春日野道で会いましょう

kkkkk

文字の大きさ
2 / 10

僕はStabilityを調べるためにやって来た!

しおりを挟む
 話は地震の1年前くらいに遡る。あの日、僕はシゲに誘われてコンパ(合コンのこと)に行った。

 シゲと僕は同じ修士課程の大学院生で、僕たちは同じ岩盤工学の研究室で研究していた。僕たちの研究室は震災後に都市安全研究センターという施設に入ったのだが、研究室はTA-1のような略称が使われていたと思う。

 英語では「Research Center for Urban Safety and Security」とされているのだから、TAにしなくて良かったんじゃないか、と今でも思っている。
 だって、T(都市)A(安全)ってダサくないか……

 これ以上言うと関係者に怒られそうだから止めておこう。

 話を戻すと、シゲは「女の子は世界中にいるんや。ホセも日本にきたら、日本人の彼女を作らなあかん」と僕に言った。

「船乗りみたいやな……」
「そやで、ホセは船乗りや。船乗りは現地妻を作らなあかん!」
「僕は学生や。船乗りと違うで」
「アホか? 健全な男は、彼女の一人や二人や三人いるもんや。そやないと、ゲイやと思われるぞ!」
「彼女がいんかったらゲイって……。いま日本の学生の半分くらい敵に回したなー」
「そんなん、どっちでもええねん。行くんか? 行かんのか?」
「行かない……とは言ってない」
「やったら、最初から「行く!」って言えや!」

 シゲは外国人の僕がまどろっこしい言い回しを使うことにイライラしているようだ。一方の僕は最近習った日本語の言い回しを使いたくてしかたない。

「この前、バイト先の英会話教室で「物事には本音と建て前がある」って教えてもらったんや。どう? 日本人っぽいやろ?」
「お前のどこが日本人じゃー! どっからどう見ても外国人にしか見えん」
「傷付くこと言うなー」
「経験談は語るや。英語ペラペラのアジア人は、アメリカで気持ち悪がられたわー」
「僕は日本語ペラペラの南米系や。気持ち悪い?」
「そんなん知るか!」
「ひっどー、日本の『わびさび』を習得した数少ないブラジル人やでー」

「ええこと教えたろか?」とシゲは意味深な言い方をした。

「ええこと?」
「外国人は日本語ペラペラよりも、ちょっと片言の方がモテるねん」
「片言の方がモテる?」
「そや。日本語を頑張って喋っている外国人は、女の子の母性本能をくすぐんねん。私が何とかしたらなあかんわー、ってな」
「わざと下手に話せってこと?」
「つかみは重要や。そんなホセに問題を出したろ」
「問題?」

「ホセが街中でナンパするとしよう。AとBのどっちが正解か?という問題」
「へー」
「A:お嬢さん、僕とお茶しに行きませんか?」
「普通やな―。Bは?」
「B:お姉ちゃん、今から僕と松葉崩しーひん?」
「Bはあかんやろー」
「さぁどっち?」

 僕は考えたフリをしてから答えた。Bのわけがない……

「Aやろ」
「残念! Bでしたー」
「嘘やろ?」
「Aは真面目すぎてあかん。すごい男前やったとしても、関西では無理や。でも、Bはおもろいヤツやなーって思うやろ。それに、外国人がやったらウケる」
「それ、本気で言ってる?」
「本気、本気! まず、女の子と親しくなるためには、壁を取っ払わなあかん。うーん、英語で言うとmelting the iceやな」
「警戒心を解くってことやな」
「だから、こーいうのが重要なんや。とにかく、来週の金曜日はコンパやから、バイト入れんなよ!」

 こうして、僕は強引に合コンに連れて行かれることになった。

***

 シゲはお節介だ。僕が日本に溶け込めるように、いろんなアドバイスをしてくれた。
 良いアドバイスの時もあれば、悪いアドバイスの時もあった。
 割合でいうと3:7。もちろん、悪い方が7だ。

 シゲは合コンに参加する僕に、つかみのジョークを伝授すると言った。
 外国人の僕にしかできないジョークだと言われて、嫌な予感がした。

 これは、シゲから教えられた悪いアドバイスだ。

「日本人の女の子に絶対ウケるジョークやから」とシゲは自信満々に僕に言った。

 実際、シゲはモテていたと思う。
 女の子との話を盛り上げるのは得意だったし、オシャレだった。
 身長は普通くらいだったけど、野暮ったくなくて顔が良かった。

 そんなシゲが言うことだから、僕はシゲから『日本の女の子に絶対ウケるジョーク』を伝授してもらうことにした。僕は50%くらい信じていたと思う。

 僕はブラジル人留学生だ。だから、合コンにくる日本人の女の子は「なんで日本に留学しにきたん?」と聞いてくるはずだ。

 それに対して、シゲは「日本のStability(安定性)を調べに来た!」と言うように僕に言った。シゲは「Stability」のところを外国人っぽく言うように僕に要求した。

「Stability」
「違う! もっとネイティブっぽく!」
「Stability」
「もっと大きな声で!」
「Stability!」
「恥ずかしがらずに!」
「Stability――!」
「まあ、ええやろ…」

 話を進める。
 女の子は僕の「Stability」を不思議に思うはずだから、「何のStability?」と僕に質問する。

 シゲは自分の胸を上げ下げしながら「日本の女の子のStability―――!」と言った。

 下ネタだ。松葉崩しのような……
 ブラジル人はこういうのをやらない。

――こんなので大丈夫なのだろうか?

 不安に思う僕に、シゲは「大丈夫やって! ウケるでー」とご機嫌そうにしていた。


***


 コンパがスタートし、僕はシゲに教えられたジョークをやった。そしたら、すべった……

 正確に言うと、一緒に参加していた男性陣には大ウケした。
 女性陣は一言も発しなかった。変なガイジンだと思われたようだ。

 傷心の僕を余所に、コンパは盛り上がっている。
 何人かの男の子と女の子が連絡先を交換している様子が見えた。

 そんな落ち込む僕に、女の子の一人が話しかけてきた。

「自分(関西弁であなたのこと)、すべったなー」
「そうやな。シゲにウケるって言われたからやったのに……」
「自己紹介で下ネタをするのは、あかんかったなー」
「そやなー。日本語、難しいなー」
「なにゆうてんの? 十分うまいやん」
「おおきにー」
「それ、京都弁な。標準的な関西弁とちゃうで」
「へー、難しいなー」

 僕はこの流れだったらウケるんじゃないかと思った。

「Stability―――!」

 すべった……。
 僕は今後このジョークを封印することとした。

――シゲの噓つき……

 これはシゲから教えられた悪いアドバイスのほんの一部だ。他にもたくさんある。
 あまりに数が多いから、他のアドバイスについて語るのは別の機会にしようと思う。

 でも、このジョークのおかげで彼女と知り合えたのだから、今となっては悪くなかったのかもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

処理中です...