新創生戦記「休学ニートのチートでハーレムな異世界ファンタジー」

川嶋マサヒロ

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第二十話「精霊の泉」

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 その日の朝、シンジとエミリー、リリィの三人は戦士組合を訪ねた。二人の仕事が休みなので先日エミリーと約束した、仕事を兼ねた聖女の特訓の為だ。
 仕事と言っても魔雑魚退治程度の案件しかないがこの程度がちょうどよい、三人は掲示板の前に立つ。

「いつも通りでたいした仕事は無いね、まあ、馬で遠乗りだと思えばいいよ」

 北の魔雑魚退治の案件がシンジの目に付いた。北の街道は奥の途中から西と東に枝分かれしていて、その北東へ伸びる道の先からの通報だった。
 酒場で聞いた事があったが、この奥には精霊の泉か有る事を思い出した。

「これにしよう」

 シンジはメモを取って三人で受付に向かう。

「今日は三人で仕事? 一人分しかポイントが出ない案件だけど」

 クレアが笑ってメモを受け取る。

「まあ、見学だよ、馬で遠乗りも兼ねてさ、それと……、ついでに精霊の泉も見てくるよ」

「その泉見物に行った人からの通報なの、泉の少し手前の道路沿いに魔雑魚を見たって、たいした量じゃないし場所もあいまいだから、発見出来なくてもかまわないわ、要は現状の調査、確認ね」

「了解だ、のんびり行くよ、馬は二頭借りれるかな?」

「大丈夫よ、二頭ね」

 クレアは泉で精霊に会えたのはもう百年近く前の事、精霊に会う為に体には、何も身に着けない事が条件のようだと付け加えた。

「裸ねえ……」

 クレアが二頭分の伝票を書きシンジに差し出す。通常魔雑魚退治の仕事程度だと、貸し出される馬は一頭だけなので、特別に融通をきかせてくれた形だ。

 エミリーは一人で、シンジはリリィの後ろに二人で乗り、街道を北へと馬を走らせる。

「シンジ、退屈したら交代するから」

 リリィが後ろを向きながら叫ぶ。

「ああ、北東に分岐する所でエミリーの馬に移るよ」

 農地や牧草地の風景から道は森の中に変わり、ほどなくして東西への分岐道が見えてきた。

「よし、一度降りようか」

 エミリーとリリィが馬の速度を落としてゆっくりと停止し、三人は馬を降りた。

「少し休もう、お尻が痛いよ」

「シンジの乗馬はまだまだね」

 エミリーが笑う。三人は道端の木に手綱を結び、シンジは背伸びをした。

「この先ってどうなっているの?」

 リリィが東への道の先を指差す。

「西も東も、両方共、山岳部に突き当たって行き止まりのようだね」

 三人は道端に腰掛けた。

「さて、三人で結界を張ってみようか、この道の先をどこまで見れるか、魔雑魚が見つかるか試そう」

 シンジが両手を差し出し、エミリーとリリィが頷いてその手を握る。

「周囲を見るんじゃなくて、この道の先に集中して、そう、そう、道の近くの森の中も見て……」

「あっ、何か見えた、これが魔雑魚かしら? リリィ、どう?」

「う~~ん、あっ、私も見つけたよ」

 二人の結界を通じて、シンジも魔雑魚を確認した。

「ああ、魔雑魚だね、それにしてもここから十キロは離れているね、二人とも凄いな」

「この辺りが限界~~、レイチェルが居ればもっと遠くまで見えるんだけど」

「うん、人を追いかけて見るのと、誰も居ない場所を見るのは随分違うわ」

 たとえばシンジが十キロ以上離れた場所に居たとしても、彼女たちは充分その先まで結界を有る事が出来る。結界は人を中継点のようにして、距離を延ばす事が出来た。

「さて、目標の場所も分かったし行こうか、今度は俺が馬を操るよ、エミリーは後ろね」

「大丈夫かしら~~?」

 エミリーが冗談めかして言う、シンジは鐙に足を掛け馬に乗ってから、エミリーに手を差し出す。

「大丈夫だって、コーチしてくれよ」

「うん」

 エミリーがシンジの手に体重を掛けて後ろに乗り、三人は北東へ馬を走らせた。

「シンジはちょっと上下の動きが有りすぎね」

 しがみついていたエミリーが手を解き、シンジの尻を少し持ち上げる。

「もう少し腰を上げて、鐙に体重をかけて、そう、ほんの少しだけ、そんな感じ、あと手綱はもう少し優しく扱ってね、競争してるんじゃないからね」

「なるほど」

 確かに上下の動きが少し抑えられ、背中に感じるエミリーの胸が動く感触が少し収まった。

「そのうち意識しなくても出来るようになるわ」


 魔雑魚を見つけた場所に着いたので、馬を下りて三人で森の中に分け入った。

「気配を感じる、五メートルぐらい離れていて、二人は何か感じる?」

「ええ、嫌な感じ」

「うん、感じるよ、さっき見たヤツね」

「あれだな……」

 シンジの視線の先、木々の間に小さな魔雑魚が浮かんでいた。これが道に出ていて目撃されたらしい、シンジは魔雑魚に歩み寄って剣を突きたてるとそれは白く光って消え去った。

