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35 城へ
しおりを挟む墜落したワイバーンの死を、その場で目視して確認し、私はグレットに駆け寄った。
「グレット!」
「くっ・・・倒したのか?」
「はい。それより傷は!?」
「受け身を取ったから大丈夫・・・っ」
強がりを言うグレットに、少しだけ呆れてしまいました。受け身を取ったなんて言い訳、通用すると思っているのでしょうか?私の目は、人間よりもいいというのに。
「・・・命に別状はなさそうですが、手当は必要ですね。すぐに、救急車を呼びます。」
「いや、その前に・・・あのワイバーンをどうにかしないといけない。」
「もう、絶命しました。」
「違う。そうじゃない、あのワイバーンの傷口・・・俺の剣じゃ説明がつかないだろ。」
「・・・一応、剣で突き刺したような形になるようにしましたが・・・駄目ですか?」
「変なところでお前はテキトーだな・・・こんな剣で、ワイバーンの体を貫けるはずがないし、俺にもそんな力はない。」
今度は私が呆れられてしまいました。
「隠し通すことは難しいが、隠さなければ・・・」
「・・・私が魔物ということが知れれば、私はどうなるのでしょうか?」
「人間の国にも魔物はいる。人間と契約した魔物が。だが、多くは兵器として認識されていて、戦争に駆り出されている・・・」
「そう・・・ですよね。魔物が、人間の世界で生きていくには、どちらの世界でも変わりなく、人間の利点にならなければならないのですね。」
容姿の優れた魔物なら、観賞用に。
戦闘に優れた魔物なら、戦争の道具に。
移動に優れた魔物なら、乗り物に。
魔物が完全敗北した私の世界では、魔物はそういうものでした。ただ、人間のために生かされている、人間のためにしか生きることを許されない。
でも、生かされているだけましですね。中には、死をもってでしか人間の役に立てず、殺されるために誕生し、育てられる魔物もいるのですから。
「私は・・・」
「俺は、お前を戦争の道具になんてするつもりはない。」
グレットのそばにいられるのなら、私は道具でも何でもいいと思っています。ですが、そんな私の言葉を聞く前に、グレットは遮って道具にはしないと言ってくれました。
嬉しい言葉ですが、もうすでにワイバーンは倒してしまいました。私が魔物であることを明かさなければ、説明がつかないのです。そして、それは私を戦争の道具にするということ。
「俺だって、貴族の家に生まれたんだ。これくらいのこと、どうにかしてみせる。」
「・・・無理は、しないでください。」
私が一番つらいのは、グレットと離れることです。だから、そうならないように、無理だけはしないで欲しいと思います。
グレットは、救急車で運ばれましたがすぐに手当ては終わり、説明を求められてその足で城へと行きました。
この国を治めるのは王で、それを支えているのが貴族たちと優秀な平民、その下で平和で豊かな暮らしを享受する人々がいます。
グレットが向かった城は、この国の中枢、王が住まう居城でもある王城でした。
私も、後から来た兄と共に、その王城へと向かっている最中です。
「とにかく無事でよかった。」
「ですが・・・ワイバーンを倒したことで、私が魔物であることを隠せなくなりました。」
「そんなことは些細な事さ、マイシスター。グレットと俺のかわいい天使のリリちゃんが生きて、無事でいること・・・これ以上に幸福なことはないよ。」
「・・・」
「大丈夫、離れ離れになんてならないさ。リリちゃんがグレットの命を守ったように、今度はグレットがリリちゃんの立場を守るよ。」
「大丈夫でしょうか?」
「あいつならきっと大丈夫・・・それに、駄目だったとしても。」
言葉を切った兄の顔を見上げれば、兄は私と目を合わせてニカっと笑いました。
「俺がまとめて連れ去ってやるさ!ドーナルド家の絆を、甘く見るなよリリちゃん。」
「ドーナルド家の・・・絆。」
「そう、俺とグレットは主従の絆に、友情という絆・・・そして、俺とリリちゃんは、兄弟っていう、家族の絆だ。」
「・・・お兄ちゃん。」
「兄は、妹を全力で守る生き物だからな・・・期待していてくれ。」
「・・・正直、お兄ちゃんにどうこうできる力はないと思っていますが、その気持ちはうれしいです。ありがとう、お兄ちゃん。」
「マイシスターが正直すぎて、俺のハートはブレイク寸前だが・・・頑張るよ。」
おどけたように言う兄が面白くて、私は少しだけ笑ってしまいました。
不安が消えたわけではありませんが、なんだか大丈夫なような気がします。それに・・・
「もし、駄目だったとしても・・・」
「ん?」
「私がどうにかします。先祖の過ちを繰り返したとしても、私はグレットと・・・お兄ちゃんとも、離れたくないですから。」
「リリちゃん・・・」
私に、マギと先祖について教えてくれたリスフィは、きっと過ちを繰り返さないようにと、私に話したのでしょう。ですが、私は自分が守りたいものを守るために、この力と知識を使いましょう。
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