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第六話「クラスカースト」/伊集院京介
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昔から学生は文武両道などと言われているが、現代において道が二つだけとは選択肢がなさ過ぎる。
学校において前者は成績で後者はスポーツにあたり、この世界でそれ以外は求められていないとも理解できる。
それはそれで構わない。俺たちには学校以外の時間があるからだ。
しかし、ある意味真面目に学校に順応している生徒から見れば、その二つにたいした価値観を見いだしていない生徒は奇異に見えるのかもしれない。
「まったく今日の部活も大変だぜ」
「なんにもしないで帰れる奴らが羨ましいよな」
授業が終り、体育会系の生徒はそんなことを言ってこちらを一瞥する。
前者は斎藤、後者は鈴木のセリフだ。いちいち口に出して言うのは、それがストレスのはけ口となるからだ。
部活が嫌なら止めればいいのだが、他に目標もない彼らにその選択肢はない。愚痴りながらもスポーツに打ち込む毎日だ。
このやり取りを聞いていた山田が薄笑いを浮かべている。成績優秀で生徒会の副会長、父親は市会議員で自分のことをエリートと思っているような輩だ。
「格闘技なんて趣味でやってみたいよなあ」
「路上最強とかってな」
斎藤と鈴木は立ち上がり、そう言って笑い合う。矛先が向いているのは男子の飛鳥光茂だ。
言われた本人はいつものように無視を決め込み涼しい顔をしている。
二人がここまで絡んでいる理由の察しはつく。風早琴音の存在だ。
彼女は複数の運動部を掛け持ちし活躍しているので、化育会系の生徒の間では有名人だ。しかも特定の部には所属していない。
身体能力抜群でスタイルもよく可愛らしいルックスも相まって、下級生からも慕われるこの学校のアイドル的な存在だった。
そのアイドルと飛鳥は共通の趣味、格闘技を通して、教室でも時々親密なぐらいに会話を交わしている。要は嫉妬なのだ。
斎藤と鈴木は教室を出て行き、成り行きを見守っていた他のクラスメートたちも、いつものことかと興味を失い次々と教室を後にする。
「格闘技でブチのめしてやったら?……」
「運動部の能力は伊達じゃない。スポーツの道具を得物に持ち換えれば彼らは強いよ」
俺は誰に言うでもなく冗談のように呟き、飛鳥も格闘趣味者として真面目な分析を呟くように返す。
なるほど、陸上部の斎藤ならば足が速いのも武器だし、鈴木はテニスのラケットを剣に持ち替えれば素人以上に戦えるだろう。
「あいつら部活やってるくせにヒマねえ~、格闘が何かも分からないくせにさ。私はダンス部の助っ人練習で忙しいのよ。付き合ってられない!」
二人が出て行った後、風早は一人でぶちまけた。格闘女子としては、自分がバカにされているとでも感じたのだろう。
なかなか気が強く、そんなサッパリした性格は下級生女子のウケもいい。
直接文句を言わないのは本当に忙しいからなのだろう。面倒ごとに巻き込まれるのは御免だ、という感じだ。
「スポーツのチームワークは元を正せば集団戦で勝つための戦略さ。もっとも今は会社なんかで必要とされる資質、サラリーマンの組織予備校みたいなものだけどね」
そう言って立ち上がったのは久世だ。
ミリタリーオタクのこいつは席が近いせいもあって、サバイバル趣味の高丘とよく教室で話をしている。今日は、高丘は用事があるのか早々に教室を出て行った。
「ふんっ、くだらねえオタがよ」
「ねえ……、だから何なのよ?」
そんな話をしているのはチャラ男佐藤とギャル千葉だった。
滑稽な話ではあるが、底辺を蔑むことで自分たちの立ち位置を上にできると無意識に考えているようだ。この二人なりにクラスでの立場を守りたいらしい。
佐藤は親が会社経営者で自身も羽振りが良い、見るからにどら息子といったキャラだった。
千葉はどの程度の雑誌かは分からないが一度、読者モデルとして掲載されたことがあると自慢げに話していた。
昨日会った親友は高校生活を存分に楽しんでいるようだった。
他校のことはよく分からないが、俺の学校のこのクラスにはこんな独特の雰囲気がある。
クラスカーストなど漫画やアニメの話と思っていたが、人間の本質を突いた設定だからこそ世間でも認知されているのだろう。
