機械少女は人間の夢をみるか? 選択編

霜月かつろう

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第26話 ひとつの答えと

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「はっきりと言うのですね。珍しいと思いますよ。そこまではっきりと言えるアンドロイドは。最初からそう言う発想に至らないように作られているハズですから。あなたは私たちが想定した以上にいろいろな出会いを積み重ねてきたみたいです。それはきっと良いことなのでしょう。弟にとっては」
「弟ってお医者さん?」
「ええ。そうです。彼が今やっていることは私の意志を継いでくれている。実のところ彼自身の願いとは程遠いところにあるのですが。今のところ方向を見ていると言ってもいいでしょう。少なくとも特別な因子が入り込まない限りはこのリセットを繰り返す。それが一番なのです」
「お姫様はそれでいいの?」
「ええ。もちろんです。それが創造主の願いですから」

 少女は夢を思い出す。それはきっとお姫様を造った人間の夢だ。その人は確かに後悔していた。その後悔の念に押しつぶされなくて、管理者を造った意味を与えた。それは本当に彼の本心だったのだろうか。そうだとして、それを目の前のお姫様に伝える必要があるのだろうか。

「それが創造主さんのわがままでしかなくても?」
「ふふふ。おかしなことを言うのですね。まるで創造主を知っているかのような口ぶりです。そうですね……そうだとしても、創造主は私たちに生きる意味を与えてくれた方です。その意味を失ってしまっては私たちはいらない存在になってしまいます。それはきっと悲しいと言う感情なのでしょう。私はそれを抱きたくはありませんし、この世界を守るためならば何でもしてきました。それが例え創造主のわがままだったとしても、変わることはないでしょう」
「そう。塔にいたふたりと一緒。でも、私はその悲しいと言う感情をおそらく知っている」

 話していてようやく理解できた。探偵さんが知っている探偵さんじゃなくなったとき、喪失感を埋めるように新しい探偵さんにすがりつき、それもまた失ったときに感じたものはきっとそういう感情なのだ。それはなにも探偵さんだけじゃない。お姉さんやほかにも街で知り合ったたくさんのアンドロイドたちがいた。仲良くなれるのもいれば、敵対したのもいる。でも、どれもみなリセットで区別なく元の状態に戻ってしまった。

 まるで、これまでのことがすべてなかったかのように。

 それが悲しいと言う感情の他ならない。今ならそう思える。

「そうですか。あなたは本当に特別な存在なのかもしれません。それこそ私なんかよりも。どちらかと言えば弟に近しい物も感じます。もとは同一の型から生まれた存在なので区別するのもおかしな話なのですが。どうしてなのでしょうね。同一の型から同じように作った個体はすべて違うのです。それが意味することをあなたはどう思いますか?」

 突然の質問に戸惑いを覚えつつも少女は必至のこれまでのことを思い返してみる。戦場にいた仲間たちに大きな違いは見受けられなかった。違いが出るような生き方をしていなかったからかもしれない。それ以外だと、目の前のお姫様と塔のお姫様。そして自分。お姫様と自分は間違いなく違う。それはきっと見てきたものがあまりにも違うからだ。でも、本当にそれだけだろうか。

 目の前のお姫様と塔のお姫様の違いはよく分からない。同じと言えば同じだ。それは少女と戦場の仲間たちの関係に似ている気がした。

「同じよ。違うように見えてもみんな同じ。同一の型から作られているのでしょう? 違うのは過ごした時間の差だけ。私たちはアンドロイドだから」
「やっぱりあなたは弟によく似ています。でも、あなたは知らないでしょうが、弟も同じ型から作られた存在なのですよ。それでも同じだと思いますか?」
「えっ」

 それは思いもしなかったことだ。男性型と女性型。てっきり違うものだと思っていたのに。

「少しパーツを変えてみただけ。創造主はそう言っていました。私とまったく同じ存在を造るのは気が引けたけれど、誰かを置いておかないと心配でしょうがなかったのでしょう。それだけの差なのに。私と弟は随分と違う考えをもって、違う方向を見ている気がします。それともうひとつ。塔にいる影武者の境遇はあなたとよく似ています。私のスペアとして作られ、定期的に寿命がくるコアの入れ替えのためにセントラルへと呼ばれる存在。つまりは影武者もあなたと同じで、探偵さんとセントラルへと旅した個体でもあるのです。でもあなたとはずいぶん違うように私は思います。それでもあなたは同じだと思いますか?」

 塔のお姫様が私と一緒? それも探偵さんも一緒だった? どういうことだ。

「分からないのですよ。私もあなたも。それこそこの世界で動いているすべてのアンドロイドもです。だからこそ、この世界を変えるのは早計だと私は思っているのです。あなたの悲しいと言う感情ひとつで、変えてしまうほどこの世界は単純ではないのですよ」

 少女が不満に思っていることもすべて見透かされたうえでとてもじゃないが考えが及んでいないところから否定された。

「……そうかも」
「少しだけでもいいので気に留めておいてください。弟はこの先のエレベーターに乗れば会いに行けます。何はともあれそこで横になっている探偵さんを治したいのでしょう? 行ってください」
「どうして、私の話に付き合ってくれた上にそんなことも教えてくれるの?」
「ふふ。ずっと暇だったので会いに来てくれたことがうれしかったのですよ。それに探偵さんとあなたがセントラルへたどり着いたことにはきっと意味があるのです。聞いていると思いますしが、セントラルへとたどり着ける個体は稀なのです。そんな希少なあなたに優しくしない理由はありませんよ」

 お姫様がにっこりと笑った。それを見て少女は自分がとてもちっぽけな存在に思えてならなかった。
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