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06「あの女性の登場」
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「ねえねえ。ブルクハウセン帝国が大学院の交換留学生制度を提案、ですって!」
政務庁舎の一室で書類分けの最中、リュシーが一枚の書類をヒラヒラさせながら興奮ぎみに言いました。東に国境を接する大国ブルクハウセン。昔は政情不安の噂が流れていましたが、今は落ち着いているようです。
「あそこはどうなのかしら? 学術や魔導術にさほど先進性があるとも思えないけどね」
「オードラン商会としてはついに正式な貿易が始まるのかって期待しちゃうわ」
「そっちね……」
マリエルとリュシー共に興味の方向性が違うのです。私は――。
「私はあそこの文化や芸術に興味があるわ」
「芸術? でも軍事大国よ?」
「うん。でも更に東にはアテマ王国もあるし、あの二国は昔から交流が深いの。ブルクハウセンの文化や芸術も実はかなり洗練されているのよ」
「へー」
私はどうしても遠い異国や、その地独特の文化などにあこがれてしまいます。子供の頃からアスモデウスさんに色々とお話を聞いていたからかもしれません。
「お妃外交だものね」
マリエルは笑顔で言いました。
隠し通すのも辛いものです。まるで親友たちを裏切っているように感じてしまいます。
「これからは東方貿易が主流になるわ。実はもう準備しているのよ」
商家のリュシーは抜け目がありません。
私も、私以外も時代はどんどん変わっていくのてす。
「!」
これは……。
思わず書類をめくる手が止まりました。それは中央政務庁から王宮騎士団への通達です。
第七騎士団の任務を政務庁舎の守備から移動する、と書かれています。
なぜですか? こんな時に……。後任は新設の第十一騎士団? いったい……。
これは明かな左遷です。お兄様は中央から外されてしまったのです。
とても嫌な感じです。あの婚約破棄宣言から、何か得体の知れない不安がじわじわとやって来るようで。
間違いないわ。私のせい?
◆
政務庁舎で各部署に書類を配っていたその時。廊下に出ると、さる令嬢が数名の供を連れ歩いるのが見えました。
たぶん今回の元凶となったその人です。
ヴォルチエ・ソランジュ嬢。辺境から田舎令嬢がこの王都にやって来る。この人の最初の評判はその程度でした。
社交界デビューの夜、会場に集まった皆は、どのような令嬢なのか興味津々でした。
たとえ田舎娘であったとしても暖かく迎えてやろう、そんなふうに思っていました。
しかしあらゆる意味でその期待は裏切られました。
現れた女性は国境沿いの地域らしく、他国から手に入れたであろういくつかの見慣れないアクセサリーを身にまとい、どこか遠くから来たような美しさを漂わせていました。
物静かさは、何かは分からない威厳と気品を漂わせました。彼女は大変頭が良く、機転もきき知性と教養もありました。
王都の作法についても完璧にこなし、それはもう文句のつけどころのない令嬢でした。
たいした時を待たず、ソランジュ様は社交界の人気者となりました。
一行はそのまま上階への直通魔導リフトに乗り込みます。特別な魔力鍵がなければ作動しないのは安全上の措置であります。上は高級官僚や大臣、そして殿下の執務室がある特別な区画だからです。
いまの私の鍵は、もう消されているでしょう。
あの人が王都からいなくなれば、私とアルフォンス様は元の鞘に収まり幸せで平穏な生活が戻るのです。つい、そんなふうに思ってしまいました。
しかしそれはありません。共の者たちは皆強い魔力を持ち、そしてそれを隠しています。万が一にも不測の事態が起こらないよう強力な護衛を帯同させているのです。
本当に西の浸食が静かに始まっているのかもしれません。強力な戦闘集団が政務庁舎の特別区画に出入りしているのですから。
政務庁舎の一室で書類分けの最中、リュシーが一枚の書類をヒラヒラさせながら興奮ぎみに言いました。東に国境を接する大国ブルクハウセン。昔は政情不安の噂が流れていましたが、今は落ち着いているようです。
「あそこはどうなのかしら? 学術や魔導術にさほど先進性があるとも思えないけどね」
「オードラン商会としてはついに正式な貿易が始まるのかって期待しちゃうわ」
「そっちね……」
マリエルとリュシー共に興味の方向性が違うのです。私は――。
「私はあそこの文化や芸術に興味があるわ」
「芸術? でも軍事大国よ?」
「うん。でも更に東にはアテマ王国もあるし、あの二国は昔から交流が深いの。ブルクハウセンの文化や芸術も実はかなり洗練されているのよ」
「へー」
私はどうしても遠い異国や、その地独特の文化などにあこがれてしまいます。子供の頃からアスモデウスさんに色々とお話を聞いていたからかもしれません。
「お妃外交だものね」
マリエルは笑顔で言いました。
隠し通すのも辛いものです。まるで親友たちを裏切っているように感じてしまいます。
「これからは東方貿易が主流になるわ。実はもう準備しているのよ」
商家のリュシーは抜け目がありません。
私も、私以外も時代はどんどん変わっていくのてす。
「!」
これは……。
思わず書類をめくる手が止まりました。それは中央政務庁から王宮騎士団への通達です。
第七騎士団の任務を政務庁舎の守備から移動する、と書かれています。
なぜですか? こんな時に……。後任は新設の第十一騎士団? いったい……。
これは明かな左遷です。お兄様は中央から外されてしまったのです。
とても嫌な感じです。あの婚約破棄宣言から、何か得体の知れない不安がじわじわとやって来るようで。
間違いないわ。私のせい?
◆
政務庁舎で各部署に書類を配っていたその時。廊下に出ると、さる令嬢が数名の供を連れ歩いるのが見えました。
たぶん今回の元凶となったその人です。
ヴォルチエ・ソランジュ嬢。辺境から田舎令嬢がこの王都にやって来る。この人の最初の評判はその程度でした。
社交界デビューの夜、会場に集まった皆は、どのような令嬢なのか興味津々でした。
たとえ田舎娘であったとしても暖かく迎えてやろう、そんなふうに思っていました。
しかしあらゆる意味でその期待は裏切られました。
現れた女性は国境沿いの地域らしく、他国から手に入れたであろういくつかの見慣れないアクセサリーを身にまとい、どこか遠くから来たような美しさを漂わせていました。
物静かさは、何かは分からない威厳と気品を漂わせました。彼女は大変頭が良く、機転もきき知性と教養もありました。
王都の作法についても完璧にこなし、それはもう文句のつけどころのない令嬢でした。
たいした時を待たず、ソランジュ様は社交界の人気者となりました。
一行はそのまま上階への直通魔導リフトに乗り込みます。特別な魔力鍵がなければ作動しないのは安全上の措置であります。上は高級官僚や大臣、そして殿下の執務室がある特別な区画だからです。
いまの私の鍵は、もう消されているでしょう。
あの人が王都からいなくなれば、私とアルフォンス様は元の鞘に収まり幸せで平穏な生活が戻るのです。つい、そんなふうに思ってしまいました。
しかしそれはありません。共の者たちは皆強い魔力を持ち、そしてそれを隠しています。万が一にも不測の事態が起こらないよう強力な護衛を帯同させているのです。
本当に西の浸食が静かに始まっているのかもしれません。強力な戦闘集団が政務庁舎の特別区画に出入りしているのですから。
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