恩人召喚国の救世主に

製作する黒猫

文字の大きさ
15 / 41

15 天秤

しおりを挟む


 天秤は、迷いなく傾いた。その結果、カンリは動き出す。

 カンリの意思をくんだトカゲが、紫の肌の男の乗騎のワイバーンに襲い掛かる。一回り大きいトカゲは楽々とワイバーンを抑え込み、2匹して下降していく。



 カンリの天秤は、人間に傾いたのだ。



「くっ!なぜだ、なぜ・・・」

「簡単な話、私は人間側についていたほうが得だと思ったから。できれば、山本君は魔族側について欲しかったけど、残念。」

「意味が分からない!こちらに来れば戦わなくてもいいのに!」

「・・・本当にそうかな?人間が嘘をついているように、あなたたちも嘘をついているんじゃない?ま、どっちでもいいけど。」

 ばっと、トカゲがワイバーンから離れた。ワイバーンは主を守りながら地面に衝突する。

 土ぼこりが舞う中、ゆっくりと地面に着地したトカゲから飛び降りたカンリは、槍を構えて前方を見据える。



 それにしても残念だ。山本君が魔族側につけば、心置きなく殺せるのに。

 別に、カンリは山本を殺したいとは思っていない。だが、山本の考えが分からず、前の世界でのことを考えると、機会があれば消しておきたい相手なのだ。



「俺と戦う気?俺は、もと人間なのに・・・」

「・・・」

「わかっているのかい?戦うっていうのは命を奪うこと、俺の命を奪うということは、人間を殺したに等しいことなんだよ?」

 土ぼこりが収まり始め、相手に人影が見える。人影は剣を振り上げていた。カンリはそれを背後に飛び去ることで回避し、次に敵の右側へと接近し槍を突くように振う。



 がきんっ。槍は剣ではじかれ、敵は素早い動きでカンリに斬りかかる。



「騎士でもない君が、人を殺せるわけがない。」

「・・・」

 動きを止めたカンリの体を、大剣が袈裟斬りする。血しぶきが舞い、地面に大きな血のシミを作る。



「こちらへ来ればよかったのに。」

「・・・槍、私には使いにくいみたい。」

「は?」

 キンっと音を鳴らして抜いたのは、敵の剣。腰に下がったもう一つの剣を手に取ったカンリは、そのまま気の抜けた様子の敵に向かって突き刺す。

 寸前、避けた敵だったが、カンリは素早い動きで距離をもう一度詰めて、その剣を今度は確実に敵に突き刺した。



「ぐぅっ・・・!?」

「あぁ、これも使いにくい。」

「な、なにを・・・」

 血を流しながらも平然と敵に剣を突き立てたカンリを、敵は恐ろしい者でも見るように睨みつけ、その体を突き飛ばそうとした。だが、遅かった。



 ばしゃっ・・・敵の視界が真っ赤に染まる。首を切られたのだ。

 カンリの手には、敵から奪った剣ではなく、懐に忍ばせていた短剣があった。



 敵は、首を抑えて止血し、力を振り絞ってカンリを突き飛ばした。あっけなくカンリは突き飛ばされて地面に転がる。



「・・・あれ?」

 起き上がることができないカンリに、怯えた瞳の敵は剣を振り下ろした。



 ガキンっ!

 敵の剣が魔法の結界によってはじかれる。



「ツキガミ!」

 ばさりと音を立てて降りてきたのはヒックテイン。その手に剣はないが、すでに作り出した炎の玉を敵に放った。



「くっ・・・」

「はっ!」

 ヒックテインの炎の玉をよけた敵に、背後から現れたランズが足を狙って剣を振う。鮮血が舞った。腹、首、足に傷を負った敵は耐えきれず、その場に崩れ落ちる。



「ファイヤーランス!」

 ヒックテインは、上空に作り出した炎の槍を敵に向かって放った。それを転がってよけようとした敵に向かって、ランズが剣を投げてそれを止める。

 すぐそばに突き刺さった剣に動きを止めた敵に向かって、炎の槍が突き刺さり燃え上がった。



「うあぁぁあああああっ!」

 バタバタと暴れる敵をランズに任せ、ヒックテインはカンリを抱き上げた。



「少し我慢していろ。傷はふさがったか?」

「・・・わからない。」

 だるそうに答えるカンリにことわって、ヒックテインは袈裟斬りにされた部分の服をめくる。傷はほとんどふさがっているがまだ完全ではない。



「なぜこんな無茶を・・・」

「・・・」

「悪かった、俺のせいだ・・・守り切れなかった。」

「そんなことないよ。・・・別に、あなたが私を守る義務はない。」

「・・・っ!」

 苦しそうな顔をするヒックテインだが、カンリにはなぜそんな顔をするのかわからず、ヒックテインも怪我をしたのかと思って流した。



「ガルルっ!」

 背後から威嚇音が聞こえ振り返るヒックテイン、そこには敵の頭を踏み砕くドラゴン・・・トカゲの姿があった。



 バンッバンッバンッ。何度も何度も敵の頭がある場所を叩く。敵の頭はすでに原型がなくただ赤黒いしみが地面にあるようにしか見えない。

 苦い顔をしてヒックテインはトカゲに話しかける。



「もう死んでいる。帰るぞ、お前のご主人様は重傷だ。」

 ダンっ。ひときわ大きな音で地面を叩くトカゲ。若干地面にクレーターができているような気がしたが、気のせいだろうと目をそらし自身の愛馬に乗る。



「ランズ、そいつの身元が分かるものを探して取っておいてくれ。俺はツキガミを運ぶ。」

「・・・失礼ですが、ヒックテイン様にお願いしても大丈夫なのでしょうか?私が離れている間ツキガミ様をお願いして、この有様です。」

「それは悪いと思っている。だが、問答している暇はない。」

「そうですね。どうかよろしくお願いいたします、今度こそは。」

「・・・絶対守る。」

 ヒックテインは愛馬のグリフォンに乗って、戦線を離脱した。



 後方に着くころには、噛んだ唇が切れて血を流していたヒックテインだったが、無事カンリを送り届けることができた。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...