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11 彼は、成し遂げる
しおりを挟む「シュネー様、遅くなり申し訳ございません。」
「・・・!いいえ、ご苦労様。」
わずかに返り血を浴びたネーベルが、シュネーの隣に座る。
血のにおいが鼻につき、自然と震えるシュネー。
「本当は、このようなところではなく、もっと別の場所へお連れしたかったのですが・・・追手の勢いが強くなっており、ここを動くことは危険かと思われます。」
「・・・そう。なら、ここが私たちの墓場になるのね。」
「シュネー様・・・」
こちらをいたわる様子のネーベルが、キリトの顔と重なったシュネー。こんな顔をするのに、なぜ殺そうとするのか問い詰めたかったが、それを聞くことはあきらめた。
隙を作らなければ。
落ち着かないシュネーを見て、ネーベルは水筒を出して紅茶を注いだ。
「どうぞ。リラックスできるよう、ハーブティーを用意しました。・・・少し冷めてしまっていますが。」
「ありがとう。」
シュネーは紅茶を受け取り、その香りを楽しんで心を一度落ち着けることにした。
ネーベルは自分用にも紅茶を注いで、そのまま飲んだ。
「ネーベル、私のわがままに付き合わせてしまって、ごめんなさい。」
「シュネー様?わがままですか・・・私は自分から望んでシュネー様のそばにいます。謝罪は不要です。」
「家族にも友人にも上司にも恵まれ、愛されているあなたが・・・優しいのは当然よね。私は、それに甘えてしまった。優しくしてくれる人なんて、いなかったから。みんな私ではなく家を見ていて、親は子ではなく道具として見ていて・・・」
「私が優しいと、おっしゃるんですね。」
シュネーの言葉をさえぎって、ネーベルは笑った。いつも優しく笑う彼の笑いに、自嘲が混ざった気がした。
「ネーベル?」
「紅茶が覚めてしまいますよ、シュネー様。」
言われて、シュネーは紅茶を飲んだ。少し冷めていたが、おいしい紅茶。少し苦みがあるのは、茶葉が多かったのだろうか?それとも、今のシュネーの心境ゆえか。
「シュネー様、私は優しくなどありません。あなたに群がる虫と同じなのです。私は、私のためだけに、あなたのそばにいる。」
「・・・」
もう、殺されるのだろうとシュネーは感じた。だから、シュネーはネーベルの袖を引っ張った。
「シュネー様?」
「もうすぐ、私たちは死ぬのね。」
「・・・はい。」
「なら、お互い正直になりましょう。私は・・・愛が欲しい。あなたの望みは何?」
「・・・私も同じです、シュネー様。ただ、僕はあなたの愛だけが欲しい。」
大きな手が、シュネーの手に重なる。温かいその手は、追手を何人も殺した恐ろしい手だが、シュネーにとってはここまで自身を守り抜いた頼りになる手。
でも、それはここまでだ。この手は、シュネーの命すら奪うのだ。
「よろしいでしょうか、シュネー様。」
「許すも何も、私が望んだことよ?」
「・・・シュネー様!」
シュネーの腕を引き寄せ、ネーベルはシュネーを抱きしめた。
どちらの心も満たされる。だからこそ、シュネーは震えていた。自分の命を脅かすその手に、満たされてしまう。それがとても恐ろしかった。
「シュネー様?」
「ネーベル・・・私は、あなたのことが・・・好きよ。」
「!?」
シュネーは自分からネーベルに顔を近づけて、空いた手でネーベルの体を引き寄せ、唇を重ねた。
抵抗なくそれを受け入れたネーベルだったが、衝撃が襲って目を見開く。
シュネーの空いていない方の手には、どくろのナイフがあり、そのナイフはネーベルの胸を貫いた。
温かい唇が離れる。ネーベルが感じるものは、背中の痛みだけだった。
「ごほっ!」
吐き出した血が、すぐ近くのシュネーの顔にかかる。
「ネーベル・・・いいえ、キリト・・・なんで、あなたは私を殺そうとするの?」
「しゅ・・・ユキノ・・・さ、ん?」
「私、死にたくないの・・・ごめんなさい。」
シュネーは、ネーベルから体を離して、見下ろした。
「・・・そう・・・」
