恩人召喚国の救世主に

製作する黒猫

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 月神完利は、成績優秀、運動神経抜群、生活態度に問題のない、非の打ち所がない生徒だった。ただ、物静かな彼女はクラスの中心などにはならず、同じように文武両道で先生の覚えもめでたい山本が、クラスのリーダー的存在だった。

 しかし、そんな山本には裏の顔がある。それは、クラスの一部の人間、山本の取り巻きと標的、それからカンリだけが知っていた。



 山本は、休み時間に本ばかりを読んでいる物静かな少女、小沼花菜を標的としたいじめを楽しんでいた。そして、カナの親友であるカンリはそれを知ることになったのだ。



先生に相談はできない。なぜなら、山本は先生の目から見て、いい生徒だからだ。クラスメイトに助けを求めることもできない。なぜなら、山本は同級生から見て完璧な好青年だったからだ。

 屋上に呼び出されたカナ。心配して後を追いかけるカンリの手には、スマホが握られている。



 キィと、かすかな音を立てて開いた鉄製の扉の先、男子生徒3人に囲まれた親友を見つけたカンリは、スマホのカメラを4人に向けた。



「ねぇ、僕さアレを見てみたいんだよね。ほら、三回周ってワンとなけってやつ・・・実際やってるの見たことないからさ・・・・小沼さん、やってみせてよ。」

 楽しげな山本の声。両脇にいる男子は下卑た笑みを浮かべている。



「・・・」

 カンリは、スマホを下ろしてそっと扉を閉める。しんと静まり返ると、奥歯をかみしめた。



 証拠を残したとして、どれだけの人が味方に付いてくれるだろうか?山本を貶めたところで、親友の名誉が傷つくだけかもしれない。



「・・・どうすれば、助けられる?」

 その答えは出ず、今日もそのままカンリは帰路についた。







 そんな日が何日か過ぎて、遂に終わりが訪れる。



 いつものように、屋上に呼び出された親友を追って、そっと屋上の扉を開けたカンリ。すると、いつもと同じように山本の楽しげな声が届いた。



「飛び降りて見なよ。」

「え・・・」

「飛び降りろって言ってるんだよ、聞こえなかったのか?」

「やまちゃんを待たせるんじゃねーよ。」

「お願い、小沼さん。僕、人が飛び降りるところ見てみたいんだよね。」

 飛び降りる?

 一体どういうことかと思考停止したカンリの瞳に、柵の向こう側へ行ってしまった親友が映る。そして、唐突に消えた。



「あ・・・」

 止める暇もなく、状況を理解したときにはすでに手遅れで、カンリの親友は屋上から飛び降りてしまった。







 満点の答案も、体育祭での栄光も、先生の誉め言葉も・・・カンリには何の力にもならなかった。無力だったのだ。

 いじめということに関して、カンリが親友を助けるすべはもっていなかった。



 いざという時助けなかった、助けられなかったカンリを、親友は恨んでいることだろう。今でもカンリは親友だと思っているが、どんな顔をすればいいのかわからないという気持ちもある。だが、それでももう一度会いたいという思いが、今カンリを生かしていた。







「・・・ケイレンス。」

「どうかした?」

「もしも・・・私が親友と再会できたのなら、結果がどうだったとしても・・・そうだね、例え親友に罵倒されたって・・・」

「本当に何をしたの・・・?」

「あなたたちを恩人だって、認めるよ。」

「・・・認めていなかったんだね、わかっていたけど。たとえば、認めてくれたら何が変わるのかな?」

「うーん・・・様呼びで呼ぶよ。ケイレンス様って。」

「・・・呼び方はそのままでいいよ。いまさら様付って、違和感しかないから。」

「そう?」

「うん。たぶん、みんなそういうだろうね。ま、私達は恩人だと思ってもらってもそうでなくてもどちらでもいいよ。一緒に戦ってくれるなら、どう思われようが関係ない。」

「そうだと思った。」

 ふっと笑って、カンリはケイレンスの青い瞳をとらえた。



「最初にあなたを見た時、山本君がいるって思ったけど・・・あなたは彼みたいに嫌な感じがしないし、実際彼とは違った。だから・・・ごめんね。」

「やっとわかってくれたようでうれしいよ、と言いたいところだけど・・・嫌な感じがしないのは、ツキガミさんが私の敵ではないから、というのが本当のところかな?腹黒ってよく言われるし・・・兄弟にね。」

「そっか・・・なら、敵に回らないように気を付けることにする。」

「そうして欲しい。私も、君みたいな厄介なギフト持ちを敵に回したくはない。そういえば、グラールの鑑定をしたけど・・・彼は一つしかギフトをもっていなかったよ?召喚した人間が特別なのかと思っていたけど、君が特別なのかもね。」

「・・・今までに、何度も同じようなことを言われたよ。君は他とは違う、特別な存在なんだって・・・でも。」

 そんな特別なカンリは、親友一人助けることができなかった。そんな特別に何の意味があるのだろうか?答えは、「ない」だ。



 特別なことに、意味はない。



「私も同じだよ。」

「あなたが?」

「失礼だな、君は。私は生まれた時から特別だったよ。王子という役割が決まっていた。そして、成長してからは頭の出来が違う、覚えがいいといわれ・・・ギフトだって持っていた。兄弟もいるけど、私は飛びぬけて優秀で、周囲からずっと期待されている。」

「自慢?」

「そうじゃないことは、君もわかっているだろう?自慢というなら、これは不幸自慢だね。」

 肩をすくめるケイレンスが面白くて、カンリは声を上げて笑った。すぐそばに戦場があるというのに、このあたりだけは穏やかな時間が流れていた。



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