恩人召喚国の救世主に

製作する黒猫

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2 ギフト

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 カンリに用意された部屋は、ホテルのスイートルームのように豪華な部屋で、目がちかちかとしてしまい、慣れるまでは気後れする部屋だ。

 一晩そこで過ごして、目を開けてかなり驚いたカンリだったが、すぐに立て直して朝食を食べ終わるころにはすっかりとこの待遇を受け入れていた。



 豪華な部屋、世話をするメイド、始終そばにいる執事。異世界に来たという事実だけでも受け入れがたいというのに、今までとは全く違う生活。しかし、それをすべてまるっと受け入れて、部屋を訪れたパグラント兄弟も受け入れた。



「初めまして・・・アスレーン・パグラント、です。」

「私の弟の一人だよ。あとから妹も来るから紹介させて欲しい。昨日あの場にいたから、姿は見たと思うけど・・・」

「・・・」

 黙って話を聞くだけのカンリの様子に苦笑して、ケイレンスは本題に入った。



「さて、今日はいろいろと君に説明するといったけど、その前に君の能力を鑑定させてもらうよ。頼んだよ、レン。」

「うん・・・」

 おそるおそる、アスレーンはカンリの前に立って、カンリの目を見つめた。アスレーンの銀の髪の間からのぞく赤と青のオッドアイの瞳がしっかりとカンリを捕らえたとき、カンリはゾクリと悪寒を感じた。



「っ!」

 カンリはアスレーンを蹴り飛ばし、アスレーンはとっさに腕でガードしたがそのまま吹き飛ばされる。そんなアスレーンの背後に回って、彼を受け止めたケイレンスだが、勢いを受け止めきれず、一緒に吹き飛ばされて壁にぶつかって床に倒れこんだ。



 パリン。

 アスレーンの腕輪にはまっていた石が音を立てて床に散らばる。



「み、身代わり石が・・・嘘・・・」

「どういうつもりかな、ツキガミさん・・・?」

「良くない感じがした。一体何をしたの?」

 鋭い目を向けるケイレンスに、冷めた目で見降ろすカンリ。そんな2人を、おどおどとアスレーンが止める。



「兄さん、やめて・・・きっと敏感な人なんだよ。」

「レン、何を甘いことを・・・殺されかけたというのに。」

「でも、僕は生きているから、落ち着いて・・・えーと、カンリさんも落ち着いて。君を害するつもりはないんだ。」

「なんで、私の名前を・・・!」

 アスレーンが、名乗っていないカンリの名前を口にしたことで、カンリは一歩さがって警戒を強めた。そんなカンリとの距離をゆっくりと詰めるアスレーン。



「鑑定するって言った・・・よね?僕のギフトは、相手の名前やギフトが分かる・・・ものなんだ、・・・怯えないで・・・」

 悲しそうに眉根を寄せて、カンリが怖がらないようにとぎこちない笑みを浮かべて、手を差し出した。その手は震えていて情けないことこの上なかったが、カンリの警戒心を解くのには最適だった。



「・・・ギフトって?」

 アスレーンの手は取らなかったが、警戒心は解いて彼に質問する。



「ギフトは、神様に与えられた力のこと、だよ。持っている人はわずかで、そんな力を持つ人物は国に大事にされる。そんな力を、君は3つも持っていた。」

「3つも!?」

 驚きの声を上げたのはケイレンスだ。カンリにはいまいちピンとこない話で、へーといった感想しか浮かばなかった。



「うん、自動回復、身体強化、制限解除の3つだよ。身体強化以外は、聞いたことがない能力だよ・・・」

「自動回復・・・」

 ケイレンスはそう呟きながら、昨日のカンリのことを思い出した。血に汚れているのに傷のない手。あれは、この自動回復のおかげだろう。



「自動回復は、おそらく常時治癒魔法が使われているような状態なんだろうね。しっかりと確かめる必要はあるけど。身体能力と一緒に調べることにしよう。どの程度使えるか把握する必要がある。」

「この2つは想像できるからいいけど、最後の制限解除ってなんだろう?カンリさんはわかる?」

「・・・知らない。」

 ギフトという存在すら今知ったというのに、なぜその効果について知っていると思うのか?

 それよりも、どんなものかわからないギフトの話を終えて、早くこの世界のことなどを聞かせてもらいたいものだと、カンリはため息をついた。



 そんなカンリのため息は2人には届かず、しばらくカンリのギフトについての話で2人は盛り上がっていた。





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