30 / 45
第26話 ひとつの答えと
しおりを挟む
「はっきりと言うのですね。珍しいと思いますよ。そこまではっきりと言えるアンドロイドは。最初からそう言う発想に至らないように作られているハズですから。あなたは私たちが想定した以上にいろいろな出会いを積み重ねてきたみたいです。それはきっと良いことなのでしょう。弟にとっては」
「弟ってお医者さん?」
「ええ。そうです。彼が今やっていることは私の意志を継いでくれている。実のところ彼自身の願いとは程遠いところにあるのですが。今のところ方向を見ていると言ってもいいでしょう。少なくとも特別な因子が入り込まない限りはこのリセットを繰り返す。それが一番なのです」
「お姫様はそれでいいの?」
「ええ。もちろんです。それが創造主の願いですから」
少女は夢を思い出す。それはきっとお姫様を造った人間の夢だ。その人は確かに後悔していた。その後悔の念に押しつぶされなくて、管理者を造った意味を与えた。それは本当に彼の本心だったのだろうか。そうだとして、それを目の前のお姫様に伝える必要があるのだろうか。
「それが創造主さんのわがままでしかなくても?」
「ふふふ。おかしなことを言うのですね。まるで創造主を知っているかのような口ぶりです。そうですね……そうだとしても、創造主は私たちに生きる意味を与えてくれた方です。その意味を失ってしまっては私たちはいらない存在になってしまいます。それはきっと悲しいと言う感情なのでしょう。私はそれを抱きたくはありませんし、この世界を守るためならば何でもしてきました。それが例え創造主のわがままだったとしても、変わることはないでしょう」
「そう。塔にいたふたりと一緒。でも、私はその悲しいと言う感情をおそらく知っている」
話していてようやく理解できた。探偵さんが知っている探偵さんじゃなくなったとき、喪失感を埋めるように新しい探偵さんにすがりつき、それもまた失ったときに感じたものはきっとそういう感情なのだ。それはなにも探偵さんだけじゃない。お姉さんやほかにも街で知り合ったたくさんのアンドロイドたちがいた。仲良くなれるのもいれば、敵対したのもいる。でも、どれもみなリセットで区別なく元の状態に戻ってしまった。
まるで、これまでのことがすべてなかったかのように。
それが悲しいと言う感情の他ならない。今ならそう思える。
「そうですか。あなたは本当に特別な存在なのかもしれません。それこそ私なんかよりも。どちらかと言えば弟に近しい物も感じます。もとは同一の型から生まれた存在なので区別するのもおかしな話なのですが。どうしてなのでしょうね。同一の型から同じように作った個体はすべて違うのです。それが意味することをあなたはどう思いますか?」
突然の質問に戸惑いを覚えつつも少女は必至のこれまでのことを思い返してみる。戦場にいた仲間たちに大きな違いは見受けられなかった。違いが出るような生き方をしていなかったからかもしれない。それ以外だと、目の前のお姫様と塔のお姫様。そして自分。お姫様と自分は間違いなく違う。それはきっと見てきたものがあまりにも違うからだ。でも、本当にそれだけだろうか。
目の前のお姫様と塔のお姫様の違いはよく分からない。同じと言えば同じだ。それは少女と戦場の仲間たちの関係に似ている気がした。
「同じよ。違うように見えてもみんな同じ。同一の型から作られているのでしょう? 違うのは過ごした時間の差だけ。私たちはアンドロイドだから」
「やっぱりあなたは弟によく似ています。でも、あなたは知らないでしょうが、弟も同じ型から作られた存在なのですよ。それでも同じだと思いますか?」
「えっ」
それは思いもしなかったことだ。男性型と女性型。てっきり違うものだと思っていたのに。
「少しパーツを変えてみただけ。創造主はそう言っていました。私とまったく同じ存在を造るのは気が引けたけれど、誰かを置いておかないと心配でしょうがなかったのでしょう。それだけの差なのに。私と弟は随分と違う考えをもって、違う方向を見ている気がします。それともうひとつ。塔にいる影武者の境遇はあなたとよく似ています。私のスペアとして作られ、定期的に寿命がくるコアの入れ替えのためにセントラルへと呼ばれる存在。つまりは影武者もあなたと同じで、探偵さんとセントラルへと旅した個体でもあるのです。でもあなたとはずいぶん違うように私は思います。それでもあなたは同じだと思いますか?」
塔のお姫様が私と一緒? それも探偵さんも一緒だった? どういうことだ。
「分からないのですよ。私もあなたも。それこそこの世界で動いているすべてのアンドロイドもです。だからこそ、この世界を変えるのは早計だと私は思っているのです。あなたの悲しいと言う感情ひとつで、変えてしまうほどこの世界は単純ではないのですよ」
少女が不満に思っていることもすべて見透かされたうえでとてもじゃないが考えが及んでいないところから否定された。
「……そうかも」
「少しだけでもいいので気に留めておいてください。弟はこの先のエレベーターに乗れば会いに行けます。何はともあれそこで横になっている探偵さんを治したいのでしょう? 行ってください」
「どうして、私の話に付き合ってくれた上にそんなことも教えてくれるの?」
「ふふ。ずっと暇だったので会いに来てくれたことがうれしかったのですよ。それに探偵さんとあなたがセントラルへたどり着いたことにはきっと意味があるのです。聞いていると思いますしが、セントラルへとたどり着ける個体は稀なのです。そんな希少なあなたに優しくしない理由はありませんよ」
