79 / 197
第4回活動報告:不正融資を取り締まれ
個人投資家(その2)
しおりを挟む
(6) 個人投資家 <続き>
「譲渡担保の件ですね。確か、Lシリーズを10物件取得して、借入金が1億5,000万JDになってから、3年が経過したころだったと思います。無理をして借入をしていたので、元利金の返済ができなくなりました。」とディーンは言った。
「3年間もよく払えましたね。収入からするとかなり大変だったでしょう。」
「大変でした。給与だけでは賄えないので、貯蓄を取崩しながら払っていました。」
「それで、元利金が払えずに延滞した後、ロワール銀行の担当者のスティーブンから連絡がありました。スティーブンが言ってきたのは、ローンを全額一括返済するか、追加の担保を入れるか、でした。」
「それでどうしましたか?」
「全額一括返済できないので、自宅を追加担保にしました。20年前に購入した物件でしたが、市場価値として5,000万JD近くあったので、借入金の担保として使えると思ったからです。ただ、今思えば、初めから自宅の担保を狙っていたのではないかと思います。」
「というのは?」
「ロワール銀行に追加担保を入れても私の収入が増える訳ではないので、借入金の返済が楽になるわけではありません。しばらくすると、また延滞が発生しました。」
「まあ、そうなりますね。」
「延滞したら、ロワール銀行のスティーブンは前回と同じようなことを言ってきました。担保物件を売却して借入金を返済するか、追加担保を入れるか、です。」
「大変でしたね。」
「ええ。ロワール銀行からの借入金は少しずつ元本返済していたものの、その時の残高1億2,000万JDでした。全額一括で払えるはずがありません。せっかく手に入れた投資不動産だったので担保物件もしたくありません。さらに、追加担保にできる物件もありませんでした。」
「それは難しい選択でしたね。」
「ええ。私がその2択で悩んでいると、ちょうどその時に、レンソイス不動産のリードが私のところに電話をしてきて、系列のLファイナンスで1億2,000万JDを借換えしてはどうか、と提案してきました。」
「ローンの条件はどういうものでしたか?」
「Lファイナンスのローンは、期間が1年と短いものの、期中の元本返済はありませんでした。期限一括返済という元本返済条件です。借入期間は利息しか払う必要がありません。」
「ただ、借入期間が1年だと短すぎますよね?」
「短いとは思いました。リードは、1年の返済期限が到来した時に担保不動産に問題がなければ、借換えすることができると言っていました。その話を聞いた私は、1年自動更新のローンだと認識しました。でも、実際は自動更新のローンではなかった訳です。」
「何があったのですか?」
「Lファイナンスから借入をして1年が経過して期日がきました。そうしたら、Lファイナンスの担当者のジョーから、『担保不動産の価値が下がっているから、借換えはできない』と言われました。」
予想通りとはいえ、俺はディーンのことが可哀そうになってきた。ディーンは話を続ける。
「資金がありませんから、期日までに全額返済できません。返済期日を過ぎると、ジョーは私に『担保物件を競売するから、直ぐに自宅から出ていけ』と言ってきました。
そして、Lファイナンスは保有していた投資不動産と自宅を売却しはじめました。数週間すると、10物件と自宅が1億2,500万JDで売れたとジョーから連絡がありました。担保不動産の買い手は、レンソイス不動産です。」
「ローン残高よりも高くは売れたのですね。」
「不動産の決済が終わると、Lファイナンスは売却代金とローン残高の差額500万JD(1億2,500万JD-1億2,000万JD)を、私の銀行口座に振込んできました。それに前後して1億2,000万JDのローンの完済通知も届きました。」
「・・・」
俺たちはディーンに掛ける言葉が見つからなかった。
「話をまとめると、3年間で1億5,000万JDを借入して、投資不動産を2億JDで購入しました。借入金はローンの元本を3,000万返済して、時価5,000万JDの自宅を追加担保に入れました。でも、最終的に戻ってきたのは500万JDだけです。自宅からも追い出されました。」とディーンは言った。
