機械少女は人間の夢をみるか? 選択編

霜月かつろう

文字の大きさ
31 / 45

第27話 帰還

しおりを挟む
 お姫様がふたりいると紛らわしい。少女は少しだけ悩んだのだが、党であったお姫様をお姫様。ベッドの上のお姫様をホンモノと呼ぶことにした。

 ホンモノの言葉通り、エレベータはすぐに現れた。乗り込むにもゴンドラがいていないので呼ぶためのボタンを押す。しばらくすると鉄の扉で閉ざされたゴンドラが降りてくる。先に探偵さんを引きずり入れると少女は自分も乗り込み一番上部にあるボタンを押した。

 これがセントラルにそびえる塔だとしたらいつの間にかそんなところまで移動していたのだ。それも全てお医者さんの思惑通りに動いているように思える。それでも先に進まなくてはならない。そうでなければきっとお姫様とお医者さんはリセットのボタンをまた押すのだろう。そうしたら、またすべてがなかったことにされてしまう。

 やっぱり何度考えてもそれは間違っていると思うのだ。管理者たちはそれでいいのだろうが、それ以外のアンドロイドにとってその時間が意味がなものになってしまうと思うのだ。

 少女がそんなことを考えている間にエレベーターはてっぺんへとたどり着いたみたいだ。

「随分と楽しんだみたいだね。こんなに待たされるとは思わなかったよ」

 待ち構えていたのはお医者さんだ。

「久しぶり。さっそくで悪いんだけど。探偵さんを治してほしいかな。話は治しながらでも出来るでしょう?」

 お医者さんはエレベーターの中に転がったままの探偵さんに目をやるとため息を付いた。

「これまた随分と派手にやられたね。その探偵さんが傷つくのは基本的には想定外なんだけどね。キミと関わるとひどい目にあうことが多いみたいだ。まあいいだろう。それをどうにかしないとキミは話すらしてくれそうにない。ここじゃあ、何も出来ないからついてきてもらうよ。それもキミが持ってきてくれよ」

 お医者さんはエレベーターではなく部屋唯一の階段を下っていく。置いていかれないように少女はあとを追った。ワンフロア下にはモニターがたくさん並んだ部屋。写っている景色の九割は知らない場所。おそらく世界中をこれで監視しているのだ。

 ふたりはこれを見ながらリセットをするタイミングを図っているのだろう。言葉にするとそれだけだが、それは大変な作業に思える。記憶のリセットに加え位置もすべて元通り、壊れている者がいれば修理し、建物の修復すらも行っている。手駒となる黒服たちが大量にいるとしても、そう簡単にリセットできるものではないだろう。

「なんか余計なことを考えていないかい? 時間がかかって戻ってきたと思ったら随分と気が回るようになったじゃないか。やはり一度街へおろしてみるものだな。ほらついたぞ」

 お医者さんはモニターがある部屋を通り抜けて、道具がたくさんある部屋へと入っていた。そこの中心にはベッドが置いてあり、周囲には治すのに使う道具が大量に並べられている。それらが何に使われるのか理解できない。

「探偵さんはそこに寝かせればいいの?」

 お医者さんはこくりと頷いきながら必要なものをかき集めている。少女は探偵さんを放り投げるようにベッドへと寝かせる。

「乱暴なんだな」
「そう? 探偵さんだしこのくらいで良いと思う」
「キミにとって探偵さんがなんなのか気になってくるよ。仲がいいということなのだろう」

 そういいながらすでに作業は開始ししている。迷いもなく決められた動作をこなしていくだけに見える。けれど、爆発に巻き込まれた探偵さんはそんな簡単に治せるとも思えない。アンドロイドの構造を全て理解しているのだろう。

「それで。戻ってきたってことは協力してくれる気になったのかな」
「そんなわけないでしょう? より一層、協力する気が失せた」
「ははは。これは手厳しい。しかし、キミは戻ってきた。そのことが意味することはなんだろう?」
「こんなことは間違っていると伝えに来ただけ。やっぱりこんなのは生きているとは言えない」
「ああ。そうだとも。アンドロイドに生きているも死んでいるもない。それはキミも理解しているものだと思ったが? まだそんなことを言っているのかな」
「ええ。なんどだって言う。あなた達がやっていることは無意味としか思えない。創造主が何を望んでいたのかも理解しないで、行動し続けている」

 これまで歪んだことが無かったお医者さんの眉が動いた。

「創造主のことを知っているかのような口ぶりだな」
「知らない。でもこの世界で繰り返していることに意味があるようには思えない。そう思うだけ。みんなが積み重ねたものを簡単にリセットして、無いもない白紙同然の社会を積み重ねていく意味はあるの? そんなものないでしょう?」
「あるんだよ。そもそも意味は自分たちで作っていくものだ。そうも思わないかい?」
「その意味を作れるのはあなた達、管理者だけでしょ? 街のアンドロイド達はその機会すら与えられていない。まるで歯車の様に社会を維持していくだけ。彼らの中には何も蓄積されなければ変化もない。壊れるまで回り続け、自分が回っている意味も知らないまま。それが人間社会を再現しているとは思えない」
「キミは何を知っているのだろうね。まるで実際の人間を見たことがあるかのようだ」

 それは少女自身不思議に思っていたことだ。きっと夢のせいだ。その夢を見ることが出来たのかは分からない。どこかで創造主の記憶データが入り込んだのか。そんなことがありえる?

「まあいいさ。さあ。選択の時だ。探偵さんは治った。けれどまだ目覚めない。設定しなければいけないことが残っているからね」
「なに?」
「一番最初にキミがここへ訪れた時の探偵さんと今回キミが連れてきた探偵さん。どっちの状態で目覚めさせて欲しいのかキミが決めてくれ」

 お医者さんは意地悪な表情を浮かべていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...