ふっと笑って、ネーベルはそのまま倒れこんだ。
「君に殺されるというのも・・・いいね。・・・むな、し、かった・・・魂の・・・ない、君を・・・愛し、ても・・・はっ・・・」
息を吐いて、そのまま動かなくなったネーベルを見て、シュネーの目から涙があふれた。
「なんで・・・これで、死ななくて済むのに。」
次々とあふれる涙。死の危険を回避したというのに、その心は悲しみに沈むばかり。
「ケタケタケタ!それは決まっているだろう。お前は生きたいわけじゃなかったからだよ。」
忌まわしい声が聞こえるが、シュネーはそれを呆然と見るだけだった。
「お前はな、そいつと生きたかった。そいつがいなければ、別に生きたいってわけじゃなかったんだよ。そんなことにも気づかないのか。」
「・・・っ。」
「そんなお前に、プレゼントだ。」
涙を流すシュネーの頭に、別の誰かの人生が流れ込む。
「・・・嘘でしょ。」
「嘘じゃねーよ。」
涙が引っ込み、シュネーの目には後悔の色が浮かぶ。
シュネーは殺されても仕方がなかった。なぜなら、悪魔と契約したのは、スノー。つまり、悪魔にもてあそばれている原因は、シュネーにあった。シュネーの前世の行いが、前世の悪魔との契約が、今を生み出している。
「すべて、私が望みを叶えた代償だったのね。」
「それだけじゃないさ。」
聞かない方がいいと思うのに、シュネーは悪魔の言葉に耳を傾ける。
「あいつがお前を殺したのは、我にお前の魂が食われないためだったんだよ。」
「・・・何それ。」
「あいつが、最初のあいつが言ったんだよ。お前の魂を食うのだけはやめてくれと。だから我は言った。お前があいつを殺すのなら、我に愉快な劇を見せてくれるなら、食うのはやめてやる。ただし、失敗すれば2人が死んだときにその魂はいただくと。」
やっとシュネーは理解した。彼の愛を疑うことはなかったが、なぜ彼が自身を殺すのか理解できなかった。でも、それは愛ゆえだった。
「あいつは、永遠にお前を殺し続けることを選んだ。お前を見捨てれば、最初の人生で死んで、何もかも忘れて次の人生を歩めたのに、馬鹿な奴だよな。」
悪魔の笑い声が、シュネーの頭に響いて頭に痛みが走る。
「あぁ・・・あぁっ!」
立っていられなくなったシュネーは、冷たい床に座り込んだ。
「ネーベル・・・目を、開けて。」
「ケタケタケタ!無駄だ、そいつは死んだ。お前が殺した。」
「嫌だ。」
シュネーは頭をかきむしった。
死んだネーベルに手を伸ばす。身勝手にも、自分を殺して欲しいと、救ってほしいと手を伸ばした。
しかし、死んだネーベルはそれにこたえることなく、シュネーの手は途中で力を失って冷たい地面に降ろされた。
「・・・あ・・・れ?」
ぐらりと揺れた気がして、そのまま冷たい床に転がるシュネーは、同じように転がるネーベルを見つめた。
「ネーベル?」
手を伸ばそうとするシュネーだが、その手を動かすことはできなかった。目を開いていることすら億劫で、何が起こったのか気づいた。
ネーベルの用意した紅茶。なぜか苦かった紅茶に、きっと毒が入っていたのだろう。
「あ、りが・・・とう。」
礼を言えば、ネーベルが微笑んだ気がした。そのまま、シュネーはその命を落とす。
2人の死は、悪の令嬢と哀れな騎士の物語として語られた。
誰にも愛されない令嬢を哀れに思った騎士が優しく接するが、令嬢は周りから愛される騎士に嫉妬し、騎士の優しさにつけこみ逃亡劇を繰り広げ騎士の評判を落とし、最後に騎士と無理心中してその命まで落とさせた。
こうして、シュネーとネーベルの人生は終わった。
「めでたしめでたし。今回もお前の望み通りってわけだな。」
一人残った悪魔は、2つの魂がまた別の世界へ向かうのを見送った。
「・・・さぞかし、うまいんだろうな。」
2つの魂に思いをはせて、悪魔はその魂を追って、世界を渡る。
「そろそろ、終わりにするか。」
誰にも届かない悪魔のつぶやきが、2人の運命を決めた。
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