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まつ毛・長ナス・ティーカップ

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 その人の顔を見るなり長ナスに似ているなと失礼なことを思って、すぐに振り払った。振り払ってから失礼になるのだろうかと少しだけ考える。顔が細い、髪の毛が少なくててっぺんに集中している。細い目と筋の通った鼻。そこから下は特徴的と言えるくらいには長くそった顎。やっぱり長ナスにしか見えない。調子が悪いのか肌の色も暗めなのがよりナス感を出している。

「それで。今日はどうしたのですか?」

 そのナスから出てきた声をもって我に返る。

「先日のことについて謝罪をしたいと思っておりまして」

 上司である隣にいた男性がようやっと話を切り出した。ナスに気圧されていて話ができなかったのだ。

 そもそも上司のミスなのに、どうして私までついてこなくちゃならなかったのか疑問でならない。君の社会勉強のためだと言われたけれどやれることもなく一緒に頭を下げ続けるだけ。できれば勉強したくないことだ。

「その件はもう終わったのだからいいだろう。頭を上げてくれ。そういつまでも頭を下げられたんじゃ、いかにも私が悪者みたいじゃないか」
「は、はいありがとうござまいます。では、許してくださると言う事で……」
「だからとっくに許しているんだよ。もうなかったことにしましょう。そう言ってるじゃないか。なんでわざわざやってくるかね」
「それは。次のお仕事の話で……」
「許してやったのに。そう蒸し返さないでくれよ。君たちのことは許した。それでもう終わりだってそういうことだろ?」

 そうナスはティーカップを口へと運ぶ。何を飲んでいるのだろう。紅茶かな。

 それにしても。仕事を切られてしまうからどうにかつなぐための謝罪なんて。ほんと自分の成績のためでしかない。私は他のルート開拓も順調だって言うのに。

「そこをなんとかお願いします」

 お願いしますに合わせて頭をまた下げる。ナスなんかのご機嫌取りをしなくても仕事はいくらでもある。しがみついてみっともない。それはナスだってずっと言っているじゃないか。

「なんともならないんだよ」

 ナスから生えたまつげをパチクリしながらそう言われる。

「そこをなんとか」
「君もしつこいねぇ」

 しつこいよなぁ。それは同意見だ。

「どうすれば新しい仕事をいただけますでしょうか」

 正直でよろしい。とはならない。これが社会勉強か。まあ、確かに社会勉強だよな。

「えと。ナ、社長。よろしいでしょうか」

 仕方がない。少しは役に立つように頑張るか。ナス相手だちゃんと炒められるように頑張ることにした。
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