した。
その隙にリサは走った。男たちから逃げるために少しでも遠くへ。
はあ、はあ……息が切れそう。後ろから男たちが追ってくる。
「リサ、どこだ?」
馬の蹄音が聞こえる。クリスだ。
「クリス、助けてーー!」リサは力の限り叫んだ。
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駆け付けた警備兵によって、サイモンたち4人は縄を掛けられ、牢に連れていかれた。
後の取り調べからサイモンの犯行動機が分かった。サイモンの妻が重い病気にかかり、治療に必要な金を工面しようとした。マーガレットはサイモンの義姉。妹を助けるためにサイモンに協力した。
妻を救うためにやむを得なかった、とサイモンとマーガレットに同情する領民もいた。しかし、罪には罰が必要。クリスの父は、サイモンとマーガレットの一家を領地から追放した。
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