「トータルの損失を計算すると、物件購入時の自己資金5,000万JD、借入金返済3,000万JD、追加担保の自宅の時価5,000万JDに対して、500万JDの回収だから、1億2,500万JD(=5,000+3,000+5,000-500万JD)ですか。」と俺は言った。
「大体それくらいの損失でしょう。今考えると、最初から仕組まれていたのではないかと思います。自宅を担保に追加させることも、販売したLシリーズを半額で買い戻すことも、最初からレンソイス不動産が計画したのでしょう。」
「そうかもしれませんね。ところで、レンソイス不動産が購入した後は、どうなったかご存じですか?」
「その後は、知りません。というよりも、調べられるような精神状態ではありませんでした。」
「自宅の件は今すぐには分かりませんが、Lシリーズの方は、登記簿謄本を見る限り既にレンソイス不動産から、個人投資家に売却されているようです。10件のLシリーズの不動産にはロワール銀行の抵当権が付いていて、借入金が1億6,000万JDと記載されています。投資用不動産の全額を借入で賄うことはないので、約2億JDでレンソイス不動産は個人投資家に売却したのでしょう。」
「本当にふざけた会社ですね。新しい被害者を出さないためにも、迅速な調査を私からもお願いします。私の手伝えることであれば、何でも協力しますから。」とディーンは怒りに震えながら言った。
「我々も全力を尽くします。」と俺は言った。
ディーンの件は、可哀そうな結末になってしまったのは残念だ。
ただ、我々の調査は不正融資の証拠を掴むことだ。被害者を出さないことではないのだが、ディーンにそれを言っても仕方ないだろう。
ディーンからは、一連の取引の流れを聞くことができた。
どうやら、レンソイス不動産→ロワール銀行→Lファイナンス→レンソイス不動産でお金を個人投資家から吸い上げる仕組みのようだ。
念のために、あと4人からも話を聞いて、取引の流れがディーンのケースと同じかどうかを、確認しよう。
「譲渡担保の件ですね。確か、Lシリーズを10物件取得して、借入金が1億5,000万JDになってから、3年が経過したころだったと思います。無理をして借入をしていたので、元利金の返済ができなくなりました。」とディーンは言った。
「3年間もよく払えましたね。収入からするとかなり大変だったでしょう。」
「大変でした。給与だけでは賄えないので、貯蓄を取崩しながら払っていました。」
「それで、元利金が払えずに延滞した後、ロワール銀行の担当者のスティーブンから連絡がありました。スティーブンが言ってきたのは、ローンを全額一括返済するか、追加の担保を入れるか、でした。」
「それでどうしましたか?」
「全額一括返済できないので、自宅を追加担保にしました。20年前に購入した物件でしたが、市場価値として5,000万JD近くあったので、借入金の担保として使えると思ったからです。ただ、今思えば、初めから自宅の担保を狙っていたのではないかと思います。」
「というのは?」
「ロワール銀行に追加担保を入れても私の収入が増える訳ではないので、借入金の返済が楽になるわけではありません。しばらくすると、また延滞が発生しました。」
「まあ、そうなりますね。」
「延滞したら、ロワール銀行のスティーブンは前回と同じようなことを言ってきました。担保物件を売却して借入金を返済するか、追加担保を入れるか、です。」
「大変でしたね。」
「ええ。ロワール銀行からの借入金は少しずつ元本返済していたものの、その時の残高1億2,000万JDでした。全額一括で払えるはずがありません。せっかく手に入れた投資不動産だったので担保物件もしたくありません。さらに、追加担保にできる物件もありませんでした。」
「それは難しい選択でしたね。」
「ええ。私がその2択で悩んでいると、ちょうどその時に、レンソイス不動産のリードが私のところに電話をしてきて、系列のLファイナンスで1億2,000万JDを借換えしてはどうか、と提案してきました。」
「ローンの条件はどういうものでしたか?」
