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10 哀れな騎士と悪の令嬢
しおりを挟むひとまずここにいてと、雪の降り積もる廃墟に置いていかれたシュネーは、寒さに震えた。
金の髪に青い瞳、手入れされた白魚のような肌を見れば、彼女が上流階級のものであることは明白だ。しかし、彼女の傍にはだれ一人おらず、たった一人の護衛も今、傍を離れていた。
「寒い・・・」
そう訴えたところで、何も状況は変わらない。シュネーは、護衛の荷物をじっと見て、そこにあるだろう水筒の存在を思い浮かべた。はしたないとは思ったが、シュネーはこの寒さに耐えきれず、護衛の荷を解いて水筒を探した。
「・・・あれ?」
すぐに見つかるだろうと思われた水筒はなかなか見つからず、焦りが出た。寒さも我慢できず、シュネーは荷をひっくり返して中身をすべて出す。
「・・・え?」
タオルに巻かれた水筒が転がる。タオルに巻かれていたため、気づかなかっただけだったのだ。しかし、シュネーは水筒など見ていない。その視線の先にあるのは、一本のナイフ。
「これは・・・」
護衛の荷にナイフがあったとしても不思議ではない。護衛の腰に剣があるのと同じだ。しかし、シュネーはそのナイフに頭が揺さぶられた。
このナイフは、私を殺すためのもの?
そう思ったのは、シュネーが前世の記憶、ユキノの記憶を思い出したからだ。ユキノとシュネーは同じで、あざを持っている。そして、キリトと今そばを離れている護衛ネーベルも同じだ。ユキノとキリトと同じように、シュネーとネーベルは、出会えば死ぬ運命のあざを持っている。
そこから考えられることは、シュネーがネーベルに殺されるということだ。ユキノがキリトに殺されたように。
「ケタケタケタ!どうだ、前世ってやつを思い出した心境は?さぞ愉快だろう。」
背後から聞こえた声は、ユキノもシュネーも慣れた悪魔の声だった。シュネーの顔が険しくなる。
「悪魔・・・」
「いやー、前世に忠告したにもかかわらずあっさり殺されたものだからな、今回は早めに忠告してやろうかと思ったのだ。優しいだろう?ケタケタケタ!」
「・・・残酷よ。」
思い出すのなら、ネーベルと出会ってすぐに思い出したかった。今日は一緒に生きられる最終日で、シュネーはネーベルを大切に思ってしまっているのだ。
このナイフを隠せば、ネーベルはあきらめてくれるかしら?いいえ、腰に凪いだ剣があるわ。ナイフにこだわる必要はないわね。
「ケタケタケタ!お前、あいつに自分を殺すことを諦めてもらおうと考えているのか?無駄だ。あいつは生きている限り、今日が終わればすぐにお前を殺す。」
「・・・もう、すぐね。」
正確な時間はわからないが、日が落ちてからだいぶ時間がたった。日付が変わるのも、もうすぐだろう。
シュネーは、貴族令嬢として生を受けた。それが今回枷となり、最後に自由をと家を飛び出してみれば、追われる羽目になってしまったのだ。今も追手が迫ってきたため、護衛であるネーベルが撃退している。
「今回はゆっくりできなかったわ。ずっと追手に見つからないように潜んで、逃げ回ってばかり。楽しい思いでなんて、ほとんどできなかったわ。でも・・・」
それでも、ネーベルのことが好きになる程度には、いい思い出ができた。シュネーは、その思い出ができただけでも満足で、死ぬ覚悟も決まっていた。けれど・・・ユキノの記憶を手に入れたシュネーは、覚悟が揺らいだ。
「いいことを教えてやろうか。」
悪魔が言うことは、ろくなことではない。でも、それでも耳を傾けてしまうのが、悪魔の言葉だ。
「お前、生きたいか?」
「・・・」
死にたくない。だから、頷いた。覚悟はできていたはずなのに、ユキノの記憶がよみがえったせいか、シュネーは弱くなっていた。
「なら、あいつを殺せ。そうすれば、明日明後日で死ぬことはないぜ。なぜなら、そのあざはお前たちに死をもたらすものじゃねーからだ。これは前にも話したよな?」
「・・・ネーベルを殺せって、できるわけがない。」
殺したくないとか、そういう意味もあるが、実質無理な話だ。ネーベルは貴族令嬢の護衛を務めるほど剣の腕がたつ。逆に守られる側のシュネーが、どうやって彼を殺せるというのか?
「誰にだって隙はある。隙を作ればいいんだよ。そして、凶器はそのナイフを使えばいい。」
悪魔がナイフを手に取って、そのナイフに炎をまとわせた。そして、炎が消えると、ナイフの装飾が変わっていて、どくろをモチーフにしたものとなっていた。
「このナイフなら、非力なお前でも鍛え抜かれたあいつの胸板を貫けるだろう。さ、そのナイフをドレスの下に隠せ。殺された復讐を、生きたいという願いを叶えて見せろよ。」
「・・・復讐・・・」
ユキノの時の感情がシュネーに襲い掛かる。でも、それは復讐なんて言う激情ではなく、ただの悲しみ。それと、なんでという疑問が浮かぶだけだった。
死にたくなかった。殺してほしくなかった。
「・・・本当に、ネーベルを殺せば生きられるの?」
「本当だ。これについて、嘘はつかないぜ。」
「・・・そう。」
シュネーは、まがまがしいどくろのナイフを手に取った。
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