【魅了の令嬢】婚約者を簒奪された私。父も兄も激怒し徹底抗戦。我が家は連戦連敗。でも大逆転。王太子殿下は土下座いたしました。そして私は……。

川嶋マサヒロ

文字の大きさ
2 / 33

02「家族会議」

しおりを挟む
 自宅に戻りますと、屋敷は騒然としておりました。婚約破棄の通知が届いていたからです。
「帰ったか。ディアーヌ!」
 私は怒りに顔をゆがめた兄に出迎えられました。
「来てくれ」
 そして足早に、父上の執務室へと向かいます。私も後を追いました。
 そこには狼狽した母上もおりました。
「一体何があったんだ? こんなこと、非常識にもほどがあるぞ」
 お父様はまだ、半信半疑の表情です。
「何かの間違いなのか? しかし正式な書類だよ。これは……」
 そう言って奇異なものでも見るようにサイドテーブルを見つめます。ビュファン家の紋章が刻まれた書類が置かれておりました。
 私は今日起こった悲劇について説明いたします。
「うーむ……」
 バシュラール伯爵家としても立場があります。相手はいくら王家の血筋とはいえ、このような無体は連合王国として許されるものではありません。何か裏の思惑があるのではないか? 父上はそのように考えているようです。
 私もそのように思いたいです。アルフォンスは何か事情があって、あのような態度をとらざるをえなかったと。
「……それは分かった。しかし、一体なぜこんなことになったのだ? なぜ婚約を破棄されなければならない。こちらにどんな落ち度があったというのだ?」
 全員がしばし無言となりました。皆でこのような事態になった理由を考えます。そして、これからどう対処するかもです。
「落ち度などありませんよ。あの・・女のせいです」
 兄は憤怒ふんぬの形相です。怒りを押し殺すように言いました。
「むう……。噂は聞いていたが、それほどの話であったのか……」
 父上は呆れたような表情です。あの・・女とは最近王都にやって来て、王宮社交界にデビューした令嬢のことです。
 名前はヴォルチエ・ソランジュ。西方の有力な辺境伯、ヴォルチエ家の令嬢です。
 皆は再び押し黙りました。相手が悪いのではないかと。
 母がそっと私を抱きしめてくれます。
「ディアーヌ……。なんてことに……」
「お、母様……」
 ポロポロと涙がこぼれ落ちます。もう、もう止まりませんでした。ここは愛する我が家なのですから。
「……うっ、うえ。えっえっーー……」
 そのまま母の胸に顔を埋めて嗚咽を押し殺します。
「アルフォンスめ~、首を跳ね飛ばしてくれるわっ!」
 兄上はここ、ルフェーヴル連合王国、第三王都アジャクシオの政務庁舎を守る第七騎士団の団長を拝命しております。幼き頃より修練に励み若くして抜擢されました。
 そしてアルフォンス様は王族の一人であり、若手行政官の旗手と評判でした。
 二人は親友です。いずれ王国を担う人材だと、将来を嘱望されおります。
 私のバシュラール伯爵家、アルフォンス様のビュファン公爵家。私たちは幼なじみであり、私はその縁で彼と婚約いたしました。両家は祖父の代から深い縁で結ばれております。
「ヴィクトル。くれぐれも、軽挙妄動は慎めよ……」
「はっ、父上……」
 兄は素直に応じます。貴族同士の私利私欲による争いは、厳正に罰するとの決まりがあるからです。
 私もさすがに、首の跳ね飛ばしはやり過ぎかと……。それでは復縁も不可能になってしまいます。
「ディアーヌ。早速明日にでもアルフォンスに面談を求める」
「それはどうでしょうか? ヴィクトル、自分の顔を鏡に映して見なさい。それではディアーヌの立場は悪くなるばかりですよ」
 母がとりなしてくれました。それほど今の兄上は恐ろしい顔をしております。こんな状態のままアルフォンス様に詰め寄れば、それだけで謀反人になってしまいそうです。
「そうだ。今日の明日では何も進展などしないぞ! お前はまず頭を冷やすのだ。書類の提出は出来るだけ引き延ばす。まずは情報の収集だよ」
「しかし――」
 父上の政治力を使えば、この事件の真実も見えてくるかもしれません。対処方を考えるにしても今は情報が少なすぎるのです。兄は自分を戒めるように首を横に振りました。
「――わかりました……」
 父や母、兄上に迷惑をかけないためにも、私はこの婚約破棄を素直に受け入れようと思っておりました。相手は王族なのですから。
 でも皆はなんとかしようと考えてくれています。家族とはなんと尊い存在なのでしょうか。
「あいつめ。もしかして、【魅了】されているのではないか?」
 兄の言葉に、私は狼狽いたしました。
「ま、まさか。そのようなことは……」
 それは禁忌きんきと呼ばれている魔法技です。もしここ王都でそのような力を使えば、それは反逆を意味します。ありえない話です。
 人は皆、魔力スキルを持って生まれてきます。
 殿方はその力を使い魔獣と戦い人を守り、時には人間同士で争いをいたします。
 私たち女性は傷を治療したり、癒しの力に使ったりいたします。
 その使い道を誤れば魔女と呼ばれ、人間社会では生きていけません。それが【魅了】のスキルなのです。
 そもそもアルフォンス様を【魅了】する者がいるなど、想像もつきません。彼は膨大な魔力を内包し、並のスキルなどまったく通用しないのです。
「王宮の魔導士とているのだ。そんな仕掛けなどありえんぞ」
「はい……」
 兄は父上の常識的な判断に従いました。
 武力により政務庁舎を守る第七騎士団としては、魔力スキルからの守りの要、魔導師団がどれほどの実力かはよく知っているのです。

 もし強力な【魅了】使いが王妃などになれば、この国の権勢をただ一人の女性が握ることになるのです。そうなれば第一王都と第二王都が黙ってはおりません。連合は崩壊し内戦となります。それは他国の侵略を招き、ルフェーヴル自体の名がこの世界から消えてしまうのです。
 大勢の死者がこの地の歴史に刻まれます。魔女の名と共に……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~

ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。 そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。 自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。 マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――   ※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。    ※第二章まで完結してます。現在、最終章をゆっくり更新中です。書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m    ※小説家になろう様にも投稿しています。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

婚約破棄されたので契約を終了しただけですが? ~王国が崩壊したのは私のせいではありません~

しおしお
恋愛
王立学園の卒業舞踏会。 王太子レオナードは突然、婚約者である公爵令嬢アデリーナとの婚約破棄を宣言する。 隣に立つのは、涙を流す義妹ミレイナ。 「お姉様に虐げられてきました」と訴える彼女の言葉を、貴族たちは信じてしまう。 悪女として断罪され、追放を宣告されるアデリーナ。 だが彼女は怒りも悲しみも見せず、ただ静かに微笑んだ。 「承知いたしました。では――契約を終了いたします」 その一言が、すべての始まりだった。 公爵家による融資、貿易、軍需支援。 王国を支えていたすべてが、静かに停止する。 財務は崩壊し、軍は止まり、商人は離反。 王都は混乱に包まれていく。 やがて明らかになる義妹の嘘。 そして王太子の責任。 すべてが暴かれたとき、二人を待っていたのは―― 完全な破滅だった。 一方アデリーナは、隣国で静かな紅茶の時間を過ごしていた。 これは、 婚約破棄された公爵令嬢が“何もしなかった”ことで始まる、 王国崩壊と地獄のざまぁの物語。 ――その報告書を、彼女が読むことは一度もなかった。

処理中です...