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40 孤立
しおりを挟む生まれた時、両親に挨拶をして、気味悪がられた。
母が車にひかれそうになった時、車を止めた。
絶対に助からないと思われていた父の母の病気を治す方法を伝えたら、医者に睨まれた。
人間とは違う体、知識。それは、人間として生きてく上では不要で、逆にペナルティを貸す行為であった。
だから、それに気づいた人間ではないカンリは、人間として生きるために己に制限を課し、そのことを忘れた。
はにかむように挨拶をすれば微笑まれた。
自分から死のうとしている母を止めなければ、母を亡くしたことを哀れまれた。
怪我をした友達に対して、布を巻くだけの手当をしたら、よくやったと褒められた。
その友達は、3日間熱で苦しんだけど。
制限したカンリは、ちょっと頭がいいだけの人間になった。気味悪がられることもなく、親には誇られて、先生に褒められて、同級生から羨望のまなざしを送られる。
満点の答案、数々の表彰状・・・それに何の意味があるかもわからず、カンリはそれを手にし続ける。
手にして当然の紙切れを集めたって、浮かぶ感情はない。
それでも、人間として生きていたカンリに、人間として生きるだけでは困難な場所へ連れていかれるという事態が起きた。
そこで、カンリが忘れた本当のカンリは、カンリにギフトという形で身を守れる手段を与える。
ギフトとして与えれば、人間としてまだ生きられるから。
自然治癒、身体強化も、たった一つのギフトでしかない。制限解除のギフトの限定的なものが、自然治癒と身体強化だった。
だが、それだけでは生きられないほど、人間としての感情を捨てなければ克服できないトラウマを持ってしまったカンリは、人間を捨てるに等しい選択をした。
治癒能力、身体能力、知識。全てが人間を超越し存在。
だが、そんなカンリでも、わからないことがある。自分がどうやって生きればいいのかわからなかった。
望めば大抵のことが叶う身では、望むことなどない。
だから、カンリは人間として制限を課していたころの自分に沿って生きることにした。
そんな、人間の自分が後悔すると、目の前の同じ人間が言うのならば、そうなのだろう。
作り笑いを浮かべた山本と、一度は親友と呼んでいた小沼花菜。カンリは表情を変えることなく頷いた。
「いいよ。そこまで言うのなら、その話に乗ろう。」
「君ならそう言ってくれると思ったよ。ツキガミさん。」
「カンリ・・・」
こうして、山本の思惑通りにカンリと小沼花菜が山本の仲間となり、人類は最大戦力を失うことになった。
「待って!ツキガミ!」
「パグラントの第二王子か・・・」
「・・・ヒックテイン。」
グリフォンに乗ったヒックテインが、カンリの行く手を阻む。鋭い視線はカンリに向けられており、山本たち魔族側に無防備に背中を向けているわけだが、魔族側は動かない。ただ、山本が呆れた笑みを浮かべるだけだ。
「俺たちを、裏切るのか?ツキガミ!」
「・・・時によっては。」
「!・・・俺たちは・・・いや、パグラント王国は、お前の命を救った、いわば恩人だ。それでも、お前は裏切るというのか?恩を捨てて!」
「・・・・・」
「答えろ!ツキガミ!」
叫ぶヒックテインに答えたのは、山本だった。
「君等はその子の恩人なんて、大層なものじゃないってこと、気づかないの?」
「・・・命を救っただろう・・・それが、恩人以外の何になるんだ。」
「命を助けられることが、彼女の望みだと思うのかい?その子は、自分からその命を手放したのに。」
「・・・ツキガミ・・・お前、パグラント王国で幸せを一つだって感じたことがないって・・・この世界に来てよかったって、感じることが一つもなかったっていうのか?違うだろう!」
