だから公爵令嬢はニセ婚することにした

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ニセ婚の終わり

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 私の記憶は戻った。ウィリアムとの出会い、嘘の婚約、学校生活を思い出した。
 ダンスパーティでタキシードを着たウィリアムと踊ってから、私の中にウィリアムが少しずつ浸食しているような気がする。

 私が嘘の婚約をした理由は、運命の人を探すための時間稼ぎ。ウィリアムも何か理由があって、私と嘘の婚約をしたはずだ。何のために私と婚約したのだろうか?

 夕食の後、ウィリアムにバッタリと廊下であった。手には私が食べようと思っていたプリンを持っている。こういうところがイライラする……

「ちょっと、なぜ私のプリンをあんたが持ってるの?」
「誰のプリンでもないだろ! 冷蔵庫に入ってたぞ」
「そのプリンは私が食べようと思って置いておいたの!」
「じゃあ、名前でも書いとけよ!『アンナのプリン』って書いてあったら取らねーよ!」
「うっさいわねー」

 私はウィリアムからプリンを奪い取ろうと手を伸ばした。ウィリアムはプリンを守ろうとして屈んだから、私の手はウィリアムが着けていたペンダントをつかんだ。

 私はつかんだペンダントを凝視する。

――これって……

 私が5歳のときに男の子にあげたロケットペンダントとそっくりだ。
 プリンよりも先に、ウィリアムから確認することがあるようだ。

「ちょっと、これは?」と私はウィリアムに聞いた。

 ウィリアムは気まずそうに黙っている。

「私が男の子にあげたペンダントとそっくりなんだけど……」
「……」
「中を確認してもいいかな?」
「なんでだよ?」

 ウィリアムは少し動揺しているように見える。

「私は、ずっとある人を待っている……」
「人を待っている?」
「ええ、そうよ。この前、5歳のときにクラーク王国の感謝祭で迷子になった話をしたでしょ」
「ああ、同じ年の男の子とキスした話だな」
「私はその人を待っているの」
「5歳だぞ? いま、そいつがどうなってるか分からない。そんなヤツと結婚するのか?」

 ウィリアムから言われるまでもなく、私もそう思う。でも、運命の人が気になる……

「そうね。私がその人と結婚するかは分からない。でも、私が結婚相手を決める前には会ってみたい」

「そっか……。俺も探している人がいる」
 そういうとウィリアムは首から下げたロケットペンダントを私に見せた。

「この子なんだ」

 見覚えのあるペンダント。私がペンダントの中を確認すると、小さい私と家族の写真が入っていた。

――えぇっ? ウィリアムが?

 ウィリアムは私の写真を10年以上持っていた。そして、私を探していた。
 私と同じように……

 きっと、ウィリアムは私が写真の女の子だと気付いていた。

 何となくそんな予感はしていた。
 ウィリアムは5歳のとき、クラーク王国の感謝祭で、異国からきた迷子の女の子とキスをした。

 この条件に当てはまる人間はそんなに多くない。

 それに……

 ダンスパーティで倒れたとき、ウィリアムは私を医務室まで運んでくれた。
 記憶がなくなった時、ウィリアムは病室に何度も来てくれた。
 ウィリアムのファンクラブができて、私はモヤモヤした。
 事故にあってから、ウィリアムの態度が変わったような気がする。

 ウィリアムのことは嫌いではない。でも、好きなのかは分からない。

 ウィリアムは私のことをどう思っているのだろう?

「5歳からずっと……私の写真を持ってたんだ?」
「そうだな」
「10年以上だよ?」
「そうだ。「また会おう」って約束したからな」
「ストーカーって言われたことない?」
「うるせー。お前も運命の人を追いかけてるストーカーだろ?」
「そう……だね。私もストーカーだね」

 私がウィリアムを見たら少し照れたような表情をしている。

「私との約束を守ってくれたんだ?」
「ああ」
「いい人なんだね?」
「まぁな」

 ウィリアムは少し真面目な表情をしながら私に質問する。

「お前が探していた運命の人が俺で……ガッカリしたか?」
「うーん、どうだろうな?」
「なんだよ?」
「外見はいいのに、性格がちょっとね……」
「お前もな! お前も外見はいいのに、性格が残念だぞ」
「なによー! 性格が残念って」

――いつもの会話だ……

 失礼なことを言われているはずだけど、あまり気にならない。
 私は気になっていたことをウィリアムに尋ねる。

「いつ、その写真が私だと分かった?」
「正直、確信はなかった。でも、名前がアンナなのは知っていたから、お見合いで会ったときにひょっとして?と思った」
「だから、嘘の婚約を?」
「そうだな。本人かどうか確認しようと思って……」
「ひょっとして、転校してきたのも私を観察するため?」
「それは違う! お前の父上が強引に俺を転校させたんだ」
「本当に? ストーカーならやりかねないなー」
「うるせー」

 ウィリアムは話の核心に迫った。

「これから、どうする?」
「これからって、婚約のこと?」
「そう。婚約を破棄するか? 現状維持か?」

 私は少し考えてからウィリアムに尋ねる。

「あんたはどっち?」
「質問に質問で返すなよな。まぁ、俺は……現状維持……かな」

「じゃあ、私も現状維持で!」
 私は笑いながら答えた。

「じゃあ、ってなんだよ……」
 ウィリアムは少し不満そうだ。

「別にいいでしょ。破棄してほしいの?」
「そんなことは言ってない……」
「じゃあ、婚約を続けたいの?」
「婚約を続けられない……こともない……かな」
「本当に素直じゃないわね」
「うるせー!」

 こうして、私たちの嘘ではない婚約が始まった。

<おわり>
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