『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~

川嶋マサヒロ

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第三章「街を守る男」

第七十四話「ゴーストの残滓」

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 昨日の今日だが北東の森は静けさを取り戻していた。他の冒険者たちは気味悪がって近づかないようで、ゴーストが跋扈していた影響か獲物となる魔物の数も少ないようだ。

「ただの平和な森よねえ」
「気配も何も残っちゃいないな……」

 所々に見える破壊された木々の残骸、踏み荒らされた下草などが激闘の残り香である。セシールならばここでどのような戦闘が展開したか想像できるであろう。

「お母さんもゴーストと戦ったの?」
「ちょっと手伝っただけさ。それに一応非公式だからな」
「うん……」

 建前は強力な魔物が出現し、王都から来ていた監察官が戦い、この街の冒険者たちが手伝った、との発表になっている。

 引退組である元勇者、セシリアが参加した情報は伏せられていた。本人の希望でもある。

「さて、二人が狙えるような魔物を探そうか」
「うん、飛んで探すわ。誘導するから」
「了解だ」

 セシールは浮き上がって北へ飛んだ。ベルナールたちも北に向かって歩く。

「師匠……」
「ん、何だ?」

 アレットが遠慮がちに口を開いた。

「ゴーストっていったい何なのですか?」
「ははっ、その話か――」
「お父さんとお母さんに聞いたのですが、よく分からないって言われて……」
「怖い魔物~?」

 ロシェルも街や村でゴーストの噂話を聞いているようだ。全てを話す訳にはいかないが、二人は冒険者なのだし知識は必要だろう。

「怖い――、つまり強い魔物の名前だな。特殊な性質がある。色々な魔物を取り込んで気味の悪い姿をしていたよ」
「取り込むのですか?」
「うむ、他の魔物の力を自分の力にするんだな。だから強い」

 二人共、既に冒険者の顔である。弱い魔物ならば倒しているので、強いと聞けば緊張もする。

「ゴーストは大昔から大きな街に出没して人を襲っていた。それが伝説になっていたんだ」
「人を襲うのですか?」
「ああ」

 アレットは幼いなりに少し考え込んだ。

「いつも冒険者が森で魔物を追っているのとは逆なのですね」
「ほう……」

 それは大人たちがいつもと同じように考えるのとは、逆の視点であった。子供らしい素直な心で考えれば話がにもなるのだ。

「師匠が倒したの~?」
「皆で協力したんだよ」
「今度は私たちも連れてって~」
「相手は強力な敵だ。今は無理だが、二人がもうちょっと成長したらな」

 ロシェルの感想はちょっとお気楽ではある。今はこれでいいだろう。そうそうゴーストなど出現しない。

「おっ、セシールが獲物を見つけたようだ。少し走るから続け! 周囲に気を配れ。注意を怠るなよ」
「「はいっ!」」

 これから立場が逆になった昨日と同じような戦が始まるのだ。ベルナールたちは負けるわけにはいかない。

   ◆

 北東の森でクエストをこなしたベルナールたちは、それなりの成果を上げて街に戻った。

 ギルドではカウンター越しにエルワンが一人の冒険者とやり合っていた。そのパーティーのメンバーは困った顔をして見守っている。

「なぜ私のパーティーではダメなのだっ!」
「だから言っただろう! パーティーとしてのランクの問題だよ」

 気勢を上げているのは冷たい気品が漂う若者だ。以前セシールが在席していたパーティーのリーダーである。

「フィデールったら、まったく……」

 セシールはそうつぶやいてから溜息をつく。

「我らでは力不足だとでも言うのかっ!?」
「そう理解してもらっても構わないねっ!」

 二人の押し問答は続いていた。クエストから帰還した冒険者たちが怪訝な顔で様子を伺っている。

「止めてくるわ」

 そう言い、そしてセシールはズカズカと歩きカウンターに向かった。

「し、師匠~……」
「大丈夫だろ? 見物させてもらおうか」

 相手は貴族だ。ロシェルが心配そうに言うがこの場では冒険者同士なので基本、問題にはならない。あれがセシールをクビにした男なのかと、ベルナールは改めてその姿を見る。身に付けている衣装も華麗で、貴族を誇示していた。

「フィデール、いいかげんにしなさいよ!」
「ちっ、セシールか……」

 相手が貴族だろうがセシールは負けていないし遠慮もしない。この辺りは母親譲りであった。

「あなたたちじゃ、まだ無理だとギルドが判断したならもう仕方ないじゃないの? 文句を言う暇があったら森で魔物を狩った方が建設的よ」
「ゴーストすら圧倒する元勇者の娘だからといって、私のパーティーにそう何度も出しゃばってもらっては困るな……」
「ゴースト? 何を言ってるのよ?」
「いや……」

 フィデールは一瞬顔色を変え、不機嫌そうに口をつぐみセシールを睨んだ。同じ弓使いアーチャーでありセシールの母とは言え、ここまでこだわるのに違和感はある。

「帰るぞっ!」

 若い貴族はそう言ってパーティーの仲間たちを引き連れギルドから出て行った。


「どうした?」

 ベルナールは、相変わらずカウンターでこちらを待っていたかのようなエルワンの傍らに行く。

「俺たちを行かせろ、ですよ。よくある話です」

 どんな冒険者だって自分の力は誇示したい。ルールへの割り込みなど小さな権力者の考えそうなことだ。ギルドマスターのエルワンならば慣れているし、確かによくある話でもある。

「何があった?」

 ベルナールは先の話をうながした。

「第五階層の巨大ホールに魔物が現われました」

 そろそろ出ごろであった。デフロットが一番クジを引いたと言っていたが、実際にはバスティたちとの話し合いとギルドマスターの指名である。

「相手は?」
「ミノタウロスのA級です。守備隊が封鎖しましたが、ずいぶんと暴れているようでして……」
「ふむ、急いだ方がいいな」
「マークス隊長がすぐに討伐パーティーを送れと言ってます」

 ちょうど噂のパーティーが帰還した。ベルナールは手を上げてデフロットたちを呼ぶ。
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