僕と猫とゲートキーパー ー 勝手に他人の半生を書いてみた(第3章)

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業務委託契約

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――小角が絶対に用意できないものを要求してやる!

お菊さんは小角が用意できない要求をすることにした。
小角の権限で対応できるのは、基本的には国境を跨ぐ権利の調整だ。
お菊さんは考えた。

――金銭を要求するのはどうだろう?

小角の承認権限を超える金額を要求したら支払えないはずだ。
国境警備隊長の承認権限は幾らだろうか?
お菊さんが『5百万円払え!』と言っても、小角には数百万円くらいの予算はあるかもしれない。

――1億だったらどうだ?

きっと小角の承認権限を超えているはずだ。
お菊さんは小角に1億円を要求することにした。

「私の要求は1億円よ。ピーチ・ボーイズを捕獲したら1億円払ってほしい。いいかしら?」お菊さんは笑顔で言った。

小角はお菊さんが金銭を要求したのを少し意外に思ったようだ。
小角は『永遠の命』とか『永遠の美貌』と言われるとどうしようかと思っていたが、お金で解決できるのであれば対処しようがある。

小角は少し考えてから返答した。

「分かった。用意しよう。それでいいか?」

小角はお菊さんの要求を呑むようだ。

――国境警備隊長の予算は1億円を超えていた・・・

お菊さんは想定していなかった返答に動揺した。

「え? 1億円くれるの?」

「ああ。お主が要求したのではないか」と小角は答えた。

お菊さんと小角のやり取りを聞いていた武は、一か八かの賭けに出た。

「僕も! 僕も1億円欲しい!」武は便乗してみた。

小角は呆れ顔をしながらも少し考えてから返答した。

「分かった。一人1億、二人で2億円だな。それと武くんは入国許可証。要求はそれで全部か?」

意外にあっさり武の要求は通った。ダメ元でも言ってみるものだ。

「そうだよ」と武はお菊さんをチラッと見ながら答えた。

お菊さんは困惑している。

さっきまで『ビルの壊れたところを弁償しろ!』とか『パワースーツを弁償しろ!』とかセコイことを言っていた小角だ。
そう易々(やすやす)と小角が2億円も払うとはお菊さんには思えない。

――本当に払うだろうか?

お菊さんは小角の性格を考慮すると、口約束では危険だと考えた。
口頭では後になって『言った、言わない』で揉める可能性がある。
それに、小角は『そんなこと言ってない!』と真顔で言いそうだ。

お菊さんは小角との口約束を避けるために、エビデンス(証拠)を残すことにした。

「あなたのことは信用していない。だって、さっきの言動を見ていると『2億円払うなんて言ってない』とか平気で言いそうでしょ? だから、契約書にしてくれるかしら?」

それを聞いた小角は軽くショックを受けたようだ。

敬虔な修行僧として世に知られる『役行者』。
『役行者は聖人』と誰もが思っていると考えていた。
でも、『あなたのことは信用していない』はお菊さんに言われてしまった。

屈辱的ではあるが、小角はお菊さんと武にピーチ・ボーイズの捕獲を手伝ってもらわないといけないから、要求を吞むことにした。

「契約書を作るから少し待っておれ」

小角はそう言うと部屋のパソコンに向かって契約書を作り始めた。


***


しばらくすると小角は「業務委託契約書のドラフトだ」と言って、書面(下記)をお菊さんと武に渡した。


【業務委託契約書の抜粋】
======
第1条 業務の内容

甲(国境警備隊)が乙(菊・武)に委託する業務の内容は、ピーチ・ボーイズ(以下、「丙」という)の捕獲業務とする。
但し、乙は業務を遂行するにあたって、公共施設等に物理的な損害を出してはならない。

第2条 報酬

第1条に定められた業務に際し、甲から乙に金1億円(別途消費税及び地方消費税)を報酬として乙の請求に基づき支払うこととする。
但し、第1条に定められた業務に際し、乙が公共施設等に物理的な損害を与えた場合は当該損害額を報酬額から差引くものとする。

<以下省略>

======


お菊さんは小角から受け取った業務委託契約書の内容を確認していく。
お菊さんが気になったのは、第1条と第2条の但書(ただしがき)だ。

まず、第1条に『公共施設等に物理的な損害を出してはならない』と書いていることから、前回の捕獲の時のようにビルを破壊するなどの行為は許可されていない。
更に、第2条において『当該損害額を報酬額から差引く』とされていることから、もしピーチ・ボーイズの捕獲で被害を出せば報酬の1億円から差引かれることになる。

――被害を出さずにテロリストを鎮圧しろってこと?

お菊さんは今回の業務の難易度を理解した。

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