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15 天秤
しおりを挟む天秤は、迷いなく傾いた。その結果、カンリは動き出す。
カンリの意思をくんだトカゲが、紫の肌の男の乗騎のワイバーンに襲い掛かる。一回り大きいトカゲは楽々とワイバーンを抑え込み、2匹して下降していく。
カンリの天秤は、人間に傾いたのだ。
「くっ!なぜだ、なぜ・・・」
「簡単な話、私は人間側についていたほうが得だと思ったから。できれば、山本君は魔族側について欲しかったけど、残念。」
「意味が分からない!こちらに来れば戦わなくてもいいのに!」
「・・・本当にそうかな?人間が嘘をついているように、あなたたちも嘘をついているんじゃない?ま、どっちでもいいけど。」
ばっと、トカゲがワイバーンから離れた。ワイバーンは主を守りながら地面に衝突する。
土ぼこりが舞う中、ゆっくりと地面に着地したトカゲから飛び降りたカンリは、槍を構えて前方を見据える。
それにしても残念だ。山本君が魔族側につけば、心置きなく殺せるのに。
別に、カンリは山本を殺したいとは思っていない。だが、山本の考えが分からず、前の世界でのことを考えると、機会があれば消しておきたい相手なのだ。
「俺と戦う気?俺は、もと人間なのに・・・」
「・・・」
「わかっているのかい?戦うっていうのは命を奪うこと、俺の命を奪うということは、人間を殺したに等しいことなんだよ?」
土ぼこりが収まり始め、相手に人影が見える。人影は剣を振り上げていた。カンリはそれを背後に飛び去ることで回避し、次に敵の右側へと接近し槍を突くように振う。
がきんっ。槍は剣ではじかれ、敵は素早い動きでカンリに斬りかかる。
「騎士でもない君が、人を殺せるわけがない。」
「・・・」
動きを止めたカンリの体を、大剣が袈裟斬りする。血しぶきが舞い、地面に大きな血のシミを作る。
「こちらへ来ればよかったのに。」
「・・・槍、私には使いにくいみたい。」
「は?」
キンっと音を鳴らして抜いたのは、敵の剣。腰に下がったもう一つの剣を手に取ったカンリは、そのまま気の抜けた様子の敵に向かって突き刺す。
寸前、避けた敵だったが、カンリは素早い動きで距離をもう一度詰めて、その剣を今度は確実に敵に突き刺した。
「ぐぅっ・・・!?」
「あぁ、これも使いにくい。」
「な、なにを・・・」
血を流しながらも平然と敵に剣を突き立てたカンリを、敵は恐ろしい者でも見るように睨みつけ、その体を突き飛ばそうとした。だが、遅かった。
ばしゃっ・・・敵の視界が真っ赤に染まる。首を切られたのだ。
カンリの手には、敵から奪った剣ではなく、懐に忍ばせていた短剣があった。
敵は、首を抑えて止血し、力を振り絞ってカンリを突き飛ばした。あっけなくカンリは突き飛ばされて地面に転がる。
「・・・あれ?」
起き上がることができないカンリに、怯えた瞳の敵は剣を振り下ろした。
ガキンっ!
敵の剣が魔法の結界によってはじかれる。
「ツキガミ!」
ばさりと音を立てて降りてきたのはヒックテイン。その手に剣はないが、すでに作り出した炎の玉を敵に放った。
「くっ・・・」
「はっ!」
ヒックテインの炎の玉をよけた敵に、背後から現れたランズが足を狙って剣を振う。鮮血が舞った。腹、首、足に傷を負った敵は耐えきれず、その場に崩れ落ちる。
「ファイヤーランス!」
ヒックテインは、上空に作り出した炎の槍を敵に向かって放った。それを転がってよけようとした敵に向かって、ランズが剣を投げてそれを止める。
すぐそばに突き刺さった剣に動きを止めた敵に向かって、炎の槍が突き刺さり燃え上がった。
「うあぁぁあああああっ!」
バタバタと暴れる敵をランズに任せ、ヒックテインはカンリを抱き上げた。
「少し我慢していろ。傷はふさがったか?」
「・・・わからない。」
だるそうに答えるカンリにことわって、ヒックテインは袈裟斬りにされた部分の服をめくる。傷はほとんどふさがっているがまだ完全ではない。
「なぜこんな無茶を・・・」
「・・・」
「悪かった、俺のせいだ・・・守り切れなかった。」
「そんなことないよ。・・・別に、あなたが私を守る義務はない。」
「・・・っ!」
苦しそうな顔をするヒックテインだが、カンリにはなぜそんな顔をするのかわからず、ヒックテインも怪我をしたのかと思って流した。
「ガルルっ!」
背後から威嚇音が聞こえ振り返るヒックテイン、そこには敵の頭を踏み砕くドラゴン・・・トカゲの姿があった。
バンッバンッバンッ。何度も何度も敵の頭がある場所を叩く。敵の頭はすでに原型がなくただ赤黒いしみが地面にあるようにしか見えない。
苦い顔をしてヒックテインはトカゲに話しかける。
「もう死んでいる。帰るぞ、お前のご主人様は重傷だ。」
ダンっ。ひときわ大きな音で地面を叩くトカゲ。若干地面にクレーターができているような気がしたが、気のせいだろうと目をそらし自身の愛馬に乗る。
「ランズ、そいつの身元が分かるものを探して取っておいてくれ。俺はツキガミを運ぶ。」
「・・・失礼ですが、ヒックテイン様にお願いしても大丈夫なのでしょうか?私が離れている間ツキガミ様をお願いして、この有様です。」
「それは悪いと思っている。だが、問答している暇はない。」
「そうですね。どうかよろしくお願いいたします、今度こそは。」
「・・・絶対守る。」
ヒックテインは愛馬のグリフォンに乗って、戦線を離脱した。
後方に着くころには、噛んだ唇が切れて血を流していたヒックテインだったが、無事カンリを送り届けることができた。
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