「お前は、笑っていた・・・俺は、何度もお前の笑顔を見た。俺は忘れていない、今のお前は忘れてしまったのかもしれないが、お前はこの世界で笑っていた!それは、生きていてよかったって、助けてもらえてよかったってことじゃないのか!?ツキガミ!」
「黙れ、お人形さん。」
「なっ!?」
意外といいことを言う奴だと、危機感を感じた山本はヒックテインを黙らせることにした。
「君たちだって、今のツキガミさんの状態をわかっているよね?そして、なぜそうなったのか・・・そうなった原因が誰かなんて、僕には簡単すぎる問題だ。ねぇ、君は彼女に何をしたんだい?パグラント王国の王子様?」
「くっ・・・それは・・・」
カンリが人間を捨てるきっかけを作ったヒックテインは、そのことに対してカンリに負い目を持っている。たとえそれが、ケイレンスの指示だったとしても、実行したのはヒックテインだ。
唇をかみしめるヒックテインに、カンリは無感情に目を向けて視線をそらした。すっと、ヒックテインの横を通り過ぎる。
「大切だよ、あなたたちは・・・」
「え?」
振り返ったヒックテインだが、カンリは振り返らず山本たち魔族側もヒックテインの方を見てはいない。ただ前を向いて遠くに去ろうとしている彼らを、ヒックテインはもう止めなかった。
「・・・ツキガミ・・・」
カンリが抜けたことにより、人間側は大混乱に陥った。カンリの暗殺計画などを立てていた者たちも、報復を恐れパグラント王国の責任を追及して気をまぎらわせたりなど、すべての責任はパグラント王国にあるという風潮が流れ、周囲が一気に敵になってしまった。
そんな状況下でヒックテインはケイレンスに呼び出され、叱責を覚悟で会いに行ったヒックテインは、ケイレンスの顔を見て言葉を失う。
美しい傷一つなかった白い肌に、痛々しい打ち身・・・殴られたような赤黒い跡がついていた。右頬にその後があり、右目は赤く充血している。
「ケイ、どうしたその顔!?」
「父上にちょっとね。それよりも、お前たちはこの城から一刻も早く脱出するんだ。ツキガミさんが何を考えているにしろ、この国にある未来は暗いものだ。」
「どういうことだよ?ツキガミは、俺たちのことを大切だと言っていたし、悪いことにはならないはずだ。」
「最初に行っただろう?ツキガミさんは関係がない。この国を貶めるのは、人間だ。魔族に勝てるところを勝てなくなった・・・ツキガミさんを失った責任をすべてパグラントに押し付けて、人間側は結束を高めようとするだろう。我が国は、戦争で失ったモノを取り戻そうとする各国のいい餌食になる。だから、レンとプレイナを連れて逃げてくれ。」
「お前は、どうするんだよ?」
「君たちが逃げる時間を稼ぐ。ランズ・・・ラナーリに隠れ家を用意させた。そこで落ち合おう。」
ランズは、男装をしてカンリの執事をしていた、ケイレンスの叔母に当たる人物だ。魔法の才能と剣の才能両方を持ち、城で認められた人物である。ただ、男装好きの女好きという部分がある、扱いにくい人物であったが・・・優秀なことに変わりはない。
「・・・本当に、お前も合流するのか、ケイ?」
「そのつもりだよ。だから、私がいない間、2人のことを頼んだよ、いいね?」
「・・・わかった。2人は?」
「話はしてある。プレイナの部屋で待機しているよ。」
「・・・」
「ヒックテイン、行くんだ。」
「・・・わかった。お前がいないと、俺たちだけじゃ絶対だめだから・・・絶対合流しろよ、ケイ。」
「全く、お兄ちゃん離れのできない・・・可愛いい弟には困ったものだね。」
にこにこと嬉しそうに笑うケイレンスにすがるようなまなざしを向けて、思いを振り切るように体の向きを変えて部屋をでるヒックテイン。
ヒックテインが出て行ったあと、もう一度だけケイレンスは笑みを浮かべて、愛らしい兄弟たちの顔を浮かべた。
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