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36 訴え
しおりを挟む期待していたわけではありませんが・・・兄に思うことは一つです。
本当に、何の力もないんだなと。
「リリっ!」
遠くなる兄の声。叫び暴れる兄を、城の騎士が押さえつけています。そして、そんな城の騎士は私の左右にもいて、私を拘束していました。
想定の・・・範囲内ですね。魔物だと分かれば、もてなし方も変わるのは普通でしょう。ですが、もう少し頑張れなかったのでしょうか、兄よ。
「離せ!リリは、ドーナルド家の娘だぞ!」
「魔物に魅入られたか。牢にでも入れておけ。」
「リリ!」
なんだか鈍い音が聞こえて、私は振り返りました。すると、兄が力なく床に横たわっています。どうやら、騎士に殴られて気絶した様子・・・駆け寄りたいですが、それは許してくれないでしょう。
あぁ、面倒な。
苛立ちがつのります。ですが、まだ状況がはっきりとしていない段階で、この騎士を殺すわけにもいかないでしょう。
「お兄ちゃん・・・」
「さっさと歩け、魔物が。」
強い力で押されたので、よろめきましたが、騎士たちはそんな私をかまうことなく、私を引きずるように先を急ぎます。
魔物というだけで、この扱いですか。
いいえ、向こうの世界でもこれが普通だったではないですか。忘れていました・・・人間としての生活に慣れていたので、こんな扱いをされることを忘れていました。
騎士に連れていかれた場所は、なんと玉座の間でした。牢屋ではないのですね・・・あぁ、牢に入れられるのは兄の方でした。
玉座の間には、一番奥に王族らしき人物が並んで座っています。出入り口から王族が並び座る場所までは赤い絨毯が敷かれていて、その左右に見物人のように人だかりができています。
王族たちの前の赤い絨毯の上には、左右に踏み台のようなものが置かれていました。その上には机も置かれていて、すでにどちらにも人が立っています。
両者はこちらに別の感情を持った瞳を向けました。
決意の中に優しさを込めた瞳で・・・グレットが。
厳しい瞳の中に、憎悪を込めた瞳で・・・
「マーレイフィ・スタードリア・・・」
彼と対面する形で、彼の婚約者が立っていました。
「揃ったな。では、それぞれの主張を聞かせてもらおうか。」
頭に王冠をのせた王らしき人物が、まずはマーレイフィ様を指名します。どうやら、これは裁判のようなもので、訴えを起こしたのがマーレイフィ様のようです。
間違いなく、私が魔物であることと関係があるのでしょうね。
長々と話をされるマーレイフィ様の訴えを簡潔に述べるのなら・・・
「私の婚約者、グレット・アルソートは、本日魔物と判明した、リリ・ドーナルドに魅了されています。おそらく、リリ・ドーナルドは、魅了魔法にたけたサキュバスであると、推測いたしました。」
どこからツッコめばいいのでしょう・・・マーレイフィ様、あなたはまさか、婚約者を訴えるおつもりなのでしょうか?
それにしても、サキュバスですか。確かに、サキュバスならとっくの昔にグレットを魅了して、私なしでは生きてはいけないようにしますが・・・冗談は置いといて、私が危険な魔物であることを訴えるのはわかります。
ですが、なぜグレットが魅了されていると、彼まで貶めるようなことを?
その答えは、すぐに知ることができました。
「ですから、グレット様が魔物をかばうような発言をなさるのです。諸悪の根源はそこの魔物、リリ・ドーナルド!この魔物さえ処分すれば、丸く収まります。」
あぁ、グレットを守るためだったのですか。驚きました・・・可愛さ余って憎さ百倍的な感じで、私もろともグレットを処分させる気かと。
処分ですか。
向こうの世界でも、人間に危害を食えた魔物は処分されますが、まだ私は人間に危害を加えていません。この世界は理不尽ですね。
「魅了・・・ですか。」
「黙れ。」
嘲笑するように呟けば、騎士に叱責されました。
魅了を使う魔物が、騎士にこんな態度を取らせると思いますか?魅了を使う魔物なら、ここにいる人間すべてを魅了してやりますよ・・・それも面白いですね。
ですが、今はまだ動くときではありません。
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