「Lファイナンスのローンは、期間が1年と短いものの、期中の元本返済はありませんでした。期限一括返済という元本返済条件です。借入期間は利息しか払う必要がありません。」
「ただ、借入期間が1年だと短すぎますよね?」
「短いとは思いました。リードは、1年の返済期限が到来した時に担保不動産に問題がなければ、借換えすることができると言っていました。その話を聞いた私は、1年自動更新のローンだと認識しました。でも、実際は自動更新のローンではなかった訳です。」
「何があったのですか?」
「Lファイナンスから借入をして1年が経過して期日がきました。そうしたら、Lファイナンスの担当者のジョーから、『担保不動産の価値が下がっているから、借換えはできない』と言われました。」
予想通りとはいえ、俺はディーンのことが可哀そうになってきた。ディーンは話を続ける。
「資金がありませんから、期日までに全額返済できません。返済期日を過ぎると、ジョーは私に『担保物件を競売するから、直ぐに自宅から出ていけ』と言ってきました。
そして、Lファイナンスは保有していた投資不動産と自宅を売却しはじめました。数週間すると、10物件と自宅が1億2,500万JDで売れたとジョーから連絡がありました。担保不動産の買い手は、レンソイス不動産です。」
「ローン残高よりも高くは売れたのですね。」
「不動産の決済が終わると、Lファイナンスは売却代金とローン残高の差額500万JD(1億2,500万JD-1億2,000万JD)を、私の銀行口座に振込んできました。それに前後して1億2,000万JDのローンの完済通知も届きました。」
「・・・」
俺たちはディーンに掛ける言葉が見つからなかった。
「話をまとめると、3年間で1億5,000万JDを借入して、投資不動産を2億JDで購入しました。借入金はローンの元本を3,000万返済して、時価5,000万JDの自宅を追加担保に入れました。でも、最終的に戻ってきたのは500万JDだけです。自宅からも追い出されました。」とディーンは言った。
「トータルの損失を計算すると、物件購入時の自己資金5,000万JD、借入金返済3,000万JD、追加担保の自宅の時価5,000万JDに対して、500万JDの回収だから、1億2,500万JD(=5,000+3,000+5,000-500万JD)ですか。」と俺は言った。
「大体それくらいの損失でしょう。今考えると、最初から仕組まれていたのではないかと思います。自宅を担保に追加させることも、販売したLシリーズを半額で買い戻すことも、最初からレンソイス不動産が計画したのでしょう。」
「そうかもしれませんね。ところで、レンソイス不動産が購入した後は、どうなったかご存じですか?」
「その後は、知りません。というよりも、調べられるような精神状態ではありませんでした。」
「自宅の件は今すぐには分かりませんが、Lシリーズの方は、登記簿謄本を見る限り既にレンソイス不動産から、個人投資家に売却されているようです。10件のLシリーズの不動産にはロワール銀行の抵当権が付いていて、借入金が1億6,000万JDと記載されています。投資用不動産の全額を借入で賄うことはないので、約2億JDでレンソイス不動産は個人投資家に売却したのでしょう。」
「本当にふざけた会社ですね。新しい被害者を出さないためにも、迅速な調査を私からもお願いします。私の手伝えることであれば、何でも協力しますから。」とディーンは怒りに震えながら言った。
「我々も全力を尽くします。」と俺は言った。
ディーンの件は、可哀そうな結末になってしまったのは残念だ。
ただ、我々の調査は不正融資の証拠を掴むことだ。被害者を出さないことではないのだが、ディーンにそれを言っても仕方ないだろう。
ディーンからは、一連の取引の流れを聞くことができた。
どうやら、レンソイス不動産→ロワール銀行→Lファイナンス→レンソイス不動産でお金を個人投資家から吸い上げる仕組みのようだ。
念のために、あと4人からも話を聞いて、取引の流れがディーンのケースと同じかどうかを、確認しよう。
0
あなたにおすすめの小説
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる