写りたがりの幽霊なんて、写真部員の敵でしかない!

ものうちしのぎ

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第8話 これってデート?

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 待ち合わせの時間より1時間も早く、駅に着いてしまった……。

 何度か交換日記をやりとりしているうちに、真也さんの買い物に付き合うことになった。
 銀塩カメラを買いたいから、私にアドバイスして欲しいそうだ。

 学校の外で真也さんと会うのは、今日が初めて。
 男の人とデートするのも人生初。

 待て……これはデートなのか?
 ふつう、デートで中古カメラ屋さんに行くだろうか……いや、行かないな。
 とすると、今日は単なる買い物——
 
 ユウに相談したいところだが、いくら田舎町とはいえ、駅前にはそれなりに人通りがある。
 CIAに捕まることを恐れるユウは、私以外の人間がいるところには出てきてくれない。

 真也さんが現れたら、なんて挨拶しよう……。
  『待った?』
  『いえ全然、私も今来たところです』
 みたいな定番のやりとりがあるんだろうか?

 脳内で会話やら行動やらのシミュレーションをしているうちに、あっという間に時間が過ぎてしまう。
 ふと気づけば、待ち合わせの時間を5分ほど過ぎていた。

 真也さんはまだ来ない——



 何かトラブルでもあったのだろうか?
 約束の日を間違えてはいないだろうか?
 本当に真也さんは来てくれるのか?
 
 どんどん不安な気持ちが膨らんでゆく。
 
 いつもは思わないが、今はスマホが欲しいと切実に思う。
 真也さんの電話番号はメモしてあるので、スマホがあれば連絡が取れるのに……。

 ん? ちょっと待って……ここは駅なんだから、公衆電話があるはず。
 広くもない構内をウロウロすると――

 あったあった! ありましたよ!
 ……公衆電話の置いてあった〈跡〉が。

 え~ん

 なぜだ……なぜ撤去した……。
 いくら儲からないからって、公衆電話が必要な人もいるんですよ!?
 トボトボと待ち合わせの場所に戻る。

「美里、遅刻だよ」
「あ……し、真也さん」
「オレもちょっと遅れたけど、美里はオレより後から来たからセーフだよね」
「え……いやあの……わ、私はちゃんと早めに来て――」

 急に恥ずかしくなってきた。
 待ち合わせの時間より1時間も前に来て、勝手にやきもきして……挙げ句の果てに公衆電話を探してウロウロしてたなんて……説明するのもばかばかしい。

「その……間違えて北口のほうに行っちゃって……」
「そうなの? まぁ、美里ならそういうことありそう」
「えぇ……私のことそんな風に見てたんですか」
「普段からぼ~っとしてること多いよね」
「そうかなぁ……自分ではけっこうしっかり者のつもりなんですけど」
「え、それって冗談?」
「本気ですよ」
「ははっ、そういうことにしておこうか」
「もうっ……」
「そういえば、美里の私服姿って初めて見たけど、やっぱ可愛いな」
「か、かわ……いい、ですか?」
「うん、美里らしくて可愛いと思う」
「そんなこと——」

 その日の私の格好といえば……上はダボっとしたパーカー、下はショートパンツにスニーカー。肩掛けのカメラバッグに、首からは一眼レフをぶら下げているという……色気もなにもない格好。

 真也さんと会うんだから、私だって可愛い服を着てお洒落したいと思っている。
 思ってはいるが、先立つものがない。
 伯父さんからもらうお小遣いは、ほとんど全てをカメラ関係につぎ込んでしまうので、服なんて滅多に買うことがない。
 それでも、なるべく新しくて穴を補修した跡とかがない服を選んだら、この格好になってしまった。

 真也さんは、白のシャツに細身の黒のパンツ、革靴といったシンプルな服装。
 仕立てがいいから、たぶんお値段もそれなりにするんだと思う。
 真也さんなら、たとえ安い服でもサラッと着こなしちゃうんだろうな……。

 翻って、自分のちんちくりんな体型とダサいファッションときたら……真也さんとの格差をひしひしと感じる。
 私なんかが、真也さんと並んで歩いたりして良いんだろうか?

 うつむいたまま悶々としていると、真也さんがぱっと私の手を握った。

「行こうよ」
「……は、はい」

 いきなりの手繋ぎ……私の想像では、それはもっと先の段階だと思ってたのに。
 真也さんのほっそりとした長い指と、私の短い指が絡み合う。
 これって――

 恋人繋ぎ!


   ◇   ◇   ◇


 電車に乗って三駅。
 目的地である中古カメラ屋さん――〈カメラの隼〉に到着。

 若城さんのお店でもよさそうなものだが、真也さんを連れて行くのが恥ずかしい。
 それと、品揃えの問題もある。
 ワカギカメラでは、カメラの在庫が少ないのだ。

 静かなブームとかで、この頃は安い銀塩カメラも発売されている。
 そういった類のものなら新品で買えるし、値段も安い。
 けど真也さんは、

「美里と同じようなカメラがいい」

 というので、必然的に中古カメラを選ぶことになる。
 〈カメラの隼〉は、中古カメラをたくさん扱っているお店だ。
 真也さんの気に入ったカメラが見つかるといいけど――

 駅前の商店街にある店舗は、間口は狭いけど奥行きが深い。
 いわゆる鰻の寝床なつくりだ。

 店の奥に店主のおじさんが座っている。
 おじさんの手元には、分解中のカメラ。
 じろりと私たちを一瞥し、

「いらっしゃい……」

 ぼそりとつぶやいて、再び手元に注意を戻す。

 店内には、所狭しとカメラが並べられている。
 デジタルカメラも少しあるが、ほとんどはフィルム式のカメラだ。
 カメラだけでも千台はありそうだし、交換レンズやモータードライブといったアクセサリの品揃えも豊富――
 私のような人間にとっては宝の山だ。

 こんなに在庫を抱えて、お店がやっていけるのか心配になる。
 ここには何度か来たことがあるが、お客さんがいるのを見たことがない。

「すごいな……これぜんぶカメラか……」

 真也さんも、圧倒されているみたい。
 真也さんを驚かせることができて、私は少し得意になった。
 まるで私の手柄のよう。
 すごいのはカメラ屋さんなのに。

「一眼レフがいいんですよね。メーカーの希望とかありますか」
「オレは全然わからないから、いくつか良さそうなのを選んでよ」
「はい!」

 私は張り切った。
 持てる限りの知識を総動員して、真也さんにあれこれとカメラのことを説明する。
 早口でカメラのうんちくをまくし立てる私の姿は、我ながらオタク丸出し。
 真也さんもたぶん、私が語る内容のほとんどを理解していないと思うし、私もそういう空気を感じているのだが、口の方が止まらない。

 しらけた空気になっているなら説明をやめれば良さそうなものだが、それが出来ない。
 逆に早口を加速させて、おしまいまで説明してしまおうとする始末。
 これはもう、オタクのさがなのだろう。

 黙って耳を傾けていたであろう店主のおじさんも、呆れていたに違いない。
 それでも、真也さんは私の説明にいちいち相づちを打ってくれた。

「――というわけで、真也さんにはこの2台をお勧めしたいんです」

 私が選んだのは、ニコンのF3とオリンパスのOM-2N。
 値段も真也さんに言われた予算内におさまる。

「この2つはどう違うの?」

「ニコンは交換レンズが豊富ですね。あと、プロ用なので頑丈。赤ラインが、かっこいい!」
「オリンパスは?」
「小型軽量、それにTTLダイレクト測光」
「小型軽量はわかるけど、なに……ダイレクト?」
「かんたんに言うと、シャッターが開いている間も露出を測る機構です」
「ははぁ……?」
「ストロボ撮影とか長時間露光撮影の時にオート露出で撮影できるんですよ! まぁ、F3もストロボ撮影ではTTL自動調光できるんですけど」
「へぇ?」
「どちらも良いカメラなんで、触ってみてビビッと来た方を選ぶといいと思います」

 店主のおじさんにお願いして、ショーケースからカメラを出してもらう。
 どちらも標準レンズ――明るめな50mmの単焦点レンズが付いている。

 まずはオリンパスから――

「重っ……これで、小型軽量?」
「当時としては、です」
「ぎっしりと詰まってる感がすごいな……」
「ファインダーを覗いてみて下さい」
「こうか……ボケボケだけど」
「レンズに付いてるフォーカスリングを回して、ピントを合わせるんです」
「なるほど……おっ、はっきりしてきた」
「ピントが合ったら、シャッターを」

 パシャッ

「布幕シャッターの音が気持ちいいでしょ」
「音? もう一回聞いて……あれ、ボタン押せないぞ」
「一枚撮ったら、親指のとこにあるレバーでフィルムを巻き上げるんです」
「これか」

 ギリリッ
 パシャッ

「なるほど……これは大変だ。写真一枚撮るのに、こんなに手間がかかるなんて」
「この後、現像とプリントをしなくちゃいけません」
「じゃ、撮ってすぐには見れない?」
「はい」
「失敗したらどうするの?」
「どうしようもありません」
「海外旅行とか結婚式とか……二度と撮れない場面だってあるじゃない」
「失敗しないように頑張るんです」
「へぇ……」
「ニコンの方も試してみます?」
「うん」

 ニコンのF3。
 このカメラが現役バリバリの時代なら、私なんかとても手が出なかっただろう高級機。
 いまだって、中古なのにけっこう高い。
 真也さん、お金持ってるなぁ……。

「重っ! さっきより重くてデカイ」
「その代わり頑丈で、ちょっとやそっとぶつけたくらいじゃ壊れません」
「え~と……まずはフィルムを巻き上げて……おっ! さっきと感触が違う」
「なめらかですよね」
「だね。シャッターは——」

 カシャ!

「音もけっこう違うな……」
「F3はチタン製のシャッター幕ですからね。OMよりも硬質な音だと思います」
「へぇ……全体的にカッチリとした感じがする……」

 真也さんは、代わる代わる2台のカメラを触っていたが、やがて——

「決めたよ。こっちにする」

 手にしたのは、OM-2N。

「美里はビビッときた方を選べっていうけど、正直よくわからないしさ。美里と一緒の方がいいと思って」
「私のはOM-1で違う機種なんですけど」
「見た目がほとんど同じだし、兄弟みたいなもんだろ?」
「まぁ、そうですけど」
「ならいいよ。おじさん、このカメラ買うから」

 支払いはクレジットカード。

「高校生でもカード持てるんですか?」
「原則ダメみたいだけど、オヤジが何とかするみたい」
「お父さん、何者なんですか?」
「……裏社会のボス」
「ええっ!?」
「うそうそ、ボスはボスだけど、中小企業の社長だよ」
「はえぇ……社長さん」
「美里のオヤジさんは?」
「うちは両親ともいなくて……あっ、でも伯父さん夫婦が面倒みてくれてるから――」
「……そっか」

 気まずい空気。

 ゴホン!

 店主のおじさんが沈黙を破ってくれた。
 ストラップとフィルムを1本、おまけに付けてくれるという。

「おじさん、ありがとう」
「……そのカメラ、ちょっと見せてくれないか」

 首から提げた私のOM-1を指差す。
 おじさんにカメラを渡すと、手にとってためつすがめつ――

「あの……何か」
「いやなに……ちょっと気になったもんだから。大切に使われて、カメラも幸せだろう」

 何が気になったんだろう……。
 なにせ、幽霊が写ってしまうカメラだ。
 長年、たくさんのカメラを扱ってきた専門家であるおじさんには、なにか引っかかるところがあったのかもしれない。
 詳しく聞いてみたいが、いまは真也さんもいることだし、おとなしく退店する。
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