氷炎の皇剣伝(ブレイド・ストーリー)

Orca Masa

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第2章 《煌帝剣戟》煌華学園予選 編

第24話 慢心と逆転

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――煌華学園 第1アリーナ――


「行くぞヒューム・スクィル!」

「砕け散れ! 坂宮涼也!」

 俺たちは同時に目の前の天敵――あるいは獲物へと駆け出した。

『両選手同時に駆け出した! ここからは剣術勝負か!?

 あ、会場の皆さまにご連絡です。
 現在フィールドを含むアリーナ全体の室温が12度前後となっております。体調の優れない方がいましたら、遠慮なくお近くの大会役員に知らせるか直接医務室へお越しください。』

 ヒュームのリクシードが、まるで獲物に噛み付こうとするヘビのように、容赦なく俺の隙を突こうと襲ってくる。

 が、防戦一方だとそのうち体勢を崩されかねない。となれば俺も攻めるしかない!

「そこだ!」

 俺に避けられたリクシードが完全に振り下ろされたのを瞬時に確認すると、ヒュームの左肩から斜めに斬り捨てようと、ミステインを振り上げ―――

「隙が大きいね。その程度の技量でぼくに勝とうと?」

 ヒュームは俺のミステインを持っていた両腕を掴んで動きを止めると、腹に挙骨を食らわせてきた。

「―――っ!」

 ヒュームの鋭い一撃が内臓にダメージを与えたのを感じた。けど怯んでいる暇はない、すかさず剣から手を離す。

「なに!?」

 ヒュームは頭上から落下してくるミステインの刃を避けようと俺の腕を離した。これを待っていた!

 身体を捻り、脇に強烈な蹴りを入れるとヒュームの体勢を崩した。ミステインをキャッチすると右肩を目がけて斬りつけた。

「ぐあぁぁっ!」

 ヒュームの顔が苦痛で歪む。筋肉をいくつか切断したから、多少は動きが鈍るはずだ。このまま畳み掛けて―――

「そんなことじゃ、ぼくは倒せないよ?」

 ヒュームのリクシードが頭上から振り下ろされてきた。とっさに飛び退いたが、太ももに浅く傷がついてしまった。

「一体何が―――」

 そこまで言いかけたが、ヒュームの姿を見て言葉を失った。

『これはなんということでしょうか!

 右肩を負傷したヒューム選手ですが、氷で代わりの腕を生やしている!』

 なるほどな。動かない右腕を胴に密着させた状態で凍結、代わりに氷で右腕を生成したのか。

「そろそろぼくも本気を出すべきかな?」

 そう言うと、ヒュームはフィールドにリクシードを突き立てた。

 ……なんだ? とてつもなく嫌な感じがする……。

「〈閉ざされし神話の氷獄ニブルヘイム〉!」

 ヒュームからこれまでとは違う凍気が、吹雪とともにフィールドに吹き荒れる。これではまともに目も開けられない……!

『ついに出たー! ヒューム選手の真技、〈閉ざされし神話の氷獄ニブルヘイム〉!

 凄まじい凍気でアリーナの室温がさらに下がっていく!』

『す、少しは観客のことも考えて欲しいですね……。

 にしてもとてつもない凍気ですね。身体の芯まで冷え切りそうです……。』

 いや、もはやこれはただの凍気ではない。呪われていると言ってもいい……!

「……なるほど、少しは察しが良いようだね。

 この〈閉ざされし神話の氷獄ニブルヘイム〉はただの吹雪ではない。
 命ある全ての生物を死へといざなう、神話に記されし氷獄を擬似構築したのさ。

 ここでは炎すら数秒で消えてしまう。抵抗するだけ体力を削られて、そのうち死ぬよ?」

 確実に俺を殺す気だな……。死ぬ前に強制的にシステムで試合は中断されるだろうけど、逆に言えばそれが発動する危険性があるという事が予想できる。

「凍りつく前に終わらせるさ!」

 とは言ってもこの状況は厄介だな。風邪のせいで飛ぶことは難しそうだ。何とかしないと……。

「なにも仕掛けて来ないのかい?

 ならぼくから行かせてもらうよ!」

 次の瞬間、ヒュームの姿が消えた。どこに行った!?

 と、その時―――

「ぐああぁっ!?」

 背中が斬りつけられた。振り返りつつ剣を振るが手応えは皆無、どうなっているんだ!?