そのような物語を読んで共感している中高生が全国に大勢いるに違いなかった。この俺のように。
ある意味ここは、ごく普通の学校のごく普通のクラスとも言えた。
学校において前者は成績で後者はスポーツにあたり、この世界でそれ以外は求められていないとも理解できる。
それはそれで構わない。俺たちには学校以外の時間があるからだ。
しかし、ある意味真面目に学校に順応している生徒から見れば、その二つにたいした価値観を見いだしていない生徒は奇異に見えるのかもしれない。
「まったく今日の部活も大変だぜ」
「なんにもしないで帰れる奴らが羨ましいよな」
授業が終り、体育会系の生徒はそんなことを言ってこちらを一瞥する。
前者は斎藤、後者は鈴木のセリフだ。いちいち口に出して言うのは、それがストレスのはけ口となるからだ。
部活が嫌なら止めればいいのだが、他に目標もない彼らにその選択肢はない。愚痴りながらもスポーツに打ち込む毎日だ。
このやり取りを聞いていた山田が薄笑いを浮かべている。成績優秀で生徒会の副会長、父親は市会議員で自分のことをエリートと思っているような輩だ。
「格闘技なんて趣味でやってみたいよなあ」
「路上最強とかってな」
斎藤と鈴木は立ち上がり、そう言って笑い合う。矛先が向いているのは男子の飛鳥光茂だ。
言われた本人はいつものように無視を決め込み涼しい顔をしている。
二人がここまで絡んでいる理由の察しはつく。風早琴音の存在だ。
彼女は複数の運動部を掛け持ちし活躍しているので、化育会系の生徒の間では有名人だ。しかも特定の部には所属していない。
身体能力抜群でスタイルもよく可愛らしいルックスも相まって、下級生からも慕われるこの学校のアイドル的な存在だった。
そのアイドルと飛鳥は共通の趣味、格闘技を通して、教室でも時々親密なぐらいに会話を交わしている。要は嫉妬なのだ。
斎藤と鈴木は教室を出て行き、成り行きを見守っていた他のクラスメートたちも、いつものことかと興味を失い次々と教室を後にする。
「格闘技でブチのめしてやったら?……」
「運動部の能力は伊達じゃない。スポーツの道具を得物に持ち換えれば彼らは強いよ」
俺は誰に言うでもなく冗談のように呟き、飛鳥も格闘趣味者として真面目な分析を呟くように返す。
なるほど、陸上部の斎藤ならば足が速いのも武器だし、鈴木はテニスのラケットを剣に持ち替えれば素人以上に戦えるだろう。
「あいつら部活やってるくせにヒマねえ~、格闘が何かも分からないくせにさ。私はダンス部の助っ人練習で忙しいのよ。付き合ってられない!」
二人が出て行った後、風早は一人でぶちまけた。格闘女子としては、自分がバカにされているとでも感じたのだろう。
なかなか気が強く、そんなサッパリした性格は下級生女子のウケもいい。
直接文句を言わないのは本当に忙しいからなのだろう。面倒ごとに巻き込まれるのは御免だ、という感じだ。
「スポーツのチームワークは元を正せば集団戦で勝つための戦略さ。もっとも今は会社なんかで必要とされる資質、サラリーマンの組織予備校みたいなものだけどね」
そう言って立ち上がったのは久世だ。
ミリタリーオタクのこいつは席が近いせいもあって、サバイバル趣味の高丘とよく教室で話をしている。今日は、高丘は用事があるのか早々に教室を出て行った。
「ふんっ、くだらねえオタがよ」
「ねえ……、だから何なのよ?」
そんな話をしているのはチャラ男佐藤とギャル千葉だった。
滑稽な話ではあるが、底辺を蔑むことで自分たちの立ち位置を上にできると無意識に考えているようだ。この二人なりにクラスでの立場を守りたいらしい。
佐藤は親が会社経営者で自身も羽振りが良い、見るからにどら息子といったキャラだった。
千葉はどの程度の雑誌かは分からないが一度、読者モデルとして掲載されたことがあると自慢げに話していた。
昨日会った親友は高校生活を存分に楽しんでいるようだった。
他校のことはよく分からないが、俺の学校のこのクラスにはこんな独特の雰囲気がある。
クラスカーストなど漫画やアニメの話と思っていたが、人間の本質を突いた設定だからこそ世間でも認知されているのだろう。
そのような物語を読んで共感している中高生が全国に大勢いるに違いなかった。この俺のように。
ある意味ここは、ごく普通の学校のごく普通のクラスとも言えた。
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