恩人召喚国の救世主に

製作する黒猫

文字の大きさ
17 / 41

17 ただの親友

しおりを挟む

 風が吹いて、カンリの髪を舞い上げる。

 トカゲの背に乗って、カンリは再び戦場へとやってきた。戦場をふかんできる山の上で、人と魔族の衝突を見る。



 カンリが療養して3日後、魔族陣営に一人の少女が加わった。彼女は紫色の肌ではなく、人間と同じ肌の色。召喚されたギフト持ちの可能背があると聞き、カンリは戦場に戻ることに決めたのだ。



「かなちゃん・・・」

 親友の名を呟いて、懐かしい姿を戦場から探す。しかし、見当たらない。



「・・・もう少ししたら現れるかな。そしたら、確かめられる。」

「きゅうっ!」

「誰か来た?」

 トカゲの鳴き声に反応して上を見上げれば、ワイバーンが降り立つところだった。ワイバーン、トカゲより小さいが似たような容姿をしている、グリフォンより格上の乗騎だ。

 そんなワイバーンに乗っているのは数えるほど。最初にワイバーンを見たのは、人型の魔族と戦ったときだが、その魔族は死んだ。乗騎も抵抗したため討伐されたと聞く。

 次に見たのは、ケイレンスの乗騎を見せてもらったときだ。



降り立ったワイバーンの背から、予想通りケイレンスが飛び降りてカンリに微笑みを浮かべた。



「探し人は見つかったかい?」

「・・・まだ。」

「だろうね。彼女が現れるのはもう少し後だろうから。でも、本当に彼女を説得できるの?明らかに人とは違う魔族に味方をしている人間だよ?」

「真実に脚色して、同情を誘ったんでしょう、魔族は・・・例えば、もとは人間だったけど・・・という事実を話し、人体実験の末魔族となったという嘘をついて・・・ってところじゃない?」

「だとすると、私達はその人体実験の証拠を隠滅しようとしている悪ってところかな?」

「おそらくね。」

「それで、それは嘘だといって説得するの?」

「いいえ。・・・どんな説得をしたのかわからないけど、戦争を正当化するには自分たちを被害者にして話すと思うの。大概が、相手の方が戦争を仕掛けていると吹き込むだろうから、これ以上侵略しないのならこちらは戦う意思はないって話すよ。」

「なるほど・・・まぁ、うまくいくといいけど・・・とりあえず任せるよ。」

「・・・別に、私に任せなくていいんだけど。私の知り合いだったなら・・・あー・・・」

「どうかした?」

 頭が痛いというように頭を手で押さえるカンリ。知り合いだった場合、人によっては説得が難しいことに気づいたのだ。



「場合によっては、ケイレンスが説得した方がいいかもしれない。ちょっと、私に恨みを持っているだろう人も・・・というか、知り合いの場合ほとんど恨みを持たれている可能性があるから。」

「・・・何をやったの?」

 若干引き気味に聞くケイレンスに、カンリは言葉を濁して答えなかった。



「自業自得だけど、かなりひどいことをしたよ。私の知り合いで、死を確認できていないかつ、死にそうになっていた人は・・・4人・・・もしくは5人かな・・・あの後飛び降りたかも、いや、そんな勇気あいつにはないか。」

「魔物にでも襲われたの?君たちの世界は平和だという話を聞いていたけど、そうでもないんだね。」

「・・・平和だよ。ただ、平和だと人は死にたくなるのかもね。いや、人を死に追い詰めたくなるほど、暇になるのかもしれない。」

 カンリがいた世界は、戦争がなかった。生活ができないという人もなく、困窮を苦に自殺する人なども歴史の話だった。だが、歴史上最多の自殺者数を出す、それがカンリの時代だ。



 同じ学校の同学年2、3人は自殺する者が出るのが当たり前。理由の多くが、いじめによるものだった。いじめと言っても色々あり、クラスや仲間内でいじられ過ぎて・・・だとか、勉強ができない生徒に先生が宿題を多く出したり居残りをさせたりするものだとか・・・遺書に書くことは千差万別。だが、すべてがいじめと処理される。



 遺書に名前が書かれていたら、それはいじめっ子の名前と判断される。

 そして、名前を書かれたいじめっ子の末路も同じようなものが多い。うまくやれなければ、いじめっ子の人権はなくなり、いじめっ子には何をやってもいいという風潮がある。

 後はご想像通りだ。



 思考がそれたと、カンリは頭を振ってケイレンスに話してもいい範囲を考え、口にする。



「私が知っている人がこの世界に来たのなら・・・それが私の予想する4人だとすれば、山本君派と私派に分かれる・・・3、1でね。」

「・・・ツキガミさん、それはもう、グラールに頼んだ方がいいと思うよ。うん、そうしよう・・・」

「本当にそう思うの、ケイレンス?山本君は、あなたの同類だと私は思っているんだけど?」

「冗談だよ。冗談だけど、その言い方はひどいな。まるで私に問題があるような言い方に聞こえるのだけど?」

「・・・山本君は、たぶん私の敵にまわるよ。」

「そうかい。だけど彼は愚かには見えない・・・わざわざ君を害そうとは考えないだろう。」

「・・・そうでもないと思うけど。」

 カンリはケイレンスから目を離して、崖の方へと一歩踏み出した。下から吹き付ける風がカンリの髪を舞い上げる。カンリはそっと目を閉じた。



―――飛び降りて見なよ。



 今でも、はっきりと聞こえる山本の声に、ギリっと奥歯をかみしめるカンリ。



「確か、グラールはいじめっ子だったけ?」

「・・・うん。」

「なら、君は?グラールが敵に回るだろう君は、何だったんだい?」

「・・・」

 カンリは何者なのか?そんなことを聞かれて、カンリは口元をゆがめて笑うしかなかった。



「何者なんて、言われるほど大層なものでもないよ。何もできなかった、ただの・・・親友。あぁ、もう私の味方なんていないのかもしれない。」

 はっきりと、カンリにはその時の情景が浮かんだ。



 日が少し傾いた屋上、見慣れた親友の背中が柵の向こう側に見えて、消えた。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)

スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」 唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。 四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。 絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。 「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」 明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは? 虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...