 考える暇もなく左肩、右足、右脇、背中、左手首―――全身に創傷が刻まれていく。その度に全身を鋭い痛みが電気のように走り抜けていく。

『ヒューム選手の猛攻に坂宮選手は手も足も出ないようだ!

 このまま試合は―――っと! ここで坂宮選手膝をついた!』

 ダメだ、姿が見えない敵に太刀打ちなんてできるわけない……。身体も寒さで言うことを聞かなくなってきたし……もうここで終わりか……。

「情けないね坂宮涼也。さっきまでの威勢はどこに行ったんだか。」

 そう言いながらヒュームが再び姿を現した。きっと俺にはもう抵抗する余力は残って無い、確実に勝てると考えているのだろう。完全に舐めてやがる……。

 ……いや、待てよ? もしかして―――

「能力戦ではぼくに劣ると判断して、氷の打ち合いをしなかったのは賢明な判断だね。

 でもその考えの上で挑んだ剣術でも勝つことができなかった。

 ははっ! なんとも哀れな状況だね。」

 ゆっくり俺の前に来ると、ヒュームは剣を構えた。この構えは……試合開始と同時にあいつが使った真技、〈氷結せし理想郷フローズン・ユートピア〉の構え!

「せめてもの慈悲として、このままキミを放置してもぼくの勝利になるだろうけど、あえてトドメを刺してあげるよ。

 キミはそのまま自分の不甲斐なさを恥じて生きていくといいさ。
 じゃあね、坂宮涼也。〈氷結せし―――」

 ―――来た! 油断している今ならいける!

「〈白銀の巨塔アブソリュート・ゼロ〉!」

 俺はヒュームよりも先に真技を発動させ、氷の塔に閉じ込めた。ミステインの間合いに入り、隙を見せるのを待っていたのだ。

『キター! ここで一方的に攻撃を受けていた坂宮選手が反撃に出たぁー!』

『ヒューム選手が巨塔に閉じ込められて集中が切れたからでしょうか、どうやらフィールド内の吹雪も止んだようですね。』

 ヒュームは巨塔を砕いて脱出してきたが、もう遅い。ここからは俺の狩りだ。

 素早く翼を生成し飛び上がると、カレンさんとの試合でも見せた氷の柱をフィールドのあちこちに出現させる。

「これなら視界も悪くなって思い通りの攻撃ができないだろう?

 今までの借りだ、まとめて返してやるさ!」

 柱の間を高速で飛び回り、感知される前にミステインで斬撃を加えていく。ヒュームからの防御を受けないことから、どうやら俺の動きは捉えられていないようだ。

『形勢逆転! 坂宮選手の猛攻だぁー!

 ヒューム選手、抵抗が全くできないようだ!』

「ぼくが……このぼくが……坂宮涼也なんかに……っ!」

「俺の氷は空気を含んでいて、お前の氷に比べて濁った色をしている上に脆いかもしれない。

 けどな、そんな氷でも使いこなすことができれば強くなるんだよ!

 それに……そんな氷でも認めてくれる人が1人でもいれば、俺はそれで十分だってことに気づいた。気付かせてくれたのはお前だ。」

 あの夏の日、木下が妙に攻撃的だったのにはヒュームが関わっていると見て間違いはないだろう。

 だとしたら、ここは1つ言っておこう。感謝の言葉を。

「ありがとうございました、ヒューム・スクィルさん。

 貫け、ゲイ・ボルグ!」

 ホバリングし氷の槍を投擲する。槍はさらに無数の槍に分裂し、ヒュームに襲いかかる。

「くそぉぉぉ!」

 自慢の氷でなんとか防いでいるようだが、その氷にもヒビが入り、やがて砕け散った。

「〈閃々たる銀世界アイス・エイジ〉!」

 空中から突撃しながら、今日3度目の真技を発動させた。冷気は瞬く間に体力を削られ、ボロボロのヒュームに襲いかかり……―――

『試合終了!

 勝者、《銀氷の剣士》こと坂宮涼也選手!

 最後の最後で逆転勝利を掴んだ坂宮選手は第4ブロック優勝の名誉と共に、《煌帝剣戟ブレイド・ダンス》の出場権を得ることとなります!』

 ヒュームの抱いた、俺よりも強いという慢心が彼の敗北に繋がったのだろう。

 それが例えささいな事だとしても、本人は侮ってはいけない。

 蟻の穴から堤も崩れるとは、きっとこのことを言うのだろう。
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