「凄く嫌な感じの割には呆気ないのよねえ、前に見た時もそうだったけど……」

 エミリーが率直な感想を漏らす。

「うん、戦士が対処する分には脅威ではないね、道に戻ってもう一度結界を張ってみよう、近くに魔人が居るかもしれない」

 三人は先ほどと同じように結界を張り、周囲十キロメートルほどを探る。

「魔人は居ないな、大丈夫だ」

「泉が見えたね」

「うん、あれが精霊の泉だな、少し歩くけど行ってみよう」

 三人はさらに道の奥に馬を走らせ、泉まで続く山道近くで降りて、徒歩に切り替えた。

 三十分ほど緩やかな勾配の山道を歩くと、森が開けてきて泉が見えた。幅は十五メートルほどで、奥行きはもう少し有るように見えた。

「綺麗な場所ねえ……」

「うん……」

 エミリーとリリィが感嘆の声を漏らす。
 たたえられている透明な水の底には横たわる木々が見え、光の当たる水面は湖畔の木々と青い空を鏡のように映し出していた。
奥には岩場が点在していて、水面に魚が跳ねるのが見えた。

「ねえ、シンジ、裸になって泳げば精霊に会えるのかな?」

「さあなあ? 百年前は会えたんだろうけど……、体に何も身に着けないって事は裸か、アクセサリーや剣も駄目なのかな?」

 シンジは剣を腰から外し、近くの岩場に腰掛ける。リリィが湖畔まで行き水面に手を付けて戻って来た。

「ねえ、エミリー泳ごうよ、あまり冷たくないよ」

「そうねえ、シンジはどうする?」

「俺はパス、二人とも腰より深い所までは行くなよ、何が起きるか分からないし」

「は~~い」

 二人は返事をしてから服を脱いで岩場の上置き、裸になって泉へ駆けて行った。


「シンジ、人が! 人が居るよ!」

 リリィが胸を揺らし、水しぶきを上げながらこちら走って来る。

「人?」

シンジは怪訝な顔をして湖畔まで走る。

「あそこ、あそこよ」

 リリィが指差す対岸の岩場を見るが、シンジには何も見えなかった。気が付くとエミリーがそちらの方向へ向かって泳いでいた。

「エミリー! 戻って来い、エミリー! ちっ」

 エミリーはシンジの声が聞こえないのか、無視して対岸に泳ぎ続けた。シンジは岩場に立て掛けている剣を取って戻る。

「リリィ、離れていて!」

 シンジは剣を抜いて振り下ろすと、エミリーの周囲に三つの大きな水柱が上がった。エミリーは泳ぐのを止めたが、不思議そうな顔をしてこちらと対岸を交互に見ている。まだ背が届く程度の水深のようだ。
 シンジは服を着たまま、泉に入りエミリーの所まで泳いだ。

「エミリー、どうしたんだ? 俺が分かるか?」

 シンジはエミリーの頬に両手を当てて目を見た。

「えっ、ええ、シンジでしょ」

「良かった、岸に戻ろう」


 シンジは濡れた服を脱いで、絞ってから岩場の上に広げ、岸辺で対岸を見ている二人の元へ戻った。

「まだ人は見える?」

「ううん、もう見えない、御免なさい、シンジ」

「いや、いったいどうしたんだい?」

「分からない、無意識のうちにあっちに向かって泳いでいたのよ」

「人騒がせな精霊だなあ、人に危害を加える存在とも思えないけどね、せっかくだから俺も泳ぐか」

 三人はしばらくの間、泉で泳ぎを楽しんだ。


「さて、そろそろ帰るか」

「シンジ、まだ服が乾いてないよ」

「しょうがない、リリィとエミリーで馬に乗ってくれ、俺は一人で乗るよ、走っていれば乾くだろう」


 戦士組合に戻って事の顛末をクレアに説明した。

「……と言う訳で、見ての通り濡れ鼠さ、だいぶ乾いたけど」

「ふーーん、まだあの泉には精霊が居たのね、よく人前に姿を見せたわね」

「精霊って人に危害を加えたりするのな?」

「いえ、それは無いわね、三人で近くに行ってみれば良かったのに」

「まあね、今度行ってみよる」

「ところで、精霊はどんな姿をしていたの? エミリーが一番近くで見たよね」

「私たちと同じくらいの少女よ、緑色の長い髪で服は着ていなかった」

「ふーーん……」


 部屋に戻ってシンジは新しい服に着替える。しばらくしてレイチェルが仕事から帰宅し、エミリーとリリィが口々に今日の出来事を話す。

「精霊ですか、今度二人で行きましょう、シンジ」

「えーー、二人で? まあたまには二人でね」

「あなたたち二人がシンジと行ったのだから、次は私の番です」 

 冷やかすリリィに、レイチェルがぴしゃりと言い切って、シンジの方を向いた。

「ああ、そのうち二人で行くか」
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