お姫様がにっこりと笑った。それを見て少女は自分がとてもちっぽけな存在に思えてならなかった。
「弟ってお医者さん?」
「ええ。そうです。彼が今やっていることは私の意志を継いでくれている。実のところ彼自身の願いとは程遠いところにあるのですが。今のところ方向を見ていると言ってもいいでしょう。少なくとも特別な因子が入り込まない限りはこのリセットを繰り返す。それが一番なのです」
「お姫様はそれでいいの?」
「ええ。もちろんです。それが創造主の願いですから」
少女は夢を思い出す。それはきっとお姫様を造った人間の夢だ。その人は確かに後悔していた。その後悔の念に押しつぶされなくて、管理者を造った意味を与えた。それは本当に彼の本心だったのだろうか。そうだとして、それを目の前のお姫様に伝える必要があるのだろうか。
「それが創造主さんのわがままでしかなくても?」
「ふふふ。おかしなことを言うのですね。まるで創造主を知っているかのような口ぶりです。そうですね……そうだとしても、創造主は私たちに生きる意味を与えてくれた方です。その意味を失ってしまっては私たちはいらない存在になってしまいます。それはきっと悲しいと言う感情なのでしょう。私はそれを抱きたくはありませんし、この世界を守るためならば何でもしてきました。それが例え創造主のわがままだったとしても、変わることはないでしょう」
「そう。塔にいたふたりと一緒。でも、私はその悲しいと言う感情をおそらく知っている」
話していてようやく理解できた。探偵さんが知っている探偵さんじゃなくなったとき、喪失感を埋めるように新しい探偵さんにすがりつき、それもまた失ったときに感じたものはきっとそういう感情なのだ。それはなにも探偵さんだけじゃない。お姉さんやほかにも街で知り合ったたくさんのアンドロイドたちがいた。仲良くなれるのもいれば、敵対したのもいる。でも、どれもみなリセットで区別なく元の状態に戻ってしまった。
まるで、これまでのことがすべてなかったかのように。
それが悲しいと言う感情の他ならない。今ならそう思える。
「そうですか。あなたは本当に特別な存在なのかもしれません。それこそ私なんかよりも。どちらかと言えば弟に近しい物も感じます。もとは同一の型から生まれた存在なので区別するのもおかしな話なのですが。どうしてなのでしょうね。同一の型から同じように作った個体はすべて違うのです。それが意味することをあなたはどう思いますか?」
突然の質問に戸惑いを覚えつつも少女は必至のこれまでのことを思い返してみる。戦場にいた仲間たちに大きな違いは見受けられなかった。違いが出るような生き方をしていなかったからかもしれない。それ以外だと、目の前のお姫様と塔のお姫様。そして自分。お姫様と自分は間違いなく違う。それはきっと見てきたものがあまりにも違うからだ。でも、本当にそれだけだろうか。
目の前のお姫様と塔のお姫様の違いはよく分からない。同じと言えば同じだ。それは少女と戦場の仲間たちの関係に似ている気がした。
「同じよ。違うように見えてもみんな同じ。同一の型から作られているのでしょう? 違うのは過ごした時間の差だけ。私たちはアンドロイドだから」
「やっぱりあなたは弟によく似ています。でも、あなたは知らないでしょうが、弟も同じ型から作られた存在なのですよ。それでも同じだと思いますか?」
「えっ」
それは思いもしなかったことだ。男性型と女性型。てっきり違うものだと思っていたのに。
「少しパーツを変えてみただけ。創造主はそう言っていました。私とまったく同じ存在を造るのは気が引けたけれど、誰かを置いておかないと心配でしょうがなかったのでしょう。それだけの差なのに。私と弟は随分と違う考えをもって、違う方向を見ている気がします。それともうひとつ。塔にいる影武者の境遇はあなたとよく似ています。私のスペアとして作られ、定期的に寿命がくるコアの入れ替えのためにセントラルへと呼ばれる存在。つまりは影武者もあなたと同じで、探偵さんとセントラルへと旅した個体でもあるのです。でもあなたとはずいぶん違うように私は思います。それでもあなたは同じだと思いますか?」
塔のお姫様が私と一緒? それも探偵さんも一緒だった? どういうことだ。
「分からないのですよ。私もあなたも。それこそこの世界で動いているすべてのアンドロイドもです。だからこそ、この世界を変えるのは早計だと私は思っているのです。あなたの悲しいと言う感情ひとつで、変えてしまうほどこの世界は単純ではないのですよ」
少女が不満に思っていることもすべて見透かされたうえでとてもじゃないが考えが及んでいないところから否定された。
「……そうかも」
「少しだけでもいいので気に留めておいてください。弟はこの先のエレベーターに乗れば会いに行けます。何はともあれそこで横になっている探偵さんを治したいのでしょう? 行ってください」
「どうして、私の話に付き合ってくれた上にそんなことも教えてくれるの?」
「ふふ。ずっと暇だったので会いに来てくれたことがうれしかったのですよ。それに探偵さんとあなたがセントラルへたどり着いたことにはきっと意味があるのです。聞いていると思いますしが、セントラルへとたどり着ける個体は稀なのです。そんな希少なあなたに優しくしない理由はありませんよ」
お姫様がにっこりと笑った。それを見て少女は自分がとてもちっぽけな存在に